夢に見た話
昨晩は雨がとてもひどかった。
そんなことを思いながらカーテンを開いて、目を見開いた。
二重窓の向こう側、1.5メートル先にそびえ立つ高さ7メートルの塀の上で、透明でゼリーのような水が、どぷり、どぶりと波打っていた。
慌てて自室から出て、リビングへ。
リビングの窓も二重窓。
その二重窓の高さは約2メートルほど。
その窓の、7分の6を占める高さまで、ゼリーのような水で満ちていた。
二重窓の前で呆然と座り込む。
空はどうやら晴れているらしい、どこかからか家中に吹き込んで来た風はとても強くて、座っているのにごろごろと転びそうだ。
立っていることは無理だろう。
ああ、これじゃあ会社には行けないな。
それでも電話した方がいいのかな。
そう零した私の隣にはいつの間にか母が立っていた。
窓の外では相変わらず、ゼリーのように透明で綺麗な水が、どぷりどぷりと音を立てて、波打っている。
状況も忘れて、ただ綺麗だなとその水に見惚れた。
波打つ水、燃え盛る炎、水族館の中を泳ぐイワシの大群のリズムは不安定で、不確定で、だからこそいつまでも見ていようと思えば見ていられる。
だからきっと、眺め続けてしまったことは必然だ。
どぷり、どぷりと水は波打つ、時折強風に煽られて、大きな水の塊が宙を待って、再び落ちて、また波打って。
それをずっと、繰り返し。
だけど、見ているうちに部屋が気になった。
気になったから戻った。
そうしたら、何故か部屋のカーテンは全開で、全開の窓の外、ドライエリアの中に人の行列ができていた。
人の行列は左から右へ。
おそらくこのマンションの住民で、どこかに避難する通り道にされてしまったのだろう。
慌てて遮光カーテンを閉じる。
閉じた直後に通りかかったおっさんが、体をこちらに向けてこちらを見た。
向こう側からは見えていないはずなのに、確かに『目があった』そう感じた。
そのおっさんが通り過ぎた後、大柄な子供が窓の前を通る。
坊主頭がそのまま伸びたようなボサボサの頭をした、赤いTシャツを着た男の子だった。
半開きになった目を見て、その子供が気狂いの類であることを確信した。
その子供が窓に手をかける。
入って来ようとしているのだと気付いた。
入れてはいけないと思った、入れてしまったらきっとひどいことになるだろうからと。
そう思った時には、窓は三分の一ほど開かれていて、そこから気狂いの子供が入って来ようとしている。
その体を全力で外に押し出そうとした。
太っている人間の、硬いのか柔らかいのかよくわからない弾力のある肉の塊のような身体を全力で外に向かって押し出した。
私は死にものぐるいで押し出そうとして、子供は死にものぐるいで入って来ようとした。
優勢なのは子供だった。
このままだととてもひどいことをされるだろう、そう思った時に子供の身体を押し出す腕が増えた。
その増えた腕によって、子供の身体が外に押し出される。
そのうちにピシャリと窓を閉めた。
閉じた窓に子供が張り付いて開こうと試みる。
私は子供が入ってくるのを防ぐために窓を抑えた。
そんな時に、子供を押し出したもう一対の腕が窓を抑える。
その腕の持ち主は男だった。
その男が親族の類ではないことはわかった。
自分と同じ年代であることもわかった。
だけどその顔は見えなかった、誰であるのかは理解できなかった。
だけど、その男が自分の味方であると確信していた。
そして、絶対的に頼りになる存在であることもわかった。
男が窓を抑えるだけで、子供は抑えることができた。
そんな時に部屋の中に女が現れた。
その女は母親ではなかった、誰であるのかはわからなかった。
その女は昔読んだ小説のキャラクターに似ていた。
この女もまた私の味方であることを私は理解する。
その女が私に向かって何かを投げてよこして来た。
南京錠だった。
それで窓を完全に封鎖しろと女はいった。
番号は決めていないから自分で決めろ、とも。
南京錠のダイヤルは3つだった。
私はとっさに『777』と番号を決めてダイヤルを回した。
だけどその時に南京錠がいつの間にか姿を変えていた。
金属製だったはずの南京錠は、いつの間にかぬらりと光るプラスチックのような物に変化していた。
ダイヤルの数もいつに間にか増えていた。
ぬらりと光るプラスチックのような材質の何かでできたそれのダイヤルを回せど回せど、ダイヤルはツルツルと滑ってうまく定まらない。
焦っていたらまだできないのかよと女が悪態をついた。
さらに焦っていると、男が私から南京錠をヒョイっと奪い取って、適当に番号を決めて窓を閉ざしてしまった。
その後いつの間にか女の姿は消えていた。
私は窓の外でどぷりどぷりと波打つ水を眺めていた。
二重窓の窓の間に人形が飾ってある事にその時気付いた。
自分がそれをここに飾ったのだということも思い出す。
それは可愛らしい水色のドレスを着た、首のない人形だった。
そのあたりで、目が覚めた。




