唐揚げと炒飯
ある週末の遠出帰り。太陽はとうの昔に沈み、漆黒の空には星が瞬いていた。
今日は一日中動き回っていたこともあり、俺の胃袋は空腹の悲鳴を上げている。
「どこで飯を食うか・・・」
何を食べるか考え始めるも腹が減りすぎて思考が定まらない。食場を決めるにはあまりタイミングが遅過ぎる。
そうこうしてる間に道路沿いの店が少なくなっていく。
「ん?あれは・・・」
前方にとある店を見つけ、俺は流れるように駐車場に入った。
その店は元々コンビニだった店舗を利用した飲食店で、デカデカと掲げられた真っ赤な看板には黄色い文字で店名とオススメメニューなどが書かれていた。
ここは中華系の人が経営する台湾料理屋だ。
「よし、ここにしよう。」
俺は意気揚々と店に入った。
「イラシャイマセー。ナンメイデスカ?」
女性の店員がカタコトで対応する。
「一人です。」
「オスキナセキヘドゾー。」
店員に促され、俺は適当なテーブル席に座りメニューを開いた。
「すみません。」
ラミネート加工された冊子で作られたメニューを一通り見た俺は店員を呼んだ。
「ハイ。」
店員がメモを片手にやってくる。
基本的にここまでの空腹状態になると、先程店を決められなかったようにメニューも中々決められなくなるのだが、台湾料理屋に限ってはそういったことはない。
何故ならこの店には鉄板メニューがあるからだ。
「この鶏の唐揚げと炒飯下さい。」
俺が注文をすると店員は中国語で厨房にオーダーを伝えた。
そう、唐揚げと炒飯。あまりに空腹なときはこれを頼んでおけばまず間違いはない。
「カラアゲトチャハンデス。ゴユックリドゾー。」
十分ほどして店内の本棚にあったこち亀を読んでいた俺の元に唐揚げと炒飯が運ばれてきた。
それは少食の人が見たら絶句するような光景だった。
拳ほどもある唐揚げが十個と申し訳程度に添えられた千切りキャベツ。そして、丼一杯分ほどの量の炒飯。
「おお・・・。いただきます。」
俺は箸を取り唐揚げに食らいついた。
よく揚げられた衣の中から溢れ出る熱い肉汁。肉本体から染み出すジューシーな旨味。そして、熱に耐えながら胃に送りこもうとする口内を傷つけていく鋭い岩石のような衣・・・ああ、もう最高!
つけ合わせのキャベツで油分をリセットし、炒飯を大きめのスプーンで口に運ぶ。濃過ぎずどちらかというとやや薄めな味付け、それによって得られるいくらでも食べられるような感覚・・・素晴しい!
そんなこんなで終盤あたりは唐揚げとの格闘戦であったが、料理を付け合せを含め全て平らげた俺の胃は満足していた。ただ・・・
「うーむ・・・ちょっと油っこいな・・・すみませーん。」
俺は再び店員を呼んだ。
「ハイハイ。」
「杏仁豆腐の小ください。」
油でギトギトになった胃に僅かばかりの清涼感が欲しい。
注文からものの数分で運ばれてくる杏仁豆腐。
小さいサイズにして正解だった。ちょうどいい量だ。
俺は喉を潤すように杏仁豆腐を平らげた。
「ごちそうさま。」
空になった皿たちの前で手を合わせた俺は、忘れ物がないことを確認しレジへと向かう。
そして、会計の際に店員が見せたアンタヨククウネとでも言いたげな顔がなんとも印象的で、俺はちょっとした優越感を覚えた。
「はあ・・・暑ぃ。」
日付も変わった深夜の真っ只中、俺は寝苦しさに目を覚ます。
「喉乾いた・・・」
そして、乾いていた喉を潤すためキッチンに向かった。
「ふぅ、水が美味い。ゲフ。」
ゲップに唐揚げの風味が混じる。彼らはまだ胃袋におり、寝苦しさの原因も間違いなくこれだ。
「こりゃ寝不足確定だな・・・」
夕食のチョイスを後悔しつつ、俺は夜明けまでの安眠を諦めた。
しかし、俺は今後も同じ過ちを繰り返し続けるであろう・・・
美味しいのだから仕方がない。