ヴァリアッテは政治が分かりません
ヴァリアッテ・スノーホワイトがお仕事のために議会へと入ると、久能氏春は何もすることがなくなります。
政治の話をする議会への入場はヴァリアッテと十二使徒以外禁止されており、中へと入る事ができません。
会議が終わるか、お昼休みになるまで、廊下などで待つしか無いのです。
それは十二使徒の付き人や参謀なども同じで、久能と同じように廊下で待っていたりしますが、ほぼ全員どこかへと行ってしまいます。残っているのは久能くらいなものです。
久能はいつものように廊下に正座をして、ヴァリアッテが出てくるのを待っていました。
「……」
背後に人の気配を感じたのですが、悪意を全然感じませんでしたので久能は反応しませんでした。
「よいしょ」
久能の頭の上に何か柔らかいものが二つ乗せられてました。
なんだろうかと疑問に思ったのですが、背後にいる人物が身体を密着させている事が分かると、久能はさっと頭の上の胸を払いのけて、さっと距離を取りました。
「おっぱいは嫌いだった?」
そこにいたのは、十二使徒が一人ケルベロス・オブ・ヘブンズゲートの付き人をしているサキュバスのマリンバがいました。
マリンバは豊満な胸を惜しげもなくさらしているだけではなく、スタイル抜群なその身体付きを水着のような布一枚で覆っているのです。
普通の男でしたら、そんなマリンバの魅力で虜になっているところですが、久能はそうはなりません。
「特には」
ヴァリアッテと比較しても、マリンバには肉体的な魅力以外、何も感じないのです。
カリスマ性や、久能の心を虜にする魅力があれば話は別だったかもしれません。
「終わるまで時間がまだまだあるし、お姉さんとベッドで時間を潰さない?」
「一人で寝ていてください」
言葉の意味は分かるのですが、久能は面倒なのでそう答えました。
ヴァリアッテを悲しませる事になるのではないか、そう思えると、そう簡単にマリンバの誘いに乗るわけにはいなかったのです。
飼い犬が餌に釣られて、他人について行ってしまうのは、飼い主として悲しいものだからです。
「ヴァリアッテ様一筋なのね。きまじめで可愛いわね~」
マリンバは本気でそう言っているかのように満面の笑みで顔を歪ませました。
「気が向いたら声をかけてね。私はいつだって、ウェルカムよ~」
マリンバは気分を害したようではなく、ちょっと声をかけてみたといった様子でどこかへと消えていきました。
そんなマリンバの事などすぐに忘れて、久能は再び正座をして、ヴァリアッテを待ったのでした。
政治の会議に出ても、ヴァリアッテ・スノーホワイトにはちんぷんかんぷんです。
政治の話はよく分からない上に、そういった教育をあまり受けていないため、関連用語が理解できないのです。
十二使徒の会話が異国の言葉にように思えてならず、聞いているだけで頭がくらくらしてきそうなのですが、ヴァリアッテは机に肘をついて、十二使徒の会話を真剣に聞いている振りをし続けています。
しかも、何か訊かれる時や、話を振られた時や、回答を求められた時は、しばらく思案顔を作り、
「良きに計らえ」
そう重々しく言うのがやっとでした。
本当は政治の事を勉強すべきなのですが、教えてくれる先生みたいな存在がいないため、導線さえ分からない状態であったりします。
政治というものが分かっていないのは、十二使徒には見抜かれているのですが、それで悪さをしようと考える者はもういません。
皆、人類との決戦の際、ヴァリアッテに半殺しにされた事がトラウマになっていて、逆らう気や悪巧みを行う気力がなくなってしまったからです。
ですから、ヴァリアッテ抜きでもきちんと惑星ヴァルの秩序が守られるように政治を執り行っています。
(この会議、早く終わって欲しい。終わったら、久能を連れて昼ご飯を食べる! 美味しいデザートを買いに行かせるのありかもしれなないな)
そのことに、ヴァリアッテは気づいていませんが。