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啓示の賢者

「マノラは魔法戦士さ。修一の同類だな。戦棍メイスを武器に使う」


 もぐもぐ食べ続けているマノラの代わりに、ネイサンが紹介する。


「武装して魔法を使うのは相当難しいと言われたけど?」


 ニールよりさらに背が小さい、絶対十五歳には見えないな、と内心驚嘆しながら話す。


「ドワーフ種族は、背は小さいが力が強いのは知ってるよな? そしてマノラはドワーフには珍しく魔法の才能もある。だがメイスは親父のお下がりでミスリルメッキの最高級品。これはマナ錬成に殆ど干渉しない。そしてローブの下には、防具は着けていない。普通の武装をして魔法が撃てる修一は、やっぱり特別だな」


「そうか。修一だ、よろしくマノラ。俺は土魔法の射撃と短剣が得意だ。マノラの得意魔法は何?」


「ふらうろろんろろーる」


「クラウドコントロール?」

 修一はまさかとは思うが、パッと思い付いた単語を言ってみた。


「よく分かったな、修一。マノラはアースピットとスロウで、敵集団の連携を乱すのが得意なんだ」


「おおー、そんなに若いのに渋い戦い方するんだな」

 若い頃やり込んだMMOで、修一もこの手の戦術を好んでいた。


「あたし素早くないし、魔法杖使っても攻撃魔法の威力がないから」


 食べ終わって滑舌が良くなったマノラは、誉められて少し恥ずかしそうだ。


「マノラの魔法は威力はないが、錬成時間が短いんだ。だから数は撃てる。それを活かして、仲間を支援する戦い方だな」


「なるほどねえ。ずっとニール達と迷宮通いしてたけど、行動阻害魔法をパーティ戦術として使ったことはなかったな。今度使ってみよう」


「自己紹介はここまでにして任務内容だ。お偉いさんとは、啓示の賢者様だ。そしてコーエン領騎士団から四人が同行する」


「賢者がお出ましか。さらわれた第四王女への対応が早いな」


「いや、賢者様はスタンピードへの対応が優先だ。北部国境を守る砦をまずは確保する。お嬢と姫の救出は、王都で救出部隊が編成中だが、おれ達冒険者と騎士団の四人が先行して追跡する」


「まだ王都なのか。時間がかかり過ぎる」


「国外遠征になるからな。規模も大きくなる」


 三人でしばらく任務内容を話し合った後、一同は、修一の装備品と大量の食料を買いに行った。買い物が終わると昼時で、待ち合わせの時間となり、北門出口へ向かう。


 北門外の広場に、二頭建ての馬車がいる。その周りに、部分鎧の上に軍衣サーコート姿の騎士が四人いて、装備品の確認をしている。


「お待たせしました。砦までの案内役のパーティ『大食い』です」

 ネイサンが近づいて挨拶をする。


 修一は、馬車の中から、これまでに無い強大なマナ揺動を感じた。その馬車から、ローブ姿の女性が降りてきた。啓示の賢者アメリアに違いない。


(若い!)


 修一の彼女への第一印象は年齢への驚嘆だ。三十年前の独立戦争の時に七賢者が活躍したと聞いたが、まだ二十台に見える。身長は修一と同じくらい、栗色の髪を無造作に伸ばし、化粧っ気は無いが美人だ。


「こちらへ」


 賢者はそう言って修一に手招きをした後、騎士達に目配せをする。騎士達は、会話の邪魔にならないように、距離をとった。ネイサン達もそれに習う。修一が近づくと、彼女は魔法杖を左手に持ち、右の掌を修一に向ける。半眼の瞑想状態となった。


「プリシラから記憶喪失と聞いた」


 賢者は修一に向けた掌をゆっくりと動かしながら言う。


「はい。魔法使い時代の記憶が曖昧です」


「恐れている、自分の中にあるものを。自分の強さ、自分の記憶、そしてもう一人の自分」


「そうかもしれません」


「いずれ世界に関わる選択をする。君にとっては苦難の選択となる」


 賢者は伏していた眼を開け、大きく息を吐いた。


「今のが啓示ですか」


「そう。これで全て。今回は映像は見えなかった」


「何を選択するのか、怖いですね」


「一つ助言をしても?」


「ぜひ」


「怖いのは失うものがあるから。失いたくないものは何だ?」


「仲間、かな。プリシラやアシュレイやニール、こちらに来てから、いい仲間に出会えました」


「そうか。君はひとりじゃないのだな。なら仲間を信じなさい。きっと助けてくれる。これは啓示じゃないけどね」

 賢者が微かに笑った。


「はい。頼れる仲間です」

 修一は少し気が軽くなる。


「ところで、プリシラをた時に、俺の姿が出てきたのですか?」


「そう。君の姿だった」


「俺が賢者の弟子というのは?」


「君のローブと短剣は、ヴィクターの物」


「賢者ヴィクターですか。彼と行動を共にした記憶が断片的ですが、確かにあります。ローブや短剣を入手した時の記憶はありませんが」


「君のレベルは?」


「不確かな記憶ですが、転移時点で四十七でした。それが正しいなら今は四十八」


「この国では私達宮廷魔法士の次にレベルが高いな。上級魔法は?」


「上級魔法を使った記憶はないです。共鳴魔法は試したら発動できました」


「土魔法の射撃が得意なら、そのレベルでも上級土魔法を習得できるはず。私は一通りの上級魔法は使えるので道々教えよう」


「ありがとうございます」


 遠慮して遠巻きにしていた騎士達やネイサンだったが、会話が落ち着いた様子を見て、一人の騎士が近づいてくる。だが賢者は掌を挙げ、少し待て、というジェスチャーをする。


「ヴィクターが死んだ時の状況を覚えているか? 君がノルン村に現れるしばらく前に、私はヴィクターの啓示を得た。彼は死んだ。近くに君がいた」


「彼が瀕死の記憶があります。状況は分からない」


 修一の呼吸が荒くなり、顔色が青くなる。この世界に転生した頃よりも、賢者の死の記憶が、感情を揺さぶる。修一の半身「シュウイチ」の自我が強くなっているのだろうか。


「落ち着いて。息を長く吐きなさい。君に原因があっても責める気はない。事実を知りたいだけだ。ヴィクターは、私達の師であり、養父ちちであり、同志だった」


「養父?」


「元々、私達六人の宮廷魔法士は、戦災孤児だ。魔法の才能があった私達をヴィクターが引き取り育ててくれた」


「三十年前の独立戦争の頃の話ですよね?」


「そうだ。フフッ。私の年齢は察したまえ。レベルが高いほど、身体能力が高まるから、年齢より若く見える。不老ではないから、ゆっくりと老けていくがな」


「賢者ヴィクターはどんな人だったんですか?」


「修行中に、褒められたり叱られたことはなかったな。だが戦争で大きな戦果を出した時は喜んでくれた。国の単位でないと感情が動かない人だ。人としては欠けたところがあるよ。彼に育てられた私達もな」


「恨んでいるのですか?」


「いや全く。あの戦乱の時代、温かい食事と寝床を与えられただけでも有り難かった。だから、やれと言われたことは何でもやった。私達は、人を殺し、村を焼き、街を壊して、レベルを上げた。国を滅ばした時には上級魔法使いになっていた」


 修一はアメリアの眼を見た。ただ過去の事実を語っている、それだけの眼差しだった。


 目の前に怪物がいる、修一はそう思った。そして多分、自分の中にも。

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