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射撃魔法と古武術でまかり通る異世界英雄譚  作者: 丸山きゅうたろう
第二章 迷宮街の新人冒険者
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オーガキング戦

――サラトガ迷宮十一日目。下層ボス広場


「ストーンショット」


――ガガッガガガッ


 修一が三体の眷属けんぞくオーガに散弾を放つ。オーガはさすがに高レベル魔物だけあり、数発の散弾を受けても致命傷には遠い。だが動きは鈍くなっている。


「ニール、シズル、頼んだ!」


 修一は向かってくる眷属の三体をかわして、広場の奥に駆けた。待ち構えていたオーガキングは、修一に戦棍メイスを振り下ろす。


(パリィ)


 マナをまとった短剣でメイスを受け流す。オーガの手からメイスがすっぽ抜けて宙に舞った。巨体も大きく崩れて、修一の眼前に首筋をさらす。


「シッ」


 武技も魔法と同じく間髪入れずの連続発動はできない。普通の斬撃を首筋に見舞ったが、手応えは十分。首筋から血飛沫ちしぶきが舞う。


「よしっ」


 拳に力を入れて小さくガッツポーズ。


 首筋への斬撃、確かにオーガキングには致命傷だった。次第に動きは鈍くなっていくはずだ。だがオーガキングまだ戦える。修一は、喜びで油断した直後、オーガの拳を胸に受けて吹き飛ばされた。


「ガハァ」


 吹き飛ばされた修一は床に頭を強く打って目がくらむ。オーガに強打されて息も詰まっている。


 ゲームキャラの「シュウイチ」は武技アーツを使えるだけでなく、その基盤となる剣術と柔術の達人だった。実際に今の修一の身体なら達人的な動きができる。だが修一自身の精神は素人だった。「残心」――あらゆる武術で必ず教わる基礎中の基礎、その心構えが欠けていた。


 仰向けに倒れている修一の脚元に、オーガキングがノシリと歩き寄る。


「ガァァァァ」


 オーガキングは咆哮すると、らんとした瞳で修一を睥睨へいげいする。そして脚を上げると、修一の下腹に向かって蹴り下ろす。その直前――


「ふんぬぅ」


 シズルがキングに体当りをかました。巨体の軸が僅かにぶれて、蹴りの軌道が修一から外れる。キングは彼女に拳を振るうが、シズルは盾を使って受け流す。だがシズルの相手をしていた眷属オーガが、彼女の後頭部にメイスを叩きつけた。


――ゴンッッ


 打撃音は鈍く大きな音だった。シズルが崩れ落ちる。


「ストーンバレット!」


 やっと呼吸の戻った修一が魔法を唱える。石弾は眷属オーガのこめかみを貫き頭蓋内をえぐり潰した。


「シズルッ!」


 眷属オーガ二体を相手にしながら、ニールが大声を上げるが、シズルは伏したまま動かない。うつ伏せに倒れた後頭部からは血が流れている。ニールは駆け寄りたいが、眼前の二体に阻まれる。


「ハァァァ、ソードストリーク!」


 連続斬撃を発動する中級武技。ニールは実戦では殆ど使ったことはない。絶対に発動するという覚悟を持って声に出す。


 二連撃。二体のオーガの下腹部が横一文字にぱっくりと裂けた。魔物の四肢から力が抜けて膝をつく。


「ハァ!」


 ニールは動きの止まった二体に、更に剣を二度振るってとどめを刺した。オーガ達のマナ揺動が止まったところで、ニールは小さく息を吐く。修一を見るとちょうど立ち上がるところだ。加勢しようと、キングの隙をうかがう。



「フゥ、ハァ」

 荒い息をして修一は立ち上がった。無手だ。吹き飛ばされた際に短剣は落とした。


 オーガキングも武器は持っていない。だがオーガには刃に優る爪がある。体格の差は大人と子供。それでも修一は、一刻も早くオーガを倒してシズルにハイヒールをかけなければならない。マナを浪費せずに眼前にそびえる巨体を倒したい。全く無茶な望みだ。だが修一の戦闘本能は、それが可能だとささやいている。


「フウゥゥゥ」


 修一は長い息を吐く。表情が消える。身体だけでなく精神も「シュウイチ」に切り替える。「シュウイチ」こそは戦闘本能の化身。もはや恐れも焦りも油断もない。


 本来、オーガキングは格下なのだ。シュウイチにとっても修一にとっても。そしてシュウイチの潜在武力が全て発揮されるならば、重傷のキング相手に武技は要らない。


 その場で動かず修一の様子を警戒していたオーガキングだが、小さく唸ると、残り少ない命の炎を燃やして襲いかかる。拳を開いて爪撃を振るう。


 シュウイチは巨体の深い懐にするりと入りながら、両掌でオーガの振り下ろした爪撃を迎える。シュウイチの掌によってオーガの手首が柔しく包まれた瞬間、オーガキングは自身の身体制御を失った。


 爪撃の勢いはそのままに、巨体の重量も加えて二メートル半の高さから、オーガの頭が床に叩きつけられた。


――ゴギンッ


 大木の折れた音がする。


「フウゥゥ」


 油断なくマナ揺動を探る。オーガキングのマナ揺動だけでなく、全てのオーガのマナ揺動が消えていた。ニールが唖然と修一を見ている。


 シュウイチから戻った修一は、シズルに駆け寄って、治癒魔法ハイヒールをかけた。流血が止まり、マナ揺動が安定する。意識はまだ戻らないが、容態は落ち着いている。しばらくここで休ませて、もう一度ハイヒールをかければ快方に向かうはずだ。


「すまない、シズル、ニール。自分の強さにおごって、油断していた」


「キングを倒せるほど強いのに、新米の冒険者みたいに油断する。このちぐはぐさは記憶喪失だからなんだよね?」


「ああ、魔法剣士の身体を使いこなせていない。戦闘の時は本能に任せてやってきたけど、それじゃあダメだ。今の俺自身が強くならなきゃ」


 修一は消沈した顔をニールに向けて改めて謝罪し、臨時パーティの解消を申し出る。


「ニール、足を引っ張って済まなかった。明日からは一人で上層のゴブリン相手にやり直すよ」


「謝罪は受け取るよ。修一はちゃんと反省するべきだ。だけどパーティは解消しない。ボクとシズルが修一を鍛え上げるから覚悟してね!」


 ニールの明るくて前向きな態度に、修一の気持ちがほぐれていく。軽口をたたく元気が出た。


「……これからもニール先輩に頼っちゃおうかな?」


「任せて!」

 ニールの鼻が膨らんだ。



****

 修一がプリシラと別れてサラトガ迷宮街に来てから季節が変わりつつある。マントがないと肌寒いと思う日が多くなった。十日に一回ほど、互いにギルド経由で近況を知らせている。彼女は公務で忙しいらしく、合流する機会はまだ先になりそうだ。


 修一はギルドにはあまり顔を出していない。ダモン達と顔を合わせないためだ。迷宮素材の売却手続きはニール達に任せることが多い。今日も迷宮から戻ると、街の入口で修一はニール達と別れて、宿に帰った。


 修一が宿で夕食を食べているところに、ニールが一人で訪ねて来た。


「修一、領都のギルマスから指名依頼が来たんだ。依頼内容は聞いてないけど、ボクとシズルは、最優先で領都のギルドに行かなくちゃならない。仲間の二人は領都にいる」


「急な話だなぁ。サラトガ迷宮の第一人者を引き抜くんだから大事おおごとだね。気を付けて行って来いよ」


「うん、それと頼みがあるんだ。一昨日からノビアが休んでいるんだよ。心配でさ。ノビアの様子、見に行ってもらえないかな」


「了解。俺はまだここの迷宮で戦闘訓練を続けるよ。プリシラに呼ばれるまでは、ここで少しでも強くなっておきたいからな」


「それがいいかもね。でも修一、ダモン達がまた絡んで来るんじゃないかな。もう少し冷却期間をおけば、ダモン達も変わると思うけど」


 ニールの懸念に、修一は厳しい顔で沈黙した。やがて迷いを捨てた表情で応える。


「ダモンがまた絡んできて剣を抜いたら……俺はアイツを殺す。その覚悟を決めたよ。俺はアイツより強い。だけど殺す覚悟ができてなければ、いくら強くても殺される側になる。ニール、俺は間違っているかな?」


「……いや、修一は正しいよ。冒険者が人に向かって剣を抜いたら、人を殺す覚悟も殺される覚悟もあるってことだ。剣を向けられたら、街から出ていくか殺し合うしかない」


「ああ、俺はここでやるべきことをやるだけだ」


「うん、修一も気を付けてね。ボク達は今から発つよ。最速の指示だからね、馬を乗り継いでいく。今シズルに手配してもらってる」


「大変だな。シズルと挨拶してる暇はなさそうなので、よろしく言っておいてくれ」


「うん、言っておく。また会おう修一」


「今日までありがとうニール。また会おう」


 二人は拳を軽くぶつけ合って再会を誓った。

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