表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン攻略は海兵隊魂で!  作者: 乃木重獏久
第6章 廃坑の悪夢
97/228

第14話 天女降臨

 近くで、パラパラと砂粒が落ちる音がする。右に頭を向けると、すぐ脇の岩壁にめり込む魔物の鎌が見えた。結局、マーサの攻撃では、左鎌は斬り落とせなかったのだろう。そして、その打撃力は健在のようで、突進してきた際に僕の頭を潰そうとしたものの、幸運にも狙いは外れたらしい。


 瞬時に恐怖が襲ってきた僕は、眼前の魔物に拳銃弾を撃ち込まんと、銃把に左手を添えようとした。だが、できなかった。左腕が動かないのだ。


 眼球だけを動すと、左に何かが見えた。肩に、鎌を失った魔物の右腕が刺さっている。いや。よく見ると、刺さってはいないようだ。だが、強く押さえつけてくるその腕に、身動きがとれない。ただでさえ打撃で痛む左肩が熱い。


 やむを得ず、右手だけで拳銃を撃つ。ライトに浮かぶ魔物の口に向かって。頼もしい咆哮が、三度(みたび)響く。だが銃弾は、禍々しい大顎を一切傷つけていなかった。それは当然だろう。いくら、.45口径が強力だとはいえ、小銃弾でさえ破壊できない甲殻に(かな)うはずがない。


 左手が使えないこの状況では、マガジンの交換は非常に難しいだろう。つまり、あと五発しか撃てない。ならば、どうするか。


 そうだ。先ほどの銃撃で、魔物の右目を破壊できた。もしかしたら目玉なら、拳銃弾でもダメージを与えられるのではないか。


 銃のライトを、魔物の目玉の辺りに向ける。潰れた右目は、付け根の部分とともに斬り落とされたようで既に無く、斬り口からは白い体液が(こぼ)れていた。その横で、奇妙な色を放つ左目が、じっと僕を見ている。


 魔物の目玉に向けて引き金を絞ろうとしたその時、僕の顔面に何かが降ってきた。(くさ)い液体に、両目がしみる。拳銃を握ったまま、右袖で(ぬぐ)うが、視界は白くボンヤリ濁る。


 魔物の切創から、体液が垂れてきたようだ。更にゴシゴシとそれを拭い、あらためて拳銃を振り上げると、先程までは無かったものがそこにあった。


 いつの間にか、壁にめり込んでいた鎌が、本来あるべき場所に収まっていた。そしてそれは、小刻みに震えている。まるで、膨大な力を蓄えつつあるかのように。その上にある、僕を見つめる目玉に、突然、炎が(とも)ったかに見えた。


『まずいわ! コイツ、アンタの頭を狙ってる! 逃げて、ノエル! 早く!!』


 ソニアが叫ぶが、左肩を押さえられて身動きのとれないこの状況で、どうやって逃げろというのか。


 僕は、ヘルメットで頭部を守ろうと首をもたげた。そして、銃を持ったままの右腕で、その上からカバーする。だがそれは、気休めに過ぎない。岩をも砕くあの鎌の直撃に、腕やヘルメットが耐えられるはずがないだろう。よしんば耐えられたとしても、その強烈な衝撃で、頸椎が粉砕される。どう足掻(あが)こうと、確実な死だけが待っているのだ。僕は、その時を待つしかなかった。


 悪い、ポグラン。お前を地上へ連れて帰れない。

 マーサも済まない。僕の勝手で、こんな事態に巻き込んでしまって。

 カリーニャ、ごめん。君のお父さんとの約束、守れなかったよ。

 そして、ソニア。僕はここで死ぬ。こんな暗い廃坑に置き去りにすることになって、ごめんよ。本当に、ごめん……。


 耳に響く大きな音と伝わる衝撃。僕の人生は、あっけなく終わった。


 霞目(かすみめ)に何かが動く。炎が照らしているかのように、辺りが明るい。人は死ぬと、光に包まれながら天界へ導かれると聞く。これから僕の魂は、天使達とともに空へ向かうのだ。心地よい温もりが、僕を包み込んでいく。


 再び響く打撃音と衝撃。なんだ? また、鎌で殴られたのか? 僕は、もう死んでいるというのに。どうやら、死体になっても殴りたいほど、魔物は僕のことが憎いらしい。


 橙色に明るい視界の隅で、再び何かが動いた。天使が来たのだろうかと思い、目を凝らす。


 滲む視界に、馬に(また)がる女性の姿が霞んで見える。その周りを、浮かぶ炎の玉がゆっくり回っていた。あれは、天女だろうか。あの天馬に一緒に乗って、僕は天界へ向かうのか。


 天女が何かを手に構えると、また音が大きく辺りに響いた。だが、今度は衝撃は感じない。何が起こっている? あの天女は何をしているのだ。


『魔物が怯んだ! 今よ! ここから抜け出すの!!』


 ソニアの声が耳に響く。僕は死んでいないのか? 彼女の声に辺りを見回すと、鎌は未だに畳まれたままだ。そして、押さえつけられていた左肩からは、魔物の腕が外れている。


 今だ! 僕は体を左に捻り、その場から転がり出る。そして、魔物を振り返ると、予想もしない光景がそこにあった。


 岩壁に頭を突っ込ませた体勢の魔物を取り囲むように、幾つもの火の塊が浮遊している。そして、魔物の側頭部の甲殻には、三本の棒が刺さって炎を上げていた。

 突如、空気を切り裂く音とともに、青白い光に包まれた矢が甲殻に突き刺さり、発火する。


「ノエル! これで分かったでしょ? わたしだって、役に立つんだから!!」


 背後からの声に思わず振り向くと、そこに見えたのは、ロバに(また)がるエルフの姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきましてありがとうございます。
よろしければ ブックマーク評価ご感想 をいただけると幸いです。


面白いと思ったらクリックしてもらえると、作者が喜びます。

小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=969809138&size=135

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ