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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 7 堕ちた神々  作者: 石渡正佳
ファイル7 堕ちた神々
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さすがトミタ自動車

 広域農道北側現場説明会の前夜に南側現場が再活動したことは伊刈のプライドを深く刺激した。北側現場の撤去指導のかたわら徹底的な調査が進められていた。収集された証拠でもっとも目を引いたのは人を三人まとめて包めそうなくらい大きなザラ紙の包装紙だった。紙の表面は食品を包んでもおかしくないくらいつるつるだった。

 「これ自動車会社のです」喜多がそう指摘するまでもなく貼り付けられた送付伝票にトミタ自動車と三石自動車工業の二つの自動車メーカーの社名が読めた。どちらも日本を代表する大企業だ。

 「何の包装紙でしょうね。折りたたんだあともほとんどないし、よっぽど大きなものを包んでたんでしょうね。といっても車を包むわけはないでしょうし」

 「とにかくトミタと三石に電話してみてよ」

 「え、僕がですか。班長、お願いしますよ」

 「任せたよ」

 「なんか緊張しちゃいますね。トミタの本社に電話かけるなんて」

 「トミタだって町のパン屋だって調査は同じだろう」

 「それはそうなんですがやっぱり天下のトミタですから。明日でもいいですか。なんか今日はムリって感じです」

 喜多は翌朝一番にトミタ自動車のクレーム受付に電話をかけ環境担当の部門に回してもらった。

 「不法投棄現場で御社の社名の書かれた廃棄物を拾得したんですが」

 「どこですか」電話口の担当者は落ち着いていた。

 「犬咬市です」

 「どんな証拠ですか。どうして当社の廃棄物だとわかりましたか」

 「包装紙に貼られていた伝票があったんです」

 「当社に仕向けたものですか。それをFAXで送ってもらうことはできますか」

 喜多は送付伝票の写しをトミタ自動車本社にFAX送信した。三石自動車工業への照会もほぼ同様だった。

 「班長すごいです」その日のパトロールから帰るなりデスクに置かれたFAX用紙を見て喜多が声をあげた。「もうトミタから報告が届いてます。ええと五ページもありますよ」

 「役所の終業時刻に間に合わせようとがんばったのかな。なんて書いてあるんだ」伊刈も興味津々の様子だった。

 「貴事務所が拾得した廃棄物は当社下請けのプレス会社蓮池圧延工業が廃棄した冷間圧延鋼板の包装紙ですと書かれています。廃棄物の委託ルートも調査が済んでいるみたいです」

 「業者はどこ」

 「あきるの環境システムです。すごいです。昨日の今日じゃなく今日の今日ですよ。一日でここまで普通やりませんよねえ」

 「クレームは即日処理だと公言している会社だからね。そのポリシーが嘘じゃないことが証明されたかな」FAXで届いた報告書を覗き込みながら伊刈も感心したように言った。

 「なんでそこまでやるんですか」

 「顧客サービスってこともあるだろうけどブランドイメージ防衛のためだよ。とくに役所からの調査だからね。報告が遅れればあちこちにトミタの社名を出して調査を進めるかもしれないだろう。そうなったら不要な風聞が流布するかもしれない。そうならないようにするには初期対応が重要だってことだろう。役所も見習わないといけないよな。手が足らないからって不法投棄現場を何年もほったらかしてたらイメージダウンで会社ならとっくに潰れてるよ」

 「三石自工の報告も今日中に届きますかね」

 「それはどうかなあ。あそこは同じ自動車会社といったって不祥事続きだろう。危機管理能力には差があるんじゃないかな。走行中のトラックからタイヤが外れる事故のリコール隠しはひどかったよな。三石財閥グループの総合力でなんとか持ちこたえてるけど次にまた隠蔽事件を起こしたら終わりだろうな」

 「班長なんでも詳しいんですね」

 「これくらいのこと新聞に書いてあるだろう」

 三石自工からの報告書は中三日置いて四日目に届いた。内容はトミタと同じだった。三石自工だって日本を代表するメーカーとして車の性能に遜色があるわけではないだろう。しかし危機管理のスピードではかなり水を開けられていることがはっきりした。そのトミタですらリコール発表が遅れてバッシングされることがあるのだから自動車は怖い。伊刈のチームはいつの間にかリスク管理の最前線の緊迫した世界で仕事をしていた。

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