5.おや? 僕の生きる世界が変わったようなのだが!?
「世界を救うってそもそも君は何者なの?
なんでそんなことを知ってるの」
「あ、そういえば私まだ自己紹介してませんでしたね。
私の名前は、え~とそうですねぇ。あっファルでお願います。
これがかわいい気がします!」
ものすごい可愛い笑顔で嬉しそうに両手を叩いてそう言った。
でも今のリアクションをみるに100パーセント
言い切れることがある。
「それ偽名でしょ! なんで自分の名前を言うのに
そんな悩まないといけないの!?」
「そんな細かいことはいいじゃないですか。
私の本当の名前はもっと仲良くなった時に教えてあげますから」
「なんで名前を教えて貰うのにそんな工程
ふまなきゃいけないの!?」
僕の言葉に顎に手を当てかわいらしくう~んと唸った後
「それよりも私がなんでそんなことを知ってるかのほうが
気になるんじゃないですか?」
そう言った。
この世界の絶対権力者である王族を当たり前のように否定して、
悪魔紋から突如出てきたまるで天使のような見た目の美少女。
そんなの気にならないわけがない。
「確かに気になります。君は何者なの?」
僕が真剣にファルさんを見つめそういうとファルさんは
僕の目を見つめ返し待ってましたと言わんばかりの
勢いで口を開いた。
「そうですよね。気になりますよね!
私の正体はあなたの天使紋に宿る天使です!」
そうかファルさんは僕の天使紋に宿る天使なんだ。
そうか天使? ん?天使?
天使ってあの背中に翼をつけて頭に光の環をのっけてる
架空のあの天使?
いやそんな生き物がこの世にいるわけない。
どうやら聞き間違えてしまったらしい。
「ん? ごめん。良く聞こえなかったからもう一回いいかな?」
そうだファルさんはおとぎ話にでてくる天使のようにかわいい。
それは間違いない。
でも天使なんて生き物がこの世にいないことも間違いない。
だからきっと今の言葉は聞き間違いに違いない。
もう一度よく耳を澄ますんだ。
「ではもう一度。私の正体はあなたの天使紋に宿る天使です!!」
「聞き間違えじゃなかった!?」
さっき以上に大きな声ではきはきとファルさんは自分を
天使だといってのけた。
「あれ? もしかしてシルフさん天使に会うのは初めてですか?」
「当たり前でしょ! 天使なんて幻想の産物!!」
なんだファルさんってちょっと、いやだいぶ天然が入っている
人なの!?
急に自分が天使だなんてさっきまでの話も本当に真実なのか
疑わしくなってきた気がしてしまう。
そんな僕の動揺をよそにファルさんは何事かを考えこむように
首を捻ったあと、納得したように一人頷いた。
「なるほどです。一から説明しましょう。まずシルフさん。
天使は幻想の産物なんかじゃありませんよ。
今までシルフさんが天使を見たことなかったのは単純に
近くにいなかったか、見たことはあるけど天使だと
思っていなかったかです」
ファルさんは真剣な顔で僕を見つめ言葉を発した。
どうやらこの天使のくだりは冗談なんかで言っているわけでは
ないらしい。
だったら僕も真剣にファルさんの話を聞くべきだろう。
「それはどういう意味なの?」
「そのまんまの意味ですよ。天使が現界するには天使紋の力を
十二分に引き出す実力が必要です」
「天使紋の力を完全に操るってこと」
「まあそれに近いことができる必要があります。シルフさんの
周りにそういう人がいなかったのではないですか」
それが一つ目の理由です。と付け加えて
ファルさんは僕を上目遣いで見つめる。
「二つ目の理由ですがこれもいたって単純です。
ファルさんは私を天使だって信じてないですよね。
それはなんでですか?」
「だって急に目の前に天使が現れるなんて
ありえないじゃないですか?」
僕の言葉にファルさんはうんうんと頷く。
「それも理由の一つですね。でももっと決定的な理由が
あるんじゃないですか?」
「それにファルさんの見た目があまりにも人間だから。
……あっ!?」
「気づきましたね。そうです。天使は翼を隠して人間とほとんど
変わらない姿になることができるのです」
僕に背中を見せて楽しそうにその場ではねて見せる。
まるでそこには本来なら翼があるとでもいうように。
「まあ私の場合はあえて人間の姿をしているというより
この姿にしかなれないのですけどね。
そう考えたら天使の心当たりはありませんか?」
その言葉を聞いていくつかの噂話が頭によぎった。
最果ての辺境地に存在し天使が住まうとされる
《天使村》の話し。
宗教国家を統べる若き女王様の背中に翼が生えたという話し。
そしてこの国で最強と言われている第一王子の傍に突如現れ
いつも行動を共にする絶世の美女の話し。
天使という存在がいるだなんて考えもしなかったから
今まではゴシップ好きが流したとるに足らない
噂話だと思っていた。
でももし仮に天使が実在するというのならばそれら全てに
現実味が帯びてくるし、天使に関する噂話は今の3つの
他にもたくさんある。
―――それは噂話の一つのジャンルとしては多すぎるほどに。
そもそも僕自身、天使の存在を信じているわけじゃない。
でも確かにファルさんは僕の悪魔紋から現れた。
到底普通の人間が出来る所業じゃない。
それにリリーカトラスの女王様も第一王子も6翼の紋を
使いこなすとされる実力者でファルさんの話と一致する。
思わずゴクリと生唾を飲み込む。
「ほんとにファルさんは天使なの?」
「ええ、そうです。信じてくれますか?」
満面の笑顔でこちらを見つめてくる。
正直にいうとまだ天使の存在を心の底から信じたわけじゃない。
でも今日の僕には常識では考えられないいろいろなことが
起こりすぎた。
ファルさんに出会ったこともそうだし、悪魔紋の発現も
全属性の魔法を使ったこともそうだ。
そんな非現実が存在するならば天使だって存在するかも
しれない。
でもそんなことよりなにより
「信じるよ。だってファルさんが僕のことを助けてくれたんでしょ?」
エジル王子のあの一撃で僕は間違いなく死んでいた。
でもあの時僕のことを紅い光が包んでくれた。
きっとあの光が僕を守り教会からこの場所へ運んでくれた。
だから僕はまだこうして心臓を鳴らすことができている。
そしてあの光の目の覚めるような紅色はファルさんが現れた時の
紅色と同じだった。
「あはは、バレちゃいました?」
僕の言葉にファルさんは少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「ええ、あの時は必死だったのでまだシルフさんと繋
がりきれてないのに力を無理やり使っちゃいました。
なので今は天使の力がほとんど使えないんです」
てへへと笑いながらも申し訳なさそうに言葉を並べる。
「だからほんとはシルフさんに私の羽を見てもらいたかったんです
けど今はできないんです。私の翼はすごい綺麗なんですよ?」
そう言ったあとファルさんは照れくさそうにウインクしながら
僕を見た。
「今のままでもファルさんは十分綺麗ですよ」
そんな姿を見てただ思っていたことがそのまま口から
滑り落ちた。
その言葉にファルさんの顔が真っ赤に染まる。
それを見て僕も自分が言ったあまりにもキザったらしい
セリフに顔を赤くする。
二人同時に視線をそらし、少し気まずい時間が流れた後、
せきを切ったように二人同時に噴き出した。
「ふふふ、やっぱりそういうセリフって面と向かって言われると
恥ずかしいですね」
「ははは、言った僕はもっと恥ずかしいですよ」
「いえ、言われた私のほうが恥ずかしいですよ」
「いや、僕のほうが……」
「いえ、私のほうが……」
二人して子供みたいにどっちのほうが恥ずかしかったかを
言い合いしばらくしてまた笑った。
そしてしばらくたって少し落ち着いた時、疑問に思っていた
ことを口にする。
「ねえ、ファルさん。一つ聞いていいかな」
「ええ、いいですよ。それと私のことは呼び捨てで大丈夫です。
長いおつきあいになりますから」
「そうなんだ。じゃあ僕のことも呼び捨てで呼んで」
「ええかしこまりました。それでシルフ聞きたいことというのは
なんですか?」
「さっきファルは天使紋はその力を十二分に引き出せないと
天使は現界しないって言ったよね。僕はまだこの悪魔紋の力を
全然引き出せてないのになんでファルと出会えたのかなって」
僕の疑問にファルはキョトンとした顔をした。
まるでそんな当たり前のこと聞くの?とでもいうように。
でも実際に僕は悪魔紋の力を完全に引き出せている実感はない。
そもそもまだ初級魔法を一通り使っただけなのだから。
僕はファルの回答を緊張しながら待つ。
そんな僕を見てファルはフフッと笑った後、
春風のような爽やかな笑顔で
「そんなのシルフが誰よりも優しくて努力家で天才だからに
決まってるじゃないですか?
そんな人の涙に応えない女の子なんていませんよ」
少しからかうようにそう言った。
その言葉になぜか僕の目から涙がこぼれた。
「え、シルフ!?」
「ごめん。なんでもない。ただ僕は今日、全部を無くしたと
思ってたんだ。今までずっと一生懸命努力して生きてきて、
今日やっとそれがいろんな人に認められると思っていたのに
それが全部なくなっちゃって、一生僕はもう誰かに認めて
もらえることなんてないと思っていたから」
胸の中に無理やり押し込んでいた感情がせきを切ったように
涙と一緒に溢れだしてきた。
「……シルフ」
「それがファルに才能があるって、努力してるて、優しいって
言ってもらえて嬉しくて、思わず涙が流れちゃったみたい。
はは、こんなのかっこ悪いよね」
僕がそういった瞬間、僕の身体が優しく抱きしめられた。
「いえ、全然かっこ悪くなんてありません。
そう思えるのはシルフがちゃんと今まで頑張ってきたからです」
そして優しく頭をなでながら、教会の鐘の音のような
柔らかい声で語りかけられる。
「だからシルフは泣いていいんです。
たくさん涙を流していいんです。
声をあげて泣いていいんです」
ゆっくりとした短い言葉が空っぽになった心を満たしていく。
「もしシルフの頑張りを認めない人がいたら私が声を荒げて
抗議します。シルフの努力は私が一番知っています。
私が一番に認めます。だから今はいっぱい泣いてください」
その日、僕が一番欲しかった言葉をファルはくれた。
そして僕は人生で一番たくさんの涙を流した。
全部を無くした日。
自分では平然を保っていたつもりでも心の中は今まで積み上げて
きた14年間が崩れた残骸でいっぱいだった。
どれくらい泣いていたのかはわからないけど僕が涙を流している
間ファルは優しく僕のことを抱きしめてくれていた。
それがなにより僕の心を楽にしてくれた。
そして涙が枯れ心が軽くなった。
「決めたよファル。僕はこの国を、世界を変える。
みんなが涙を流さないような世界に出来るように
僕に出来ることをやってみるよ。ファルとこの
悪魔紋と一緒に精いっぱい生きてみる」
「ありがとうございます。私も私に出来ることを全力でしますね。
もしシルフが傷つくことがあったならいつでも私を頼って
ください。身体も心もぜったいに癒して見せます。
泣きたくなったらいつでも泣いていいですからね」
最後は少し茶化すように言って、笑って見せた。
そんなかわいい笑顔を見せたあとファルは「あっ」といって
言葉を付け加える。
「それとその悪魔紋っていい方やめてもらっていいですか?」
「え?なんで?」
首を傾げる僕にファルが説明してくれる。
「その呼び方は王族が12翼の紋が出現したときに自分らだけじゃ勝てないかもしれないから12翼は悪と決めつけて国民を味方にしようとつけた呼び名なんです」
「なるほど。質じゃ勝てないから数で勝負しようとしたわけか。
う~ん、でもじゃあなんて呼ぼう?」
「ん~そうですね。じゃあこんなのはどうです」
そこでファルは僕の左手にそっと手をそえ、
僕の瞳を真っすぐ見つめてまるで僕自身がそうであるかのように
「英雄紋」
そう言って僕の左手を強く握った。
この日から僕はファルと英雄紋と供に世界を救う長い旅にでた。
物語のプロローグ部分はここまでです。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
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それではまた明日!