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父、敵陣に一人乗り込む

「さて、菊童丸。此度の件はありがたいとも言えるし、残念だとも言える。将軍であるワシは今回の件を断るわけにはいかぬし、京に行かねばならん。じゃが、そちはここに残れ。いざと言う時には、生き残ったそちが兵を率いて京に上がれ。」

「父上。」

「まあ、大丈夫であろう。そちがここに居ればワシを打ったところで、大義名分を与えるだけじゃ。そうなれば晴元は詰みじゃ。主君殺しなぞ、誰もついてはこん。」

「では、いつでも兵を上げれるように準備させます。それに、貿易や内政でどんどん国力差をつけましょう。調略もそうですね。」

「そうかそうか。お主が居れば、足利家は安泰じゃ。」

「だから、だから父上。死を前にした覚悟など見せないでください。逃げてくだされば、勝てるのです。若輩者どころか、まだまだ子供の私を置いて全てを押し付けようなど。」

「そうじゃのう。ワシも死にとうはないからの。何かあればすぐに逃げよう。そうすれば、すぐ決戦じゃ。それも終わったら、隠居して、今度はワシが朽木に引き篭もるかのう。」

「そうですね。そちらの方がって、結局押し付ける気ですか。」

「はっはっは。大丈夫、大丈夫。ワシもそう変わらん年に将軍に据えられておる。」

「ああ、赤ん坊に丸投げしようとしてましたね。」

「あの時で数えで18じゃぞ。今だって20いくつじゃ。逃げて逃げての人生じゃ。政争に負ける義稙のジジイのせいじゃ。全く。」

ああ、そんなに若かったのか。前世じゃ考えられないな。

「まあ、逃げるのなら任せておけ。それだけは得意じゃ。」

そう言うと、大きな声で笑った。

「父上、それは自慢にならないですよ。」

「何を言うておる、次逃げ切れば勝てるのじゃぞ。」

「そうですね。」

しばらく二人で笑い合った。別れを惜しむように。


その後、数日の準備ののちに父上は旅立っていった。

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