三十六計逃げるに如かず
ああ、今日も仕事だ。暇なのに。
「菊童丸様、怪しい奴が!近づいてはなりませぬ。即刻叩き出しますので。」
「あっ、うん。それ、父上だから大丈夫だよ?」
「このような乞食が・・・・えっ、父上・・・・公方様?」
「そう。そのばっちいのが公方。」
「・・・・これは失礼致しました。何卒何卒ご容赦を。」
おおー、絵に書いたような土下座。
「そうじゃ、そうじゃ。ワシをこのような扱いしおって、一族郎等死罪にされたいのかのう?」
いや、やめたげて。本気で顔真っ青だから。
「いや、ご苦労。職務に忠実な家来がいてこちらも嬉しいよ。父上も御冗談はおやめください。」
「えっ、ワシ結構ほん・「ほら、父上。まずは身支度を整えください。勘助、湯汲みと食事の用意をさせてくれ。そっちの君ももう仕事に戻ってくれていいから。」
「ははー。」
そそくさとその場を後にするモブの門番さん。略してモブ番。
「そうじゃな。この格好じゃな。それに腹も減っておるしな。」
「では、こちらに。」
「なんじゃ、菊童丸。感動の対面じゃ。父の胸に飛び込んで来ても良いのじゃぞ?」
「いえ、臭いので結構です。」
「臭っ?えっ、余臭い?」
「ええ、臭いですね。」
「ガーン!orz」
古っ!後、縦書きだと読めないじゃん。
・・・・
「ふうー、さっぱりしたのう。」
「食事の用意も出来ております。」
「そうか、すまぬの。」
「後で髪結もよこしましょう。」
現在、THE 落ち武者。
「それで父上、今までどのように。」
「先に食事をさせてくれぬか。まともな食事をするのも久方振りでな。」
「そうですね。すみません。」
くっ、親父が飯食ってるの見るの暇。
うん?足音が。
「公方様!・・・よう、ようお戻りなさいました。」
「おう、そちも息災であったかのう。」
「こちらは・・・。公方様。無事なお戻りをお待ちしておりました。まことにまことに・・・」
母上の泣く姿は初めて見たけど、政略結婚だから形だけかと思ってたけど、そだよね千歳丸もいるくらいだし、仲悪いなんてことないよね。
「クンクン。あら?この匂いは?公方様、女性など買ってはおりませぬか?」
「いや?逃げるのに精一杯で買うようなところによる余裕もなかったが?そもそも、今この屋敷で風呂に入れてもらい、服も変えたところなのに、匂いとは?」
「菊童丸!この香はどこで!?」
「香?石鹸に蜜柑の皮練り込んだ試作品なら、置いておいたけど?」
「それね。後で私にも一つ用意なさい。」
えっ?そこ?
「いや、堪能した。やはり、菊童丸のところはいいのう。暖かいまま食べれて。」
「そうですか、それはようございました。で、先月の件以降どのようにこちらまで。」
「ふむ、では話して進ぜよう。そう、500ほどの兵と共に都を脱した余は、国境に達したのだが。」
ずずー。お茶をすする音をさせながら。
「国境には、余の移動を待ち構えた兵が1万はおったかのう。死地を悟った余は兵を叱咤激励し、先陣を切って敵陣中央に切り込み、向かってくる敵を切っては捨て、切っては捨てー。そして、ついには敵本陣まで、辿り着き、敵大将を討ち取ったのじゃが。まあ、そこで力尽きてのう。囲まれた状態から逃げるために、部下達が命を張って余を逃してくれたのじゃ。まこと忠義なもの達じゃった。命ガラガラ逃げ出した余も怪我で思うように動けず、匿ってくれた農民の家にひと月ほど世話になっての。ようやく動けるようになって、今日ここに到着した次第じゃ。」
・・・・・ふーん。
「公方様、それほどの体験をまこと苦労なされたのですね。お怪我の具合はよろしいのですか。」
「父上?それ嘘ですよね。」
「えっ、嘘なのですか?」
「ふむ、嘘じゃよ!はっはっは、武勇伝くらい少々誇張して話させてもらいたいのう。」
「実際のところは、数倍の敵がいるとの情報が入った時点で、脱落兵がゾロゾロ出てのう。戦いすらできなんだわ。そのまま近江に抜けることは諦めて、丹波や丹後のほうを通って脱出するために、十人ほどの供を連れて、道無き道をわけいって、進んだのじゃ。その時に着ていた服や刀は逃げる兵にくれてやってのう。かわりに先程まで着ていた服をもらったんじゃ。」
ああ、かわいそうにその兵は。
「まあ、なんとか敵に見つからずに海に出られたのじゃが、何度か雨に降られたせいかのう。風邪をひいて高熱を出してしまってのう。しばらく、道中の村に厄介になって、ようやく熱も下がって、稙綱の朽木谷までやってきた次第じゃ。本当は供のものに先触れを頼んだのじゃが、ちと腹が減った余は、待ちきれなくての。菊童丸がこちらの屋敷にいるとのことじゃから、様子を見に近づいたところで捕まってしもうてな。」
「お風邪はよろしいのですか?」
「ゴホッ、ゴホッ。まあ、まだ多少咳き込んではおるが、多分大丈夫じゃろ。」
「そうでございますか。まだ、お加減がよろしくないようでしたら、今日はお早めにお休みなされませ。」
「そうか。では、そうさせてもらうかのう。そう言えば、菊童丸はどうしてそんなにボロボロなのじゃ。」
「聞かないでください。」
「なんじゃ?」
「これはですねー「ワーワー。ほら、父上早くお休みにならないと。」
「そうじゃな。では、休ませてもらおうかのう。」
「では、隣の部屋をお使いください。すぐに支度させますので。」
部屋を出て、人を呼ばないと。くっ、何処だ侍女は・・・
「なんだったのじゃ?」
「あれは・・・・」
ああー聞こえない。聞こえないったら聞こえないー。




