天驚魔刃団、出立する(前編)
98-①
影光とリュウカクが和解してから更に一週間、影光達は姫の間でマナ姫と対面していた。姫の間には、オサナとゲンヨウ、リュウカクもいる。
「どういう事なのです影光さん……ここを出て行くとは!?」
「まぁ……このままここにいても、キョウユウ軍にやられるだけだからな」
あっけらかんと放たれた影光の言葉に、リュウカクは気色ばんだ。
「何だと……それはどういう意味だ!!」
「それについては僕から説明させてもらいます」
いきり立つリュウカクに対し、キサイが手を挙げた。
「双龍塞は確かに堅固な要塞ですが……孤立無援です。大軍勢をもって囲まれれば……簡単に干上がります」
「くっ、包囲など……我が軍団が打ち破って──」
「無理ですね」
リュウカクの言葉をキサイはバッサリと切った。
「双竜塞の全兵士がリュウカク将軍と並ぶ程の武勇を持っているのであれば、あるいはそれも可能かもしれませんが……」
「だから……お主達はここから逃げ出すと……そう言うのか!!」
怒りに肩を震わせるゲンヨウを影光は宥めた。
「まぁまぁ、ジイさん落ち着けよ。話は最後まで聞けって」
影光はゴホンと咳払いした。
「ウチのキサイが言うように、このままだとキョウユウ軍が攻めてきたらジリジリと追い詰められて双竜塞は陥ちる!! だから、そうなる前に…………ちょっと魔王城に行って乗っ取ってくるわ、敵軍」
『ちょっとコンビニ行ってくる』位のノリでとんでもない事を言い出した影光を、オサナは慌てて制止した。
「いやいやいや何言うてんの!? アホなん!?」
それを聞いた四天王は苦笑しながら頷いた。
「良く分かっているじゃないか、影光は……とんでもないドアホウだぞ」
「グオオ……カゲミツ……ハ……アホ!!」
「ええ、稀に見る阿呆ですね、ふざけてます」
「超弩級のアホでバカでおまけにゲスいわ、カスよカス!!」
「お、お前らな……そんな褒めるなよ、照れるじゃねーか」
「「「「いや、褒めてねーから!!」」」」
四天王は影光に総ツッコミを入れた。
「影光さん……本当にやる気なのですか?」
心配そうに問いかけたマナに対し、影光は不敵に笑うと、愛読している超人プロレスマンガの主人公の決め台詞を吐いた。
「へのつっぱりは……いらんですよッッッ!!」
自信満々の気迫にマナ達は圧倒された。凄い……言葉の意味は分からないが、とにかく凄い自信だ!!
「……ま、そういうわけで、双竜塞の皆の為にも、俺達は……魔王城に行く!! だからマナ……しばらくの間つばめとすずめを預かってくれないか?」
「私は構いませんが……」
つばめとすずめは、影光の両足にキツくしがみついていた。
「やだ!!」
「すずめもいく!!」
見かねたヨミが二人を影光の足から引き剥がした。
「あーもう!! チビ共、ダダこねるんじゃないわよ!!」
「やだーーー!!」
「いくのーーー!!」
「この……聞き分けの無い!!」
「待て!!」
影光は、つばめとすずめに手を上げようとしたヨミを制止すると、膝を屈してつばめ達と目線を合わせた。
「つばめとすずめにお願いがあるんだ……聞いてくれるか?」
「うん」
「うん」
「つばめも、すずめも、二人は『ハイパームテキ』だよな?」
影光の問いかけに、二人はうんと頷いた。
「カクさんや、羊のじいちゃんはハイパームテキじゃないからな、俺の代わりに、カッコ良くて最強の二人に、マナやオサナを守ってもらいたいんだ……出来るか?」
「……すぐにもどってくる?」
「すぐ戻れるように頑張る」
「……ほんと?」
「ああ、約束する」
「……じゃあ、いっていいよ」
「うん……」
「ありがとうな、二人共」
影光はマスコット達の頭を撫でると立ち上がった。
「よーし!! それじゃあ今から二人に命令を与える!!」
“めいれい” をきくときは、せすじをのばして、あいてのめをみる!!
影光にそう教わっている二人は『気を付け』の姿勢を取った。
「一つ、マナ達を守る事!! 二つ、良い子で待つ事!!」
“めいれい” をきいたら、 “ふくしょう” する!!
つばめとすずめは命令を復唱した。
「マナたちをまもる!!」
「いいこでまつ!!」
つばめとすずめの復唱を聞いた影光は笑顔で頷いた。
「よろしい、二人共頼んだぞ!!」
「「さー!! いえす!! さー!!」」
影光は二人の頭を撫でると、マナ達に向き直った。
「そういうわけだ、ちょっくら行って暗躍して──」
「ちょっと待ったあああああ!!」
姫の間に、フォルトゥナと三人組の竜人が入ってきた。




