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暁の攻防

――追跡三日目


――グギョギョギョ

 夜明けにはまだ間のある暗闇の中、ゴウロック族の野営地にタートルクロウの鳴き声が響いた。すると光珠が野営地の西方から飛んで来た。光球は野営地の上空で止まると、さらに光を増し、昼間のように明るくなった。


――ドパァァ

 一体のロックリザードが頭から血を垂らして、どうっと倒れた。


 ゴウロック族の見張りは攻撃された方向を確かめようとするが、周囲が暗くて視認できない。


――ドパァァ

 二体目のロックリザードも同じく倒れる。


――フシュン

 今度は南方から矢が飛んできて、見張りの一人に刺さった。



****

「メタルバレット」

 修一は、三度目の中級土魔法を唱える。遠くで三体目のロックリザードが倒れた。


「三体目。あと五」

 呟きながら、野営地を右に見ながら北に駆ける。


――ザシュ

 ネイサンの放った矢がロックリザードの鼻面に刺さった。硬い頭部を貫通はしておらず大した怪我でもない。だが、パニックになって山岳民を巻き込んで暴れだした。


(四体目、あと四。なるほど、倒さなくても混乱させれば足止めになるか。なら俺も初級魔法で――)


「ストーンバレット」


――ドスァ

 修一の初級射撃魔法がロックリザードの頭に着弾。その硬い頭蓋を貫けなかったが、衝撃と痛みでリザードが暴れだす。


(五体目、あと三体)


 修一の耳にときの声が届く。野営地の南から、アシュレイ、ゴルバス、ニール、シズルが斬り込んだ。

 ネイサンとマノラが遅れて続くが戦いの輪には入らない。ネイサンは弓矢、マノラは阻害魔法で援護している。


 修一だけ別隊となって野営地の西から遠距離射撃でロックリザードを潰すことになっている。ロックリザードは背中の輿に五人も乗せるほど大きいので、混戦中でも遠距離射撃は容易だ。


「ストーンバレット」


 またもロックリザードの頭部に直撃し、暴れ出した。

(六体目。だが間に合わん!)


 残り二体のロックリザードが、ロディア湖に向けて移動を始めた。先頭のロックリザードの輿にプリシラと王女の二人が乗せられている。これに攻撃したら、プリシラ達が振り落とされかねない。


「ヘイスト」

 初級風魔法ヘイスト。修一は加速し、ロックリザードの後部まで追い付く。


「うおおおっ、ガストっ」


 修一は走りながらロックリザードの背中に向けて飛び上がった。同時に初級風魔法ガストによる突風が宙に浮かぶ修一を押し上げる。


 空中から、ナイフを投擲とうてき。盾で防がれるが、山岳民の視線が切れた瞬間に輿に着地。


 二人目が斬りかかるが、左の篭手で受けながら、刺突。振り返って、一人目の首筋に下段から斬り上げる。二人ともまだ息はあるが、蹴り落とす。


 御者をしていた三人目が立ち上がるが、修一が先を取って袈裟斬り。斬られてよろめいたところを、突き落とす。


「ブフォオオオゥ」

 ロックリザードが御者がいなくなったことで混乱する。


「アンフォーカス」

 精神を弛緩させる精神魔法。弛緩状態になったところに暗示をかけることで、行動を誘導する。強力な魔法だが射程は短い。修一は平穏のイメージを送りながら、手綱をとる。


「落ち着け、どうどう」

 御者席に座ってロックリザードに声をかけると、興奮していたロックリザードが次第に落ち着いてくる。


「修一!」

 プリシラは、御者席に座っている修一の背中に飛びついて、後ろから抱きしめる。


「プリシラ、無事かっ」

 修一は慣れない手綱を握って必死にリザードをなだめていて、プリシラの顔を見る余裕はない。ただ彼女の声と身体の温かさを感じた。


「プリシラ姉さま、彼らが大弓を取り出しました」

 第四王女が焦った声をあげる。


「プリシラ、後ろが見えるか?」


「後続のロックリザードの輿の上で弩砲バリスタをこちらに向けて準備をしています」


「牽制でいいから、魔法を撃ってくれ」


「魔法が使えません。封魔の首輪を付けられました」


「魔道具なのか」


「何種類かの金属部品で組まれただけの首輪ですが、金属はマナ錬成に干渉しますから」


「プリシラ、俺だって短剣使いながらマナ錬成できるんだ。君にもできる」


「平静時に集中すればできるかもしれませんが、今は無理です!」


「俺を信じろっ。後ろのロックリザードが見える体勢で俺の膝に乗れ」


 背中に抱きついていたプリシラは躊躇わず、修一の正面に回って膝にまたがる。いわゆる対面座位の格好だが二人とも恥ずかしがる余裕はない。


「視線はバリスタに。だが集中して見なくていい。二人の身体を合わせて俺の心臓の鼓動を感じろ。やがて俺の存在が君の身体全てに満ちる。そしたら魔法を唱える。それだけでいい。マナのことは考えなくていい」


 プリシラは修一の背中に回した両腕に力を込めて、自分の身体と修一の身体を密着させる。言われた通り鼓動を感じようとした瞬間、修一の汗の匂いがツンと漂ってきた。


「フフ、修一、汗臭いです」


「え?」

 修一は緊迫した状況に似合わない言葉に当惑した。


「イグニション」


――ガキンッ

 プリシラが着火の魔法を唱えると封魔の首輪の接合部が壊れた。


「修一の匂いで頭が一杯になってしまいました」


「は?」


「ファイアボルト」

 プリシラの火弾が弩砲バリスタに直撃する。火弾が爆発を起こし、乗員が三人吹っ飛ばされた。


「フレイムラディエーション」

 火炎放射が残り二人の乗員を襲うと、彼らは身体にまとう火を消そうともがいて輿から転がり落ちた。


「修一」


「あ、ああ」


「こんな格好、恥ずかしくて頭が沸騰しそうです」


 戦闘が終わって我に返ったプリシラが、真っ赤になって、修一の胸に顔を埋めた。

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