聖母の伴侶は村人Aだったらしい。
深く考えずにお読み下さい。
よろしくね‼︎
第Ⅶ大陸ー。
獅子獣人の魔王が存在するその大陸は、人々と魔王軍が争っていたーー。
だが、しかし。
「で?今なんと言ったかな?ん?」
ギリギリギリギリッ………。
ルーデント王国という人の国の王都で、雄々しい鬣を持つ金獅子獣人……《第Ⅶの魔王》ガートは……。
一人の青年に足蹴にされていた。
その青年はいたって普通の青年だ。
藍色に近い黒髪に、瑠璃色の瞳。
顔立ちは爽やかで背も高めだが……所詮、その程度の、平民の服を着た青年だ。
なのに、彼は魔王を足蹴にしている。
魔王を踏みつけている。
その事実が、魔王ガートは意味が分からなかった。
「おっ……お前っ……一体、何をっ……」
「ん?何をってお前が先に言ったんだろ?リズを奪うって」
「リー」
「テメェが俺の女の名前を呼ぶなよ」
「ウギャァッ」
ゴリッ……と嫌な音がして、魔王ガートは叫ぶ。
青年が名前を呼んだのを繰り返そうとしただけなのに、理不尽極まりなかった。
「お前がね?《聖母》を拉致るとか言うからさぁ……俺、我慢ができなくなっちゃって」
にっこりと笑う青年に、ガートは先ほどの言葉を思い出す。
魔王ガートがこの国を訪れたのは、聖母を拉致するためだ。
聖母とは聖女と違い……神を産むための母体となる者を指し示す。
つまり、聖母を拉致し、魔王の子を宿せば……その神は穢れた存在となると言われているのだ。
「貴様はっ……貴様は一体、何者なのだっ‼︎」
「ん?あー……忘れてた」
青年はガシッと魔王ガートの頭を掴んで持ち上げる。
魔王とは最強の存在。
人々の畏怖の対象。
人間なんかにどうこうできないはずのモノ。
なのに……ちっぽけな人間であるはずの、目の前の青年は……軽々しくその巨体を持ち上げた。
「俺はハルト。聖母の伴侶で、リズの旦那だよ」
そうして青年……ハルトは、思いっきり魔王をどこか遠くに投げ飛ばした。
空へと消えた魔王を見ながら、ハルトはパチンッと指を鳴らす。
「場外ホームラン〜♪」
「ハルくーん、大丈夫?」
だが、その声を聞いた彼は勢いよく駆け寄って来ていた美少女に抱きついた。
「リズ‼︎」
「うわっ⁉︎」
薄桜色を帯びた銀髪に、桜色の瞳。
薄紫色のドレスを着た花のような美しさを誇る彼女の名前は、リズベット・フリューゲル公爵令嬢。
または、聖母と呼ばれる存在だった。
「もぅ……無理しちゃ駄目だよ?ハル君はいつも無茶するんだもの」
「リズのためなら全然、無茶じゃないよ?それに……ただでさえリズとのイチャイチャタイムが邪魔されてるんだ。余計な問題は早々に解決したかったんだよ」
ふぅ……と溜息を吐くハルト。
そう……今回の人生は地味に面倒なのだ。
聖母とその伴侶ではあるが、公爵令嬢と王都から五日ほどかかる村に住んでいた村人。
その関係を妬む者や貴族的な問題で、二人の邪魔をする者は少なくない。
前回がサラリーマンとOLという特に問題のない出会いだったから、余計にそう思ってしまうのかもしれないが。
「でも、何回目かの人生でもこんな感じじゃなかった?」
「十三回目だな。でも、その時はリズが町娘で俺が王子だったんだよ。俺に権力があったから、やりやすかった……」
「まぁ、今世でもずっと一緒にいられるように私も頑張るからさ。ハル君も頑張ろ?」
「あぁ、勿論‼︎愛してるよ、リズ」
「私も愛してるよ、ハル君」
さて……もうお分かりだろうが、この二人は何回も転生を繰り返している。
二人は何度も出会い、何度も寄り添い、何度も死に別れてきた。
時に、王子と町娘として。
時に、大学生と女子高生として。
時に、魔王と魔王妃として。
時に、社会人同士として。
時に、幻獣同士として。
何回も、何十回も、何百回も繰り返してきた人生の中でただ一人の人。
永遠とも言える輪廻転生の中でずっと寄り添ってきた運命。
人生を繰り返す、その理由は分からない。
しかし、そんなの気にする二人ではない。
二人にとって大事なのは人生を繰り返すよりも……イチャイチャができるかできないかのどちらかなのだ。
「あぁ……リズ、可愛い‼︎エッチなことしたい‼︎」
「ハル君は相変わらずオープンすけべだねぇ」
「リズが可愛いのがいけないんだよ。それに俺は人前でだってエッチなことができる」
「それは止めようね。ハル君、見た目は爽やか系イケメンだからね。オープン過ぎると他の人が驚いちゃうよ?」
「他の奴なんかどうでも良いよ」
にっこりと微笑むハルト。
………リズベットの言葉の通り、ハルトは見た目爽やか系イケメン(今までの人生でも爽やか系イケメンが多かった)なのだが、かなりオープンすけべ(ただしリズベットに限る)で。
普通に人前でエッチしよう?とか言えちゃうタイプなのだ。
子供のように抱きついてくると見せかけて、実は胸とかお尻とか触ってくるタイプなのだ。
現に今も、リズベットのお尻を触っている。
「ハル君。お尻揉むの止めようね」
「嫁のお尻揉んでるだけだよ?」
「人前だからね。私は少し恥ずかしいよ?」
「リズの可愛い顔を他の奴に見せるのは嫌だ‼︎早く帰ろ‼︎家でならいいだろ?いっぱい……愛したいからさ?」
色気たっぷりに微笑むハルトに、リズベットは頬を赤くする。
そして、モジモジしながら答えた。
「……………お家でならいいよ」
「うん。愛してるよ、リズ。また沢山子供を作ろうね」
なんだかんだと言ってリズベットも、そのオープンすけべを受け入れてしまっている。
というより、押せ押せが好きなのだ。
言ってしまえば惚れた弱み。
ハルトもリズベットが快楽に弱いタイプで、押せば応えてくれることが分かっている。
八回目の人生では子供をバンバン産める環境だったから、そりゃもう獣かっ‼︎ってくらいに子供を産んだことがあるぐらいなのだ。
…………なんだかんだと、この二人はこの上なく相性が良い。
「今回も幸せな家庭を築き上げようね、リズ」
「うん、ハル君‼︎」
そんな感じでイチャイチャしながら帰っていく二人。
周りで魔王の登場、聖母拉致宣言から、ハルトの足蹴……そして今までの一連の流れを見ていた王都の住人達は……余りにも混沌として、かつ甘くピンクな空気をダダ漏れにさせた二人を見て……なんとも言えない顔になっていた。
後日ー。
ルーデント王国で公表されたのは、聖母とその伴侶の存在……それに、その伴侶が聖母のためなら何でもできるという…なんか異常な力を持っていることも発表された。
人々はどんな大男が出てくるのかと思えば……実際に姿を見せたのは爽やか系イケメンで。
人前で容赦なく甘々イチャイチャする二人の真っピンクオーラに人々はかなり動揺し……。
そのオープンすけべな夫婦漫才会話に、爆笑した。
ちなみに……この会話で、国民達は聖母夫妻を受け入れたのだが……実はこれも国民を味方につけて貴族達に横槍を入れられないようにした伴侶の策略だとは、彼らも知らないだろう。
まぁ、何が言いたいかと言うと……。
聖母の伴侶は村人Aだったらしい。