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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 7 堕ちた神々  作者: 石渡正佳
ファイル7 堕ちた神々
14/20

名演技

 伊刈は福島の根津商会の藤堂を再び呼び出した。藤堂は四の五の言わずに出頭してきた。関係ないと言いながらわざわざ福島から犬咬に二度まで出頭してくることがそもそも怪しかった。しかし藤堂のしらばっくれ方は今度もお見事だった。

 「大久保さんをご存知ですか」

 「いいえ知りません」

 「一松さんは」

 「存じません」

 「どっちかが栃木の根津商会の社長だと思うんですよ」

 「同じ社名の会社は結構いっぱいありますから。うちとは何も関係ないです」

 「東北保全という会社はどうですか」

 「いいえ知りません」

 「大杉という名前は」

 藤堂は静かに首を振った。「もう勘弁してください。私はただの電気工事屋なんですよ。産廃屋さんは全く知りません。ほんとに寝耳に水なんです。どうしてうちが不法投棄しなきゃならないんですか」

 「円の安座間さんという女社長はどうですか」

 「いいえ」藤堂は何を聞かれても知らないの一点張りだった。だが勝手に社名を使われ、不法投棄の濡れ衣を着せられているというのに妙に落ち着いていた。藤堂も不法投棄に介在している組織の一員なのは間違いなさそうだった。

 藤堂が帰ると伊刈は調査結果を整理するための会議を開いた。

 「根津商会が広域農道南側現場の鍵を握っていることがはっきりしてきたよ。福島の根津商会の社長は藤堂という電気工事屋だった。あきるの環境システムの逆貫社長によると栃木市の根津商会の社長は大久保だという。振込口座番号もわかっていて名義は大久保だった。エコユニバーサルの豊洲によると根津商会の社長は一松で、大久保は東北清掃運搬の社長だという。でも東北清掃運搬という会社には実体がない。長嶋さんの情報では大久保の会社はもともと栃木エコステーションといって、収集運搬業の許可を取消された後は東北開発公社に商号変更している。一松は金剛産業の社長の実弟で事実上のオーナーだ。東北保全という会社の社長として最近逮捕されている」複雑な会社の関係を伊刈が整理してみせた。

 「似たような会社がいっぱいなんですね」喜多が率直な感想を述べた。

 「どれがほんとでどれが嘘か見当がつかない」遠鐘が言った。

 「大杉の正体は見えてきました。あきるの環境システムに営業に行った大杉、くるみ興業に営業に行った大杉、それから大久保の倅が使っている偽名が大杉、これは全部同一人物の可能性が高いすね」長嶋が発言した。

 「確認できている事実は、福島の根津商会の社長の藤堂が実在するってこと、あきるの環境システムが処分代金を振り込んだ口座の名義は栃木の根津商会の大久保だってこと、金剛産業の処分場が存在すること、東北保全の社長の一松が逮捕されたことだ」伊刈が答えた。

 「円の社長の安座間も実在しますね」遠鐘が言った。

 「実体がわからないのは東北清掃運搬と東北開発公社だ。この二社はとりあえず無視しよう」伊刈が言った。

 「大久保と一松は別人なんでしょうか」喜多が尋ねた。

 「両方とも前科があるから別人だな」長嶋が言った。「ただし一松が大久保の名を語ったり、その逆だったりってことはありえるな」

 「大久保は執行猶予中なんで一松の名前を借りたんじゃないですか。それで似たような名前の会社をいろいろ作ったとか」喜多が言った。

 「ありえる、かなりありえる」伊刈が頷いた。

 「福島の藤堂はどっちの舎弟でしょうか。一松と大久保と」遠鐘が言った。

 「大久保だと思ってたけど一松なんじゃないすか」長嶋が言った。

 「オブチ、エコユニバーサル、円、そしてもう一つ第四の業者がある。説明会の前日に南側現場の不法投棄をやったのは、この第四の業者だと思う。この業者を円の安座間はよく知っていた。そう思わないか」伊刈が喜多を見た。

 「僕もそう思います」

 「ずばりこの第四の業者はどこだろう」

 「それはもう栃木の根津商会の大久保しかありえないです」喜多が答えた。

 「一松じゃないのか」長嶋が言った。

 「いえ大久保です。口座の名義が大久保ですから」喜多がきっぱりと繰り返した。

 「なるほど。だけどどうやって大久保だってことを特定しようか」伊刈が言った。

 「エコの立ち入り検査をやりましょう。根津商会との契約があるかもしれないです」喜多が答えた。

 「僕もそのつもりだった。しかしまずオブチからだ。オブチの神田は意外と正直になんでも話すような気がする。エコの豊洲はなんにも知らない。エコを落とすには社長に会うしかない」伊刈が言った。

 「エコの吉田社長はあっちの人間ですよ」長嶋が言った。

 「国籍なんて関係ないよ」伊刈が応えた。

 「円はどうしますか」長嶋が言った。「大久保の関与を知っているとすれば円の安座間だと思うんすよ」

 「安座間が話すと思うか」伊刈が言った。

 「まあそおっすね。あっさり口を割る玉じゃないすね」

 「円にはいずれ行くよ。まずオブチから落とそう」チーム全員がしっかりとした関心を持って調査にあたっていることを確認できて伊刈は満足だった。自分たちは史上最強の不法投棄調査チームだという自負が確信に変わった。

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