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遠くで鳴る、警告音

終わってしまうということを、私は知っている。

ただ、それを何とか引き延ばそうとしているのだ。


私は怖い。

私の知らないあなたに出会うのが、怖い。私の想像できない未来に潜っていくのが、とても怖い。

私とあなたは友達だって、何度もお互い、確かめ合ったじゃないか。

二人で出かけることを、デートだと言われ、まさかと笑いあったじゃないか。


どうしてあなたは隠すんだ。

どうして私は察するんだ。


予感がする。

今日、私の大切な友情が終わる。



では行かなければいいのに、と思う。しかし私は、家を出る。彼との約束時間、ちょうどに着くように。約束の場所は、いつもの駅前だ。今日、私はあなたに借りていた本を返す。きっと、駅前にできた喫茶店で、その話をするだろう。

あなたはいつものように、私より少し前に着いている。大きなヘッドホンをつけて俯いているけれど、私が声をかける前に顔をあげ、私を見つけて、微笑みながらヘッドホンを外す。

私は返事をするように笑う。あなたの笑顔は、私を微笑ませるパワーがある。


駅前にできた喫茶店に入り、あなたは大好きなコーヒーを頼む。私が頼む前に、どうせりんごジュースだろうと言われ、もちろんと返事をする。恒例のやりとりに、心がおちつく。

本を返すと、あなたは身を乗り出して、どうだったかと私に問う。私は感想を述べる。同じセリフを気に入っていたことに喜ぶ。

私たちは、まるで絵合わせをするかのように、お互いの好きなシーンを挙げていく。時間は加速をする。太陽がそそくさと沈む。


月がふわりと浮かんでしばらくたつと、もうこんな時間だとあなたは言う。そろそろ帰ろうと席を立つ。私も立ちあがり、その瞬間、ああ、私たちの友情はあと数分で終わるのだと思う。

私たちの友情は終わる。

駅前で、あなたは私に告げるのだろう。

そのとき、私はどうするのだろう? 何百回と問いかけた自問自答の答えは、相変わらず出ずに終わる。そのときになれば、などと考えている悠長な私のみが、何度も顔を覗かせては笑う。


「じゃあ」


あなたは言って、踏切を渡る。

私は手を降って、じゃあと応え、あなたが見えなくなるまで背中を見つめていた。


近いはずなのに、随分と遠くで踏切が鳴っている。彼の姿が消えて、それでも私は期待するようにその場に突っ立っていた。

私の予感は外れた。

今日、私たちの友情は終わらなかった。


私の予感は当たらない。

今日終わる、の今日は、もう何回も過去になっている。


私は期待しているのか?

私に恐怖心はあるのか?


私の考えていることが分からないまま、あなたに借りた文庫本を持っている手の指に力をいれた。強く、強く、本を握る。

私はきっと、本を一日で読み終える。そうしてあなたと話す日のことを、とても楽しみにする。


そんな気がする。


この予感は外れないことを、私は知っている。


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テーマ「予感」

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