9.おや? エルフの村長さんが神妙な面持ちをしているのだが!?
黒煙があたり一帯に立ち込める。
上空から飛来した一撃が大地を抉り取る。
放たれた火球の軌道を辿ると魔法を行使した男がシャーウッドの村の入口で右手を突き出し立っていた。
「よしっ! やはり俺の魔法は衰えてなどなかった。賊を一撃で仕留めたぞ。さぁリーフィア早くこっちに来るんだ」
40半ばの壮年の男が両手を広げてリーフィアを迎え入れようとする。
しかしリーフィアが向かったのは男の元ではなく、火球の着弾位置だった。
「リーフィア!?」
「お父さんのバカ!! なんてことするのよ!! 大嫌い!!」
「大嫌い!? なんだどういうことだ!?」
「私のお友達にいきなり魔法を撃ち込むなんて! もし怪我でもしてたら一生口聞いてあげないんだから」
「一生口聞いてくれない!? しかも人間の友達って何を考えてるんだ!? って、リーフィア!? 無視するな。もう口聞いてくれない感じか!? ねぇ、リーフィア!? リーフィアさん!?」
わめく実の父を無視してシルフの元へ走っていく。
それを追いかける父。
その間にリーフィアにいろいろと話しかけるがリーフィアはツーンッとした様子で無視する。
それでも粘り強く話しかける父にリーフィアははぁーっとため息を吐いた後、
「もう、うるさいなぁ。だからシルフさんとファルちゃんに怪我がなかったら口聞いてあげるよ」
「そんな!? 怪我がなかったらって……お父さん一応3翼だしわりと本気で魔法撃っちゃったからもう消炭だと思うんだけど……」
「まあ、お父さん程度の魔法なら大丈夫だと思うけど」
その時、焼ける大地の匂いと視界を覆う黒い靄のなかにライトレッドの輝きがみえた。
「ふぅ、危なかった。『炎壁』便利な魔法だね」
そこには炎の壁に守られ、ファルに覆いかぶさるようにして息を吐くシルフの姿があった。
「大丈夫ですか! 私の父が本当にすいません」
「いえ、これくらいの魔法なら全然大丈夫ですよ。ね? ファル」
「ええ、全然大丈夫です。今はどちらかというと私のこの格好にシルフが覆いかぶさってる方が大変な状況です。かなりえっちです」
「ふぇ!?」
シルフが視線をやると、そこには自分が渡したボロボロのローブが艶めかしくはだけ、頬を上気させているファルがいた。
ローブの間から除く白く細い生足と、ローブの穴の位置がずれて双丘の膨らんだ部分が外気に晒されあと少しずれてしまったらかなり大変なことになってしまう。
そんな状況だった。
「ご、ごめんファル! そういうつもりは全くなかったんだ」
「大丈夫ですよシルフ。私達兄妹なんですから、なんならもう少ししっかりみてみますか?」
慌てふためくシルフを楽しむようにそう言って、紅い舌をチロリとみせ狼狽するシルフをしばらく見つめた後、満足したようにクスリと笑い「冗談ですよ」と言ってローブをただす。
そんな二人のやり取りを耳まで赤くして呆然と見つめていたリーフィアだがファルと目が合うとハッと気を取り戻す。
「そんなことよりお父さん早く二人に謝って!!」
「謝るってお父さんよく状況が理解できないんだけど! 何に対して謝ればいいの!? 年甲斐もなく若い二人のやり取りに頬染めちゃったこと? それとも火球撃っちゃったこと!?」
「両方です! この二人はデビルボアに襲われてる私を助けてくれたのよ!!」
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―――――
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「本当にすいませんでした」
シャーウッドの村の中でも一回り大きな家の居間でリーフィアさんのお父さんが土下座している。
「いや、あの本当にやめてください。エルフ族の方々の事情はわかってるので。いきなり娘さんが人間と一緒に村に来たらそうなりますよ」
「いえ、ただの人間だったら流石にいきなり火球は打ち込まなかったのですが、見た目が半裸の痴女と重度の中二病のヤバイ奴に見えたのでことは一刻を争うのではないかと、ぐへぇッ!」
「なんでもありませんよシルフさん」
なんかすごいことを言われたきがするんだけど。
ただリーフィアさんがお父さんを思い切りどついたため最後まで聞こえなかった。
「なにはともかく助かりました。食料も頂いちゃって、それにファルに衣服までくれるなんて」
「そんなのは当然です。洋服は私のおさがりですけど、そろそろ着替え終わるんじゃないでしょうか? ファルさんどうですかぁ?」
リーフィアさんが二階で着替えているファルに声をかける。
「大丈夫ですよォ~」
すると少し舌ったらずのファルの間延びした声が返ってくる。
そして階段を降りる音が聞こえる。
「わぁ! かわいい! とても似合ってますよファルさん」
降りてきたファルは後ろ手に組んで少し恥ずかしそうにしながら僕らを見る。
ファルが着ているのはエルフ族の子がよく着ているゆったりとしたベージュ色のドレスとローブの中間を意識したシルエットのもので所々にラメが散らされている。
僕は思わずファルに見惚れてしまう。
すると無言の僕を見て心配になったのかファルが不安そうに
「どうですかシルフ? 似合ってますか?」
と聞いてくる。
いけないこういう時紳士はちゃんと褒めてあげないと。
でもあまりに可愛くて言葉が出てこなかったなんて恥ずかしすぎて言えないし。
僕が頭を悩ませていると場に変な空気が流れた。
「ふぇ~兄妹なのに愛が深いです! 私もあんなお兄ちゃんが欲しかったです!」
「シルフちょっとこの場でそれは恥ずかしいです」
「いや、男たるもの心に言葉を燻らせるだけじゃ気持ちは伝わらない。お父さんはいいと思うぞ」
どうやら思ったことがそのまま言葉に出てしまっていたらしい。
僕があまりの恥ずかしさに頭を抱えていると、唐突にお父さんがゴホンと咳をし真剣な表情で僕を見つめた。
なんださっきまでとはまるで雰囲気が違う。
なんだろう何かすごく大事な話が始まりそうな予感がする。
「シルフ君。ファルさん。まずは改めて娘のリーフィアを助けていただきありがとうございます。一人の父シャロン・ハーランドとして御礼申し上げます」
今までとはまるで違う神妙な面持ちで感謝の言葉をくれる。
「そして君たちに私がこんなことを頼むのは無礼千万、非常識も極まりないことだと承知でデビルボアを倒したその腕を見込んでシャーウッドの村長としてお願いしたい。もしよければこの村を救ってもらえないだろうか?」
そう言って深く深く頭を下げた。
この村は何か重大な問題を抱えているようだ。
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