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お昼ご飯の時間

 今日の政治会議でいくつか決定事項があったのですが、ヴァリアッテにとっては、やっぱりちんぷんかんぷんな事ばかりだったので、いまいち把握できていませんでした。


「大義であった。それでは昼休みとしようぞ」


 昼の休憩をヴァリアッテが宣言したので、政治会議は一時中断されました。


 その一言で、十二使徒達が席から立ち上がり、ヴァリアッテに深々と一礼をして部屋から一斉に出ていきました。


「ふう……」


 ヴァリアッテはちょっとでも会議の内容を理解しようと頭をフル回転させていたため、すっかり疲れ切っていました。


 頭を使い続けていたのに、政治の話が意味不明であった事にやるせなさを感じると共に、どうすれば分かるようになれるのだろうかと腕を組んで考えてみました。


 けれども、答えなど出てくるはずもありませんでした。


『ぐぅ……』


 そんな時、政治の事よりもお昼ご飯の考えようと、お腹が主張したかのようにお腹が鳴りました。


「まずは腹ごしらえだな。それから政治の事を考えれば良い」


 ヴァリアッテは気持ちをそう切り替えて、会議室を出ました。


「余についてこい。お昼ご飯の時間である」


 当然、久能が忠犬よろしく扉の前で待っていました。


 そんな久能の態度にヴァリアッテは満足しました。


「はい!」


 ヴァリアッテが歩き出すと、久能はそんな彼女の後ろについて歩き出しました。


 犬のであるのならば、ご主人様を立てなければならない、そんな久能の気遣いなのですが、その気遣いをヴァリアッテは疎ましく思っています。


 歩を緩めて、久能と並んで歩こうとするのです。


「今日は街に出るとしよう。久しぶりに大衆食堂の定食が食べたい。庶民の久能には懐かしい味かもしれんが、余には不思議な味なのだ。あの感じが気に入っている」


 封印される前に何度か行った事がある大衆食堂に行く事にしました。


 魔王が大衆食堂で定食などもっての他だと昔は言われた事があったのですが、今では誰もそんな事は言いません。


 皆、ヴァリアッテに意見した後の処遇が怖いのです。


 ヴァリアッテにしてみれば、誰かに何かを言われたところで己の意思を変えるつもりもなければ、意見してきた者を罰する気などさらさらないので、勝手な思い込みであったりします。


 とはいえ、ヴァリアッテにぼこぼこにされた事が皆のトラウマになっているのかもしれません。


 お城から出ると、ヴァリアッテはストレッチを開始しました。


 久能もヴァリアッテに倣って、同じようにストレッチをし出しました。


「食事前に軽く運動をしておくとしよう。久能、街まで競争としゃれ込もうではないか。まずは、お前が先に行け。余は気が向いた時に向かうとしよう」


「どうやったって、僕が負けるに決まっている」


「やる前から負けを認めるというのか? 負け犬根性に染まった駄犬とは嘆かわしい」


「負けるのが分かっていても、僕はやりますよ」


 久能は街まで体力を使い果たす気で走り出しました。


 久能とヴァリアッテの能力には、超えられない壁があります。


 もちろん、ヴァリアッテの能力値が高すぎるため、地球人としては最強レベルの久能氏春では足下にも及ばないといったところなのです。


 ここ惑星ヴァルには、その人物の能力値をステータスとして表示する独自技術があったりします。


 その独自技術で、久能氏春のステータスはこうなっています。


【名前】久能氏春


【年齢】16


【性別】男


【職業】ヴァリアッテの所有物


【レベル】55/99


【HP】12999/99999


【MP】  399/99999


【STR】1999/9999


【DEX】1256/9999


【AGI】1112/9999


【VIT】1901/9999


【MND】 788/9999


【INT】1599/9999


【弱点属性】火


 ヴァリアッテの数値は、測定限界を超えていて、カンストしていたりしますが、それは正確な数値ではありません。


 実際は、もっと上なのです。


【名前】ヴァリアッテ・スノーホワイト


【年齢】16


【性別】女


【職業】魔王


【レベル】99/99


【HP】99999/99999


【MP】99999/99999


【STR】9999/9999


【DEX】9999/9999


【AGI】9999/9999


【VIT】9999/9999


【MND】2999/9999


【INT】1402/9999


【弱点属性】なし


 久能はまだレベルがカンストしていませんので、まだ伸びしろはありますし、INTだけはヴァリアッテより数値が高かったりするのです。


 とはいえ、街までの競争ではヴァリアッテに勝てるはずもありませんでした。


 街まで十キロほどなのですが、半分の五キロまで来たところで、ヴァリアッテに抜かれてしまいました。


「街に着いたら、お仕置きだな」


 ヴァリアッテが抜いた瞬間、久能の耳元でそう囁きました。


 その一言で久能はとある期待に胸を膨らませて、残りの五キロを走りきるのでした。


 ヴァリアッテは、街の入り口で仁王立ちして、久能の事を待っていました。


「遅い! 犬には劣るとはこのことであるな」


 ヴァリアッテとの実力差が数倍あるため、久能が全速力を出しても、差を狭める事など当然できず、差は開くばかりでした。


 当のヴァリアッテは、全力を出すどころか、ある程度手加減していたのですから、久能としてはウサギが昼寝をしたので勝つ事のできた亀のような奇跡が起きない限り勝ちようはないのでした。


「……そうは言っても……」


「主人に対して言い訳をするというのか?」


「そうじゃなくて……」


 久能はどんなお仕置きをされるのだろうかと内心ドキドキしながら、ヴァリアッテがその事について言及するのを待ちました。


「さて、行くとしよう。余はお腹が空いたのだ」


 しかし、ヴァリアッテは何も言いませんでした。


 久能は気が抜けてしまいました。


「……はい……」


 自然と気の抜けたような返事をしてしまい、ヴァリアッテからギロリと睨まれました。


 ちょっとした一挙手一投足でしたが、久能は心が満たされるのを感じるのでした。


「余に負けたのが不服であるというのか?」


「負けたのはしょうがないんだけど、そうじゃなくて……」


「もう良い。行くぞ」


 お仕置きの事を口にしてしまえば、ヴァリアッテは呆れるだけと予想できて、言い出せないような状況であったのです。


「おお、魔王がこんな街にいやがるぜ」


 久能は直感として何かきな臭さを感じ取り、警戒心をあらわにしました。


 ですが、ヴァリアッテは意にも介していないようで、街の定食屋へと歩を進め始めていました。


「どこに行くんだい、魔王様がよ」


 街のごろつきと一目で分かる、トゲトゲの肩パッドに付いた特攻服のようなものを着たオークやら、トロールやら、ゴブリンやら十数人ほど集まり、ヴァリアッテの事を取り囲み始めました。


 どうやら、ヴァリアッテが一人でいるのを見かけたごろつきが、仲間を呼び出していたようです。


「俺たちにかかれば、十二使徒だってやれるんだぜ? うちら、ヴァルハラ連合にかかれば、魔王だって楽勝だぜ!」


 ごろつき達の頭目らしき、でっぷりと太ったオークがからからと笑った。


「連合? 幼稚園の間違いではないか?」


「あああん?」


 ヴァルハラ連合の人たちが凄んできましたが、ヴァリアッテは全く反応せず、いつもの変わらない態度でした。


「久能。一分でこいつらを片付けよ。もしできないようならば、昼飯は抜きだ」


「はい!」


 ちなみに、魔族と地球人との最終決戦で、久能が逃げざるを得なかったザンダーク公爵のステータスは以下の通りでした。


 久能にとっては未知の領域だった『魔法』を多用していたため、苦戦しただけではなく、勝機を掴むチャンスを見定めるために逃げ回っていたと言えます。


【名前】ザンダーク公爵


【年齢】522


【性別】男


【職業】十二使徒


【レベル】99/99


【HP】32999/99999


【MP】51399/99999


【STR】1577/9999


【DEX】1044/9999


【AGI】908/9999


【VIT】1281/9999


【MND】5788/9999


【INT】5594/9999


【弱点属性】なし


 久能は、体術などではザンダーク公爵を上回っているのです。


 ただ魔法使いとどう対峙していいのか分からなかっただけなのでした。


 そんな久能がタダのごろつき相手に苦戦するはずもありませんでした。


「待って、ヴァリアッテ! もう終わったから!」


 一人当たり数秒で片をつけて、全員を叩き伏すと、さっさと先に進んでいたヴァリアッテを追いかけたのでした。


 街には人が溢れていたのですが、ヴァリアッテが歩いていると、どういうワケか、ヴァリアッテを避けるように道ができるのでした。


 街の人々はヴァリアッテの事を畏怖と尊敬を込めた複雑な眼差しで見守るだけで、声をかけたりすることはありませんでした。


 当のヴァリアッテは、そんな視線などもやは慣れているのか気にしているそぶりさえ見せず、定食屋へと平然と向かっていました。


「変わらぬものだな」


 不意にヴァリアッテが昔を懐かしむような目をしながら、そんな事を呟きました。


「何が?」


 久能はヴァリアッテの後ろを歩いていたのですが、ヴァリアッテが歩く速度をゆるゆると緩めて久能と並んで歩いていました。


 久能はヴァリアッテの後ろを控えるのを諦めて、並んで歩いていました。


「魔族と魔王との距離感というものだな。恐れているからこそ距離を取ってしまう。だが、その強さに心ひかれるものがあるからこそ、恐れおののいて逃げ出す事ができず、かといって、崇拝する事ができぬという曖昧な位置に魔王というものは位置しているらしい」


「なるほど」


 久能は言葉の意味が魔族ではないので上手く飲み込めませんでしたが、とりあえず頷きました。


「この言葉は父上の受け売りであるがな」


 ヴァリアッテは照れくさそうに笑いました。


「ヴァリアッテが肉親の話をするのは、これが初めてかもね」


 久能は数週間ヴァリアッテと過ごしてきましたが、その間、家族についてヴァリアッテの口から語られる事はありませんでした。


 そのため、タブーか何かだと思っていたのです。


「異世界転生の勇者に倒されたという話であるが、よく覚えてはいない。当時、余は師範の元で魔王の修行していたからな」


「魔王の修行?」


 久能は思わずオウム返しをしてしまいました。


 普通の修行ならば意味が分かるのですが、魔王の修行とか如何なる修行であるのか興味を持ったからです。


「魔王であるために必要な教養と知識、そして、魔王としての力を覚醒させるための修行である。久能の世界で言うところの魔王の『義務教育』である。魔王にとっては必要な課程である」


「ヴァリアッテには必要な事だったんだね」


 義務教育と言われても、久能はピンときませんでした。


 魔王にとっての教養課程があるなどとは思えませんでしたし、何よりも魔王にとって必要な教育とは如何なるものであるのか想像できなかったのです。


「魔王たるもの勇者に倒される程度などもっての外である。そういったものが魔王哲学だ」


「魔王哲学!?」


 久能はすっとんきょうな声で、オウム返しをしてしまいました。


 哲学は主題によって区分される事を知ってはいましたが、その区分に『魔王』などという主題があるとは想像したことさえなかったのです。


「父上は魔王として未熟であったのだ。勇者に倒されるなどもっての外である。余は七人の異世界転生の勇者を半殺しにし、簀巻きにして元の世界に戻してやったわ。魔王を名乗るのであれば、造作もない事だ」


 ヴァリアッテがとある店の前で足を止めました。


「変わらないな、ここは」


 大衆食堂と言っていましたが、日本の夫婦でやってそうな街の定食屋さんと言った店構えでした。


 チェーン店やフランチャイルズのお店とは違い、味わいがありそうな雰囲気がしていて、久能は期待が膨らむのを感じました。


「入るぞ」


 ヴァリアッテが扉を開けて中に入ると、


「へいらっしゃい!」


 威勢の良い、ドスの利いた声が聞こえてきました。


 久能はヴァリアッテに続くように入店しました。


 店主らしき男が厨房で調理していたのですが、その男が海坊主そっくりで度肝を抜かれました。


「おお! 久方ぶりだな、ヴァリアッテ。今日は、魔界定食しか出してねぇが、それでいいか?」


「二人分頼む」


「あいよ!」


 海坊主が久能の事をちらりと見たのですが、興味がなかったようで、すぐに調理の作業に戻りました。


「店主は父上の右腕と呼ばれた男だ。今では大衆食堂の店主となってしまったが、昔は今の十二使徒など手も足もでない程の豪傑だったのだぞ」


 店内は半分くらい席が埋まっていました。


 それだけ賑わっていたのですが、入ってきたのがヴァリアッテだと分かると、店内の空気が一変し、お客さん同士の会話が少なくなりました。


 ヴァリアッテはそんな事に気にかける様子を露ほども見せず、カウンター席に腰掛けました。


「言い忘れていたが、お前へのお仕置きは、昼ご飯を食べたら直ちに隣町までデザートを買いに行く事だ。おやつの時間までに戻ってこなければ、お仕置きだな、お仕置き」


「はい」


 隣町までは、この街から十キロほどあります。


 魔界定食を食べた後で、隣町まで全力で行き、デザートを買って、時間内にお城まで戻る事ができるか、久能にはあまり自信がありませんでした。


 ですが、ヴァリアッテのために、必ず間に合わせると心の中で誓ったのでした。



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