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一時間企画

織姫ヒーローと彦星ヒロイン

作者: アオニシキ

一時間企画

テーマ「七夕」です


 私の通っている高校は結構祭り好きだ。つまり、イベントが多いということである。普通の高校ならスルー案件の七夕にも当然のようにお祭りが存在している。その名を星降祭ほしふりさいという。


 星降祭は基本的には願い事を書いた短冊を吊るして、その周りでフォークダンスを踊って終わりなのだが、フォークダンスの前に織姫と彦星を生徒から決めてその二人がみんなの前で踊るという謎行動がある。私はあんまり興味がないが何かジンクスなる物があるらしい。


 彦星は女子生徒からの投票で三年の中から選ばれるらしい、今までの彦星がやけにイケメンだったのはそういう事かと現実逃避気味に納得する。


「そして、今年の彦星は織野姫子おりのひめこさん、あなたに決まりました! つきましては織野さんに織姫を決めてもらいたいのです」


「いろいろと言いたいことがあるんだが……まず私は女だ」


 星降祭を統括する生徒会の人があなたは彦星に決まりました、と話しかけてきたときから現実逃避を続けていた私、織野姫子は高校三年、女、である。


 一応繰り返そう、女である。



  ~~~~~~



 彦星は女子生徒の投票で踊りたい憧れの先輩、という人が選ばれる。そして女子生徒は彦星となった先輩から織姫として選ばれるようにアピールするそうだ。星降祭の前にそんなサバンナの中みたいな戦いがある事は知っていたが興味がないのでスルーしていた。そんな私が主役に抜擢されるとかおかしいだろう。


「生徒会長とかでいいじゃない。俺様系イケメンでファンもいるんでしょ?」


 私は彦星として織姫を一人選んでほしいというようなことを言っていた生徒会役員に行った。彦星なんて面倒なことやりたくない。そもそも私は女だ。確かに凹凸の少なく無駄に背の高い体をしているが女なのである。彦星ではなく織姫と呼ばれたい。いや、姫って柄ではないのだが。


「そうですね。生徒会長も確かに人気がありました。

 ですがあなたに百票差ほどつけられてまけてます」


「百? 全校生徒の三分の一の差ってこと?」


「ええ。その結果大変お怒りになった会長はあなたに嫌がらせをしようと考えています」


「とことん面倒ごとね」


「織姫が決まるまでは女子が殺到する事でしょう。男子の嫉妬と女子のアピールが嫌なら織姫を早く決める事です。決めていただけたら生徒会の中でも星降祭専門の方が会長よりも権力が上になり織姫と彦星を守ることが出来ます。是非お早めにお決めください」


 では、と言って生徒会の人は去っていったが、間違いなく厄介ごとである。そもそも私は女だ。せめて男子と踊りたいが男子には目の敵にされているらしい。さっきの人が言っていた。男子のプライドを傷付けてしまったんだそうな。


 せめて穏やかな女子を探そうと教室を出た途端襲ってきた視線の数々。それと何故か飛んできた黒板消し。私は素早く黒板消しをはたくと、その場からさっさと立ち去った。

 当然、黒板消しを投げた男子の顔は確認した。



  ~~~~~~



「それで女子が騒いでたんだね」


 私は女子の恋への力と黄色い声というのを甘く見ていた。さっさと立ち去ろうとしたがどこからともなく女子がわいてきて織姫は私に! と言い募るのだ。そんな風に言っても私は君の事を知らないんだって言っても聞かなかった。クールお姉様最高なんて言い出す始末。同じ言葉を話しているのに理解が出来ないのだから困る。


「ああ、おかげで大変だった……家にまで数人来ようとしていたのには貞操の危機を感じたよ。弥彦やひこの家に逃げ込めてよかった」


「姫子姉ぇが珍しく助けてくれなんて連絡してきたときはびっくりだったけどね」


 はい、甘いものでもどう? とクッキーを差し出してくれるのは幼馴染の保史女弥彦ほしめやひこ。同じ高校に通う一年の男子だ。星降祭のこともざっと説明したので今回の騒ぎの事も理解したみたいだ。


「姫子姉ぇが彦星か……すごくイヤでしょ」


「そもそも私は女だ。口調がざっくばらんなのは分かっているが男らしいだのなんだのと言って彦星に選ぶとか失礼だろう。それに対して嫉妬してくるのもおかしな話だ」


「姫子姉ぇはちゃんと女の子なのにねー。でも決めないとこの騒ぎが続くんでしょ? どうしようか?」


「……そもそも私はアピールしてきた女子と踊りたくはない」


 さっきも言った通り私が彦星でいて欲しいと望むのはアピールしてきた女子たちが原因だ。私だって女なのに男であれというのは些か腹立たしいものがある。なのでアピールしてくるような私を男扱いするような人とは踊りたくないのが本心だ。


「ん~、そうだ! そんな風にアピールする人たちが出来ないような試験を用意するのはどうかな?」


「試験? つまり織姫らしさを測る試験をするという事か。……悪くないな。その期間ならアピールも減りそうだ」


「あ、でもだめだ。男子からしてみれば何様だ! みたいに取られて嫉妬がより深くなるかも。だとしたら姫子姉ぇが危ない」


 弥彦は心配そうにしていたが男子からの嫉妬での攻撃はそんなに陰湿でない分よけるのはたやすい。私は弥彦の案に乗って織姫を選別する試験という名目で私の望むような織姫を探すことにした。



  ~~~~~~



 星降祭当日、織姫は現れなかった。私の出した条件はフォークダンスで男性パートを踊ってくれること、織姫らしく編み物が得意なこと、さらにお菓子が作れることである。


 最初の条件の時点で大勢の女子が脱落した。当然である。その上でなんとなく好みの条件を上げた結果男子も名乗り出られなくなったということである。


「これに懲りたら彦星を女子にしないことね」


 私はあの時声をかけた生徒会の人にそういった。織姫は居ない。私の処理を確信していたのだ。だが、それはいい意味で裏切られる。


「そうですね。ですが安心するにはまだ早いですよ」


「どういうこと?」


「織姫希望の男子がやってきました」


 そう言って現れたのは弥彦だった。


「姫子姉ぇ、ずるいよ。男子からの嫌がらせを全部跳ね返すんだもの。そんなかっこいいけどハラハラするの見せられたら僕だって頑張らないと、ってなるじゃないか」


「弥彦? どういうこと?」


「姫子姉ぇ、無自覚なの? あの条件、ほとんど僕じゃないか。期待、したんだよ?」


「え、あー確かにそうね。そっか私の好みは弥彦なのか……」


「それを踏まえて、よーく聞いてね。僕は姫子姉ぇ、あなたが好きです。かっこよさの中にかわいらしさを内包して、僕のクッキーで癒されているあなたが好きです。料理も裁縫もできます。だっ、だから貰ってくれませんか?」


「…………」


 幼馴染の突然の告白に私は完全に思考停止に陥ってしまった。そこに楽しそうな追い打ちの声がかかる。


「ところで織姫と彦星は一生結ばれるっているジンクスがあるんですよ?」


ニヤニヤと楽しそうな生徒会役員の声だった。


 最初から生徒会の役員はこれが狙いだったと聞いて驚くのは遠い未来の話。



一時間だから細かな設定にツッコミは無しでお願いします。

弥彦はひっそりといくつかの嫌がらせをつぶしていたという裏話をここに置いておきます。

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