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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 7 堕ちた神々  作者: 石渡正佳
ファイル7 堕ちた神々
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さらし首

 調査で社名が出た排出事業者、収集運搬業者、中間処理業者、無許可のダンプドライバーなど四十に余る業者を呼び集めて調査結果を説明する当日になった。関係会社が続々と環境事務所二階の大会議室に集まってきた。合併前までもともと市役所だった建物なので大会議室は広かった。学校の教室二つ程度の大きさの室内にはニシキパワーエナジー、オブチ、エコユニバーサル、円、レーベル、桜井興業、般若商会など、錚々たる顔ぶれが並んで満場となり、図らずも不法投棄サミットと言うべき前代未聞のイベンドになった。嵐山など穴屋の姿だけはさすがになかった。出席を申し出た業者の中で大和環境の小堂営業部長と右翼の大藪の姿だけが見えなかった。二人を待たずに伊刈は開会を宣言した。

 「不法投棄の責任のある会社と責任のない会社をはっきりさせることが本日の会議の趣旨です。きちんと仕事をしたのに不法投棄の嫌疑を掛けてしまった会社の汚名を晴らす責任があると思うのです」

 配布資料には調査対象となった四現場の不法投棄に関与した業者が実名で記載され、チャート(不法投棄ルート図)も添えられていた。まさか実名の資料が配布されるとは思っていなかったのか会場は水を打ったようにしんと静まり返った。資料の左肩にはこれ見よがしに「部外秘 公表・コピー・転載不可」と朱書きされていた。秘密だと強調すればするほど情報が漏れることは計算済みだった。リストアップされた業者名はその日のうちに関東一円に知れ渡るに違いなかった。それまで関係者の間で噂されていたアウトローの業者名が次々と読み上げられていった。伊刈の言葉を聞き漏らすまいと場内の緊張が嫌でも高まった。

 「なにか弁明があればお願いします」説明を終えた伊刈は不法投棄ルートへの流出ポイントとなった業者に起立を促した。

 まずエコユニバーサルの豊洲工場長が立ち上がった。「ご説明いただいた調査結果について異議はございませんが一言だけ申し上げます。当社としてはむしろ被害者という立場でございますが、取引先のみなさまにご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。現場の廃棄物の撤去につきましては当社の責任で協力させていただきます」

 続いて円の安座間が立ち上がって深々と頭を下げた。場違いに妖艶な彼女の姿を出席者は意外な顔で見守った。「運転手の勝手な判断で皆様に申し訳ないことをいたしました。エコさんと協力して撤去することをお約束します」

 不法投棄に介在したその他の業者からの出席者も次々と立ち上がった。「たまたま魔が差しました」、「流しのダンプに騙されました」といった常習性を否定する発言が続いた。出席者の誰もそんな説明を信じている様子はなかった。満場の会議室の中でこれまで噂でしか聞いたことがないアウトロー業者が謝罪している。不名誉な場とはいえ、まさに悪神たちの降臨だった。これは衝撃的なことであり、当事者にとってはこの上もなく大きなダメージだった。

 「レーベルにつきましては不法投棄の原因者として特定されたわけではありませんが任意に撤去協力のお申し出をいただいております。実際の撤去工事につきましては太陽環境最終処分場の窓口会社である昇山に行っていただきます」不法投棄の関与を特定できないという伊刈の潔い説明ぶりにレーベルの万年工場長は感銘を受けた様子だった。この時以来、彼は伊刈に最大の敬意を持って接するようになった。

 「撤去は明日の早朝から開始します。初日の工事はメディアに公開しますので全社に参加してもらいます。それ以降は提出していただいたスケジュールに従ってください」メディアへの撤去工事の公開はダメオシとして欠かせなかった。伊刈は本課に内緒でやりたかったが、仙道の判断で、どたんばになって本課と協議して市の記者クラブへの投げ込みを認めてもらっていた。

 「これで説明会は終了します。希望される方には扇面ヶ浦と広域農道の二か所の現場にご案内しますので駐車場でお待ちください」伊刈の閉会宣言で不法投棄サミットの第一部が終わった。

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