1.おや? 僕の天使紋の様子がおかしようなのだが!?
「いいかシルフよ。我々は貴族でありながらも代々王家を守る近衛騎士の一族だ。今日の儀式では絶対に最良の天使紋を手に入れるのだぞ」
「はい。お父様。このシルフ必ずやライトロード家に脈々と受け継がれる光属性の天使紋の中でも必ずや最高の紋を発現させてみせます」
僕は笑顔で父に自信に右手の甲を見せた。
それを見て隣を歩く父は険しい顔のまま頷いた。
★
―――天使紋。
それはこの世界に生きる者が授かることのできる神の力。
14歳の誕生日に教会での儀式を経てその力は開花する。
天使紋の種類は大きく4つの種類に分けられている。
雷や風などを操る 【天属性】
炎や水などを操る 【地属性】
回復や光などを操る【光属性】
ステータス異常付与や闇を操る【闇属性】
この四つのうちいずれかの紋が儀式の後右手の甲に現れる。
さらに天使紋には階級が存在する。
例えば一口に天属性の紋といっても人によっては風系統だけしか使えない人もいれば風も雷も操れる人もいる。
これにはその人の才能や努力もあるが天使紋の階級が大きく影響している。
より高位の紋の方がその属性の力を引き出すことができるのだ。
より高い階級の紋を手にするために必要な物は3つあると言われている。
それは血筋と才能、最後に徳だ。
ただ必ずこれら全てが必要とされるわけではなく、平民と呼ばれる人からも高位の紋が顕現することもある。
しかし王族や貴族、騎士の家系に比べるとその割合は低い。
なので人々は血筋を変えることはできないのでより良い紋を授かるために己の才能と向き合い鍛錬し少しでも多く徳を積もうとする。
それは僕も例に漏れない。
今日まで一日たりとも剣や武術の訓練をサボったことはないし勉強にも精を出した。
もともと何か人のためにするのが好きだったこともあり徳もそれなりには積んでいたと思う。
今まで家の皆には迷惑をかけたこともある。
だから今日の儀式で必ず高位の紋を出して父上や母上、姉さまをはじめとするライトロード家のみんなを助けられるようになるんだ。
そう決心したとき、ようやく本日儀式を行う教会に辿り着いた。
教会の扉を開けるとそこには溢れんばかりの人が押し寄せていた。
それもそのはずだ。なぜなら今日儀式を行うのは僕だけではなくもう一人いる。
そのもう一人がとんでもない人物なのだ。
「きゃーーッ。エジル王子よ!!」
「かっこいい~」
「ああ、一度でいいから抱きしめてほしいわぁ」
この日儀式を受けるもう一人の人物の名は
エジル・シ・ミルトン第四王子
完璧とも言える美しい容姿に王族の血、身体能力も高くその知識も学者顔負けと言われているこの国きっての才色兼備そろった天才だ。
国民からの人気も高く今日の儀式も教会に入るための人を選ぶために抽選会が行われたほどだ。
だが、近衛騎士として王子のプライベートの姿を何度か近くで見たことのある僕としては実はエジル王子は少し苦手だったりする。
「はは、おい見ろよグラード。この俺見たさにこんなに人が集まってるぞ。実に滑稽だと思わないか?」
エジル王子がギャラリーに聞こえないような声で側近に声をかける。
「人は本能的に弱者と強者を仕分けます。皆エジル様から溢れ出るカリスマ性にあてられているのでしょう」
「ふっ、有象無象のゴミにたかられる気持ちにもなってほしいものだ。ん? なんだお前は?」
3人の側近を引き連れたエジル王子のもとにお父様が駆け寄り立膝をついた。
「はっ、私は王族の近衛騎士をさせていただいているアクロ・ライドロードにございます」
「ライトロード? ああ、そんな近衛騎士もいたような気がするな。で、なんで俺が呼んでもいない近衛騎士がこんなところにいるんだ?」
「僭越ながら本日は我が息子も神の儀式を受けるため教会にきました」
「俺と同じ誕生日の息子がいるのか。どいつだ?」
その言葉に父は僕を凄い剣幕で呼び寄せる。
「こちらが我が息子 シルフ・ライトロードにございます」
「シルフ・ライトロードです。国のため国民のため今日授かる力にて全力をもってこの命を人々の幸福のために尽くす所存です」
僕もまた立膝をつき深々と頭を下げる。
「ふ~ん。なるほどね。とりあえずシルフって言ったか。お前俺と同じ誕生日だなんて生意気だ」
その瞬間、頭がぐわんと揺れた。
それが思い切り殴り飛ばされたからだということは体が地面を転がり止まってから知った。
「王子である俺に臭い息で話しかけてくるな。それと頭は地面に擦り付ける位下げろ。お前らと俺らではそれくらい人としての格が違う」
お父様の頭をブーツで踏み、地面に頭をつけさせた後王子は僕らの前を去っていった。
「おい、今のなんだったんだ? エジル王子があの親子ボコボコにしたぞ!?」
「落ち着けってどう考えてもあの親子がなんかしたんだろ。じゃなきゃあのエジル王子があんなことするわけないだろ」
「ハハハ。まあ、それもそうだな。だとするとあの二人はよほどの無礼を働いたんだな。特にあの殴り飛ばされた奴何をやったんだ?」
周りから好き勝手な声が聞こえてくる。
誰も僕らが何もしていないなんてことは思わない。
自然と僕らが悪いことになっている。
そうエジル王子、いや王家の人々は国民の前では評判がよく、いつも民のためにと声高に叫んでいるがその内情はだいぶ違う。
少なくとも僕が見てきた王族は一部を除いて皆残虐な性格をしていた。
使用人を不用意に殴りつけたり、女の人の服を脱がせて裸で仕事をさせそれを見てなじったり、とても人の所業とは思えないことを平気でする。
それが僕が知る王族だ。
でもそれを知るのはごく一部の人間のみ。
僕はよろよろと立ち上がりお父様の元へと向かう。
「お父様大丈夫ですか? ッ!?」
僕が声をかけるとお父様は顔を真っ赤にした怒りの表情で僕を睨みつけた。
「貴様のせいで恥をかいたではないか!この愚息が!!」
周りに聞こえるような大声でそう叫んだ。
それを聞いたギャラリーたちは
「ああ、あの子供が無礼を働いたのか」
「ああいう息子を持つと親は大変だよな」
「確かになにかやりそうな顔をしてるわ」
などと口を開いた。
「いや、ちがっ、僕はただ挨拶をしただけで……」
僕が辺りを見回しながら弁解を試みるも誰も僕の言葉を信じることはなかった。
誤解を解くのが不可能だと察した僕は泣く泣く儀式を受けるために神官の元へと進んだ。
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