第53話 過剰デリケート
振り返った俺達の前にいたのは小柄な女性だった。
今時珍しい割烹着を着込み、ちゃんと見えているんだか眠いんだか不明な細目が印象的な年上の。
詳しい年齢は失礼だから訊いたことがないけど、家に10年前から同居している事から間違いなく20後半はいってるだろ。
いつも穏やかに話す姿がいかにもおねーさん、といった感じだ。
「――ただいま帰りました、ミハルさん」
「はい――お帰りなさい、ショウくん。
無事退院出来て嬉しいですよ」
ニコニコと微笑むミハルさん。
そういえばこの人が怒ってるところを見たことがないな。
「あ、ミハルさん!
お久しぶりです♪」
「はいはい、コノハさんもお久しぶり。
半月ほどになりますかね?
治療院ではショウくんの面倒を看て頂き、本当に申し訳ございません。
わたくしが下着とかお持ちすると、ショウくん何故か嫌がるので。
お使いとか色々お願いしちゃいましたし」
「ううん、全然。
そんなの気にしないで下さい。
ショウちゃんも年頃なんで過剰にデリケートなだけですから」
「ん……そういうものなのですか?
これからはお部屋のお掃除とかも控えた方がいいでしょうか?」
「ですね。
特にベッド下とか本棚後ろの謎スペースとかは見ないであげて下さい」
「はい、分かりました~
いつもご助言ありがとう」
「どういたしまして♪」
「……おい。
そういう話は本人がいないとこでしろよ」
くそ、いたいけな思春期の少年テリトリーに土足で踏み込みやがって。
なんでダミーを含め、隠し場所がバレてるんだよ!
……他のはバレていない筈だよな?(汗)
「――あらあら。
別に構わないじゃありませんか。
わたくしたちの仲でございますし――かれこれ10年は経ちましたか?」
「そうだよ。
ボク達のおねーさん代わりのミハルさんに失礼だよ(ぷんすか)。
大体さ――
入院中のショウちゃんの汚れた衣類、誰が洗ってくれたと思ってるの?
ミハルさんだよ?
ちゃんと感謝するように」
「だからなんでお前が偉そうなんだよ……」
無い胸を張るコノハに、呆れ顔で俺は突っ込む。
その時――ふと不穏な気配を感じ、隣を見る。
そこには驚愕からか顔を強張らせるミズキの姿があった。
「馬鹿な……
気配をまるで感じなかった……
それに服を洗うって……もしかしてこの人はショウの……」
すでに旧知の仲ゆえに親しげな雰囲気のコノハとは違い、ミズキは隠し切れない狼狽をあらわにしている。
だがそれは無理もあるまい。
ダンジョンで戦闘を主体とする者が一方的に間合いを詰められた上、その存在を感知できなかったのだ。
前衛職としては死活問題である。
だから俺はミハルさんの紹介を兼ねてミズキに解説してやることにした。
……後半の服を洗う云々はよく分からなかったが。
「心配するな、ミズキ。
この人は親父の弟子のひとりで緒方ミハルさん。
住み込みで家に勤めてもくれている」
「初めまして、ミズキさん?
いまショウくんからも紹介がありましたけど……
わたくしは狭間師範の内弟子のひとり、緒方ミハルといいます。
これからも仲良くしてくださいね~」
「あ、ああ。
そうだったのか……だから服を……(ほっ)
私こそ自己紹介が遅れました。
育英高校三年の探索者、倉敷ミズキと申します。
ポジションは前衛、戦士を務めております。
ダンジョンでショウ達に命を救われた縁もあり、今度パーティを結成する仲間になりました。
今後とも宜しくお願い致します」
さすがは体育会系と褒めるべきか。
きっちりとした礼儀正しい挨拶――
しかし、それじゃ駄目だな。
軽く頭を下げ、目線を上げたミズキの眼球の先――そこにはまるで瞬間移動をしたかの様に穏やかに微笑みながら指を添えるミハルさんの姿があった。
「なっ!」
「駄目ですよ、ミズキさん。
初対面の相手に限らず、どんな者へも目線を切ってはいけません。
不測の事態に対応できないと――
貴女のみならず仲間をも危険に晒す事になります。
常在戦場……狭間家の敷地に入る以上、それは鉄則です。
これからも気を付けてくださいね」
「は、はい……」
ずい、と迫るミハルさんの気迫に圧されるミズキ。
闘争に身を置く者限定で試される、狭間流の手酷い洗礼儀式のひとつだが刺激が強過ぎたようだ。
無理もないか――
自分は高レベルという自負もあっただろうしな。
ショックを受けているミズキを見兼ねた俺は、助け舟を出す。
「――ミズキ」
「な、なんだ?」
「ミハルさんは非公式エージェントの一人だ。
親父共々、スタンピードなどの火消しに駆り出されるほどの腕前を持ってる」
「なっ……非公式エージェントだと!
ならば最低でも……」
「そう、レベルは50以上。
今の俺達じゃ足元にも及ばない」
「あらあら。
それはお褒め頂いたのかしら、ショウくん?」
「無論褒めたんですよ。
俺達が目指すべき目標として、ね」
非公式エージェントとは行政公式ではないものの、要請に応じ緊急時に協力する民間の高レベル所持者だ。
その基準は色々あるが、レベルに換算すれば最低50以上。
レベル30以上で構成される公式エージェント達とは文字通り質が違う。
俺が至りたいと思う目標とすべきものの一つだ。
「さあ、こんなところで立ち話もなんですから中に入りましょう。
先程から師範も道場でお待ちですし」
「うっ……親父が?」
「ええ、久々にショウくんの顔を見れると喜んでました」
親子水入らずを想定してるのか微笑みを深めるミハルさん。
俺はその水入らず、の意味を知ってるだけに暗澹たる思いになるのだった。
ついにお気に入り登録100突破!
連載開始から2ヶ月、早いものですね。
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