聖剣士、動く
9-①
「良いですか、武光様?」
「うん」
ナジミは地面に木の枝で時計の文字盤のような円を描き、更にその中心に小さな円を描いた。
「外側の大きい丸がこの国で、真ん中の小さい丸がこの国の中心にあるタンセード・マンナ火山です」
「うん」
「で、前回この世界にやって来た時の始まりの地……私の故郷アスタト村がここです」
そう言ってナジミは時計の文字盤でいう所の11時の辺りに✖印をつけた。
「そして今私達がいるのがココ……本島最南端の街、《サンナ・イタン》です」
ナジミは6時の位置に✖印をつけた。
「なるほど」
「王国軍の駐屯地がある場所で、ここから一番近い所は……ココですね、《シューゼン・ウインゴ》という街です」
そう言ってナジミはサンナ・イタンの北西……8時の位置に✖印をつけた。
「ほんなら、とりあえずはそのシューゼン・ウインゴ目指して行ったらええねんな?」
「はい!!」
「よっしゃ!! 皆……今度こそ行くぞーーーーー!!」
〔ああ、行こう!!〕
〔おー!!〕
「出発しましょう、武光様!!」
「行きましょう!!」
武光一行はシューゼン・ウインゴ目指して出発した。
9-②
武光一行がサンナ・イタンを出発して二日……とある場所にある、薄暗い部屋の中では、六人の男女が円卓を囲んでいた。六人共、フード付きのロングコートを着用しており、フードを目深に被っている。
……彼らこそ、アナザワルド王国に破壊と混乱をもたらしている謎の集団、暗黒教団の幹部達であった。
「教皇陛下……サンナ・イタンへの《楔》は既に打ち込みましてございます」
聖女シルエッタ=シャードからの報告を受け、教皇と呼ばれた男は頷いた。
「うむ……聖女シルエッタよ、大儀であった。だが……アスタトの巫女は仕留めそこなったようだな」
「申し訳ございません……思わぬ邪魔がは入りました」
「邪魔?」
「はい、唐観武光と名乗る男です……あの男は『帰ってきた』と言っていました。恐らくは《異界人》かと……どうやら以前にこの世界に来た事があるようです」
シルエッタの隣で報告を聞いていた細身の男がクククと笑う。フードの奥で凶悪な光を宿した目が光る。
「フン、聖女様ともあろうお方が、その異界人とやらに聖女の証である聖杖を破壊されておめおめと逃げ帰ってきたと?」
シルエッタは、隣で笑っている男に言った。
「聖剣士インサン……あの男……唐観武光は、聖剣イットー・リョーダンを持っています」
シルエッタの報告を聞いて一同はざわついた。
「……その力、『一振りで千の悪鬼天魔を薙ぎ払う』と言われるあの……」
「伝説の勇者の封印されし聖剣……」
「まさかそんな事が……本当なのか、聖女殿?」
「……これが、その証拠です」
シルエッタは自分の隣の何も無い空間に穴を作り出し、穴の中から二つに分かれた聖杖を取り出した。
紫の宝玉がはめ込まれた先端部のすぐ下から真っ二つに切断されている。
「なんと……百斤(=約60kg)の斧を叩き付けても傷一つ付かぬ聖杖が……!?」
「見事に真っ二つに……これが聖剣!!」
「恐るべき聖剣の威力……!!」
「いいや……違うな」
ざわめく一同だったが、聖杖の切断面を親指でなぞっていた男が異を唱えた。《聖剣士》の称号を持つ男、インサン=マリートである。
「だからお前らは素人だってんだよ……どんなに鋭い剣でも、使い手がド素人じゃあ、切断面がこうも綺麗になるまいよ。そのナントカって野郎……恐らく歴戦の兵だ。面白れぇ……!!」
ニヤリと笑って立ち上がったインサンをシルエッタが咎めた。
「どこへ行くのです、インサン=マリート!?」
「ククク……決まってるじゃねぇか……我らが聖女様の敵討ちだよ」
「勝手な事を……!! 貴方には使命が与えられて……」
「構わん」
「教皇陛下!?」
「行け、聖剣士よ。我が与えしその黒き聖剣を振るい、我らの道を阻もうとする邪悪なる者を討ち払え」
「ククク……話が分かるねぇ!! よっ、教皇!!」
「教皇陛下に対し、何と無礼な!!」
敬意の欠片も無いインサンの態度をシルエッタが咎めたが、インサンはまるで悪びれない。
「おお、怖い怖い……お任せ下さい、教皇陛下殿」
インサンは芝居がかった大仰な動きで一礼すると、部屋を出て行った。
「……申し訳ございません教皇陛下。あのような血に飢えただけの獣を『聖剣士』候補として連れて来た私の落ち度です」
「フフフ、構わぬ。奴の腕は……確かだ」
「……百人殺し」
シルエッタは……インサンのもう一つの異名を呟いた。
そしてその頃、武光達は……野盗と間違われていた!!