第8話 野獣達の狂宴
(注)本話は作中に残酷描写、暴力描写および性的表現があります。
繁る木々の枝に何度も頭をぶつけそうになりながら、暗い森の底を駆け走る。腕時計を見ると、野営地を発ってから一時間と呼ばれるひと目盛り分の針が進んでいた。途中の小さな沢で途切れた足跡に翻弄され、かなり時間を食ってしまったようだ。
人攫いになかなか追いつかない事実に焦りながらも、慎重に足跡を追っていると、森の前方に、ぼんやりと黄色く浮かぶ空間が見えてきた。
通常の暗視モードに切り替えると、少し開かれた空間が目に入る。そしてそこから、数人の男達の声が小さく聞こえてくる。カリーニャについて何かヒントになることは言っていないか確認するため、ソニアが音声増幅の魔法を使う。
繁みに身を隠しながら様子を窺うと、森の中に切り拓かれた広場の中央に大きく火が焚かれていた。その広場の周囲には、深々とした森を拒絶する隔壁のごとく、ぐるりと大型馬車の車両が連なっている。
ゴーグルの望遠モードで見ると、焚き火の側には、下卑た表情を浮かべた、下半身に何も纏っていない男が一人、腕を組んで立っていた。そして、そのすぐ側に立つ、太った全裸の大男の足もとに、なにも身に付けていない女性が横たわっている。
「おい、他にヤってねえ奴はいねえか。ヤった奴でもヤリ足りねえ奴がいたら、ヤってもいいぜ」
焚き火脇に立つ腕組み姿の男が、少し離れたところで酒を飲んでいる、やはり半裸の小汚い男達に声を掛ける。その様子から見ると、あの男はリーダーなのかもしれない。
「二回ヤったし、俺はいいわ」
「俺は四回だぜ、すげえだろ。でも、今夜はもう飽きたわ。もういらねえ」
「おめえら淡泊な野郎ばっかりだな。俺なんざ五回だぜ。でもさすがに、もう勃たねえよ」
下半身剥き出しの男達は、口々に己の絶倫さを主張しながらも、もう行為をする気が無いと答えるばかりだった。
盗賊と思われる男達の足下に横たわる全裸の女性。既に気力も体力も尊厳も全て奪われたかのように、男達の放った体液を全身に纏って、ただ地面に転がっている。だが、僅かに上下する乳房の動きが、辛うじて命の灯が消えていないことを示していた。
「でも、コイツいい女だからよ、このまま飼っておきたいところだよな。そう思わねえか」
「そいつは駄目だって、いつも言ってるだろうが。俺もそうしてえところだがよ、お頭に禁じられている以上、それは出来ねえ。女は使い終わったら始末して、欲しくなったらまた奪うって決まりだろ。それが嫌だったら、お頭に直接言うんだな」
「分かってるよ。ちょっと言ってみただけじゃねえか。さっきも一人潰したんだし、別に始末するのが嫌って訳じゃねえよ。むしろ潰すのは好きなくらいだぜ。ただ単に、次にヤれる女が、コイツほどの上玉とは限らねえのが残念だってことだよ」
太った大男とリーダー格の男が、不穏な会話を楽しそうに交わしていた。
「くそっ、あいつら。好き放題しやがって」
『待って、ノエル。気持ちは分かるけど、まだ飛び出さないで。カリーニャの位置がまだ掴めないの。 それに敵勢力と敵陣を分析してからでないと……』
「分かったから、早くしてくれっ!」
僕はついソニアに乱暴な口をきいたが、彼女は何も言わずに敵の状況を観察し続ける。
そのとき、今まで動きのなかった女が、力なく身を起こそうと体を動かす。そして、か細い声を発した。
「お、お願いです……。私はどうなってもいいから、娘にだけは酷いことをしないで……」
「だから、ガキには興味ねえって言ってるじゃねえか! それに、さっきのは事故みたいなもんだろうが!!」
そう言って、リーダー格の男が力任せに女の腹を蹴り上げると、男達に注ぎ込まれた体液を股間から噴き出しながら、糸の切れた操り人形のように、女は地面を転がった。
「おうおう、汚え汁を撒き散らしやがって。おめえら、コイツの中に出し過ぎなんだよ。小便までする奴もいるし。しっかしこれじゃあ、さすがにナニをぶち込む気にはなれんわな。と言うわけで、街道周りの連中には悪いが、今からコイツ潰すぞ。おい、おまえ。潰すのが好きなんだろ。させてやるよ」
「そいつは、ありがてえ。今回はこれでいきたいと思ってたんだ」
そう言って、太った男が全裸のままで広場奥の小さな小屋に姿を消したかと思うと、すぐに松明と壺を手にして戻ってくる。壺を抱えたまま、焚き火で松明に火をつけると、地面に転がる女に近づく。
そして、手元の壺を傾け、何かの液体を女に注ぎ始めると、女の体は次第に艶めかしいツヤを放ちはじめた。
男は女の全身に液体を注ぎ終わると、壺を地面に置いた。と、壺が傾き中身がこぼれる。少し慌てた様子で、男は壺に手を添えるが、今度は松明を落とす。その途端、地面にこぼれた液体が燃え上がり、男は驚いたように壺を持ったまま飛び退いた。その様子を見て、リーダー格とギャラリーが、どっと沸く。
「何やってんだ、おめえ」
「女が焼ける前に、おめえが焼け死ぬんじゃねえか」
「うるせえ、黙って踊り焼きができあがるのを待ちやがれ、このクソ共! 余計な事を言う奴にゃ、女の肉、やらねえからな!!」
どうやら、あの液体は引火性の高い油のようだ。まさか、あの女性を生きたまま焼いて殺すつもりなのか。そして、その肉を食うのか!?
そう思い至った瞬間、幼い頃に住んでいた村を襲った盗賊団の非道な行いが脳裏をよぎる。しかし、今は余計なことに気を取られている場合ではない。僕は気を取り直し、目前の敵に全ての意識を集中した。




