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射撃魔法と古武術でまかり通る異世界英雄譚  作者: 丸山きゅうたろう
第二章 迷宮街の新人冒険者
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冒険者ニールとギルドマスター

「そこまで! ここで剣を抜いたら取り返しがつかないよ」


 制止したのは十二歳くらいの銀髪の美少年だった。眉間に三日月型の向こう傷があって、それが美少年ぶりを損なうよりも、かえって凛々しさを醸し出ている。


 修一は、少年の言葉を聞くと、ダモンから距離をとりながら、マント下で抜いた短剣を納める。だが柄から手は離さず成り行きをうかがう。ダモンは立ち上がって剣に手をかけたまま、修一を睨む。


「もうっ、何やってるのさダモン。この前警告されたばかりなのに」


 銀髪の少年は細い眉をしかめて、口を尖らしている。


「うるせぇな、ニール」


「ギルドマスターが来る前に出て行った方がいいよ。彼にはボクから報告しておくからさ」


「チッ、お前ら行くぞ」


 ダモンはニールの提案に逆らわず、仲間の二人に声をかけた。


「テメエ、迷宮じゃ一人にならないことだな。迷宮は証拠も遺体も飲み込むからな」


 修一に脅しをかけてから、仲間と共に出口に向かう。


「ダモン!」


 修一が声を荒らげてダモンを呼ぶ。振り向いたダモンに言う。


「次は殺す」


 ダモンは修一を睨むが、やがて無言のまま出て行った。


「それで? 途中からしか見てないけど、ダモンが新参の冒険者に難癖つけて殴りかかった、という理解でいいの?」


 ニールが周りの者達を見回しながら問うと、次々と肯定の呟きがなされた。


「やっぱりダモンが原因か、ハァ……。そしてキミもわざわざ煽り返さないでよね」


 ツカツカと修一の側まで来て、上目遣いで注意してくるが、可愛らしい童顔で全く迫力がない。


「アンタはダモンの仲間なのか?」


 アシュレイはニールをいい奴だと評したが、警戒は解けない。


「新米の頃、お世話になったんだよ。ダモンはこのギルド最古参で、兄貴分て感じだったのさ。でも最近は荒れてて、問題起こしてばかり」


「何かあったのか」


「何も。あえて言えばBランクの壁かな。でもずっとCランクのまま腐らずにやってる人の方が多いんだし、言い訳にならないよね。筋の悪そうな仲間もできたようだし」


「そうか。場を収めてくれてありがとう。修一だ。さっき登録したばかりのDランクだ」


「Bランクのニールだ。ふうんDランクか。コネがあるんだね。それがダモンの癇にさわったってとこか」


「詮索されるのが嫌で、こちらも素っ気ない態度で通したからな」


「分かってるって。冒険者の事情はそれぞれ。言いたくなければ言う必要ないよ」


「お気遣いどうも」


「ボクは言うけどね。ボクのこと、十五歳位だと思ってるだろうけど、これでも十八歳だからね。母さんがハーフリングなんだ。まだまだ成長期はこれからさ。あと、ハーフリングとヒューマンの子作りに関する冗談は禁止ね」


「お、おう」


 せいぜい十二歳にしか見えない、とか、もう成長期は終わっているのでは、とか、冗談ではなくどうやって子作りしたのか、とか色々気にはなったが、言葉に出さずに我慢した。


「あ、床の修理代はギルド持ちにしろって言っておくから。断られてもボクが出すさ。有望な新人さんに、このギルドが見放されないようにね」


「あはは、よろしくお願いしますよ、先輩」


「ああ、任せてよ」

 ニールは鼻の穴を大きくして、得意気な顔をする。


 そこにノビアが来て、ギルドマスターから二人にお呼びがかかっていることを告げて、案内する。


「ニールさんこんばんは。そして、ようこそ、サラトガ冒険者ギルドへ、修一さん」


 そこには壮年の福々しい男がいた。


「ギルドマスター代理のルカスです。このギルドの正式なギルドマスターは領都のマスターが兼任しています。私は元々サラトガの商人組合長でしてね、冒険者の経験はありません。人手が足りなくて、ギルド運営を手伝っているのですよ」


「修一です。お騒がせしてすみません」


「はい、どういたしまして。ダモンさんを返り討ちにした剛の者なのに殊勝な態度なのですね。あ、嫌味じゃありませんよ」


「はは、ここなら、いきなり斬りかかられる心配はなさそうなので」

 苦笑いしながら答える。


「ダモンさんの言動は、このギルドの評判を下げ続けています。商人の私からすると、彼はもう切り捨てるべきだと思いますね。ニールさん、ご意見はありますか?」


 ルカスの温厚な眼差しが冷たいものに変わった。


「修一に落ち度があるとは言わないよ。ただきっちり返り討ちにした。だから修一が、か弱い被害者とは言い難いかな。修一の方がダモンより強い。あの場にいる全員そう思ったはずだよ。ダモンの面目は潰れたね」


「面目を失いましたか。しかし今回の件は黙認しても、いずれまた修一さんを付け狙いそうですね」


「修一はしばらくボク達が面倒見るから大丈夫。その代わり、修一が踏み抜いた床の修理代はギルドで負担してね」


「問題の先送りだと思いますがねぇ。まあ、いいでしょう。Bランク冒険者の意見は尊重します。修理代も了解しました」


「えーと、ダモンの処遇について俺は口出ししません。だけど、俺自身はここの迷宮の上層で、ソロで戦闘訓練したいんですがね」


「ダメですよ、修一さん。しばらくはニールさん達と行動を共にして下さい。ニールさんのパーティは我がギルドのトップパーティの一つです。ニールさんはすぐ調子にのるし、経験は浅いし、楽観的過ぎるし、よくトラブルに首を突っ込むところもありますが、私は本当に頼りにしているのですよ」


「ヒドイよ、ギルマス。それじゃ修一への推薦になってないよぉ」


「あー、いや。ルカスさんが頼りにしている気持ちだけは少なくとも伝わったから」

 修一が苦笑いしながら言う。


「はい。ニールさんは冒険者となって三年なのでベテランとは言えませんが、何度も修羅場は経験していて、ちゃんと生き残っていますからね。運と実力の両方あります。ついでに言うと、修一さんの推薦人のお二人からもニールさんは信頼されていますよ」


「つまり、事情を話して協力を仰げと?」


「はい、推薦状を読んで、ギルドマスターとして、そう判断しました」


「そこまで言わたら断れませんね。実は二人からもニールは実力のある冒険者だと聞いています。ニール先輩、頼ってもいいですか?」


「いいとも! 何でも頼って」

 また鼻の穴が大きくなっている。


「ではお言葉に甘えます先輩。俺の事情を話すから、助けになって欲しいんだ」


「聞くよー。ボクはBランクだからね、大抵のことは協力できるよ」


「まずは俺の得意技を披露するよ。ストーンショット」


 修一は石弾を発現させるが、射出はせずにそのまま床に落とす。その瞬間、土精霊ノームが現れて、石弾を掴んだ。


「ウワッ、ノームだ!?」


「修一さんはノームに懐かれるほど、土魔法が得意なんですね」


「俺のとこに現れるのは毎回同じ個体なので、ウベルって名付けました」


「エエー! 意思が通じるの?」


「いや。現われろー、と思いながら土魔法を発動すると、現れることが多いってくらいかな。気がつくと消えているしね」


「ヘー! あ、そういえばダモン相手に武技のパリィ使ってたよね。魔法まで使えるの?」


「土魔法の射撃が一番得意なんだ。その次に得意なのが短剣での武技だね」


「それって魔法剣士ってことだよね。もしかしてボクより強かったりして?」

 ニールは眉間に皺を寄せてゴクリと喉を鳴らす。


「魔法剣士だ。でも自分の強さが分からない。俺は記憶喪失なんだよ。だから戦闘経験を積んで勘を取り戻したい。それから、近々プリシラの任務を手伝うことになっているので、それまでにレベルアップもしたいから、協力お願いします」


「エエー、修一の事情の一つ一つがとんでもなさ過ぎて、手に負えないよぅ」


「ニールさんはすぐ調子にのるし、経験は浅いし、楽観的過ぎるし、よくトラブルに首を突っ込むところもありますが、私は本当に頼りにしているんですよ」

 ルカスがとても良い笑顔で、そう言った。

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