執事、正統性を語る
89-①
影光は困惑した。
砦を奪うのを許してやる代わりに魔王軍への紹介状を書けと言ったら、『魔王軍と敵対しているから無理』という、予想だにしない答えが返ってきた。
「えっと……どういう事だ? お前ら魔王軍の一味じゃないのか……?」
影光の問いにマナは頷いた。
「違います……私達は魔王軍ではありません」
それを聞いたゲンヨウが忌々しげに吐き捨てる。
「何を仰いますお嬢様!! 今魔王城にいる連中は、断じて魔王軍などではありません!! 私達が……私達こそが正統なる魔王軍なのです!!」
影光はますます困惑した。結局コイツらは魔王軍なのかそうじゃないのか……影光が頭を悩ませていたその時だった。
「グゥゥ……」
「グォォ……」
「痛てて……」
「うーん……」
ゲンヨウの攻撃で倒れていた四天王が目を覚ました。
「フン……生きておったか……私の腕も衰えたものだ。昔なら一撃であの世行きだったものを……」
目を覚ました四天王を見て、ゲンヨウは小さく呟いた。
「……で、これはどういう状況なんだ、影光」
意識を取り戻したガロウ達が影光に状況を尋ねる。
「よぉ、目ぇ覚ましたかお前ら。早速だが……双竜塞を奪うのはやめだ」
「何だと!? 『やめだ』とはどういう事だ、やめだとは!?」
やめと聞いて、ガロウは影光に詰め寄った。
「仕方ねぇじゃねぇか、つばめとすずめがコイツらの事を『許す』って言っちまったんだから……」
「つばめとすずめだと……?」
ガロウは、マナと仲良く手を繋いでいるつばめとすずめに気付いた。
「な、何故あいつらがここに……」
マナの後ろに控えていたフォルトゥナが、ガロウの前に進み出た。
「アタシが保護したんだよ、お前……あの時の影魔獣に化けてた魔狼族だな?」
「お前は……ああ、あの時の猫娘か……?」
「がろしょーぐん、ほるとなはねー、ひとさらいなんだよ!!」
「うん、ほるとなはひとさらい!!」
ガロウを激しく睨みつけるフォルトゥナをつばめとすずめが指差した。
「ちょっと待って!? 何一つとして合ってないからね!? まず人攫いじゃないし!! 猫じゃなくて虎だし!! それに、アタシの名前は……フォルトゥナだぁーーーーーっ!!」
「むっ!?」
フォルトゥナがガロウに襲いかかった。
「おやめなさい、フォルトゥナ!!」
「フォルちゃん、落ち着いて!?」
マナ姫やオサナの制止を無視して、フォルトゥナはガロウに矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、そしてその攻撃を楽々と躱しながら、ガロウは影光に問うた。
「影光……殺しても──」
「却下」
「チッ……保証は出来んぞ」
「いやいや、そんなご謙遜を。お前なら……余裕だろ?」
「フン……グルァッ!!」
「うぶっ!?」
ガロウのボディブローがフォルトゥナの腹部にめり込んだ。
「うぇ……っ……ぐふっ……うぅ……」
フォルトゥナは腹部を押さえて屈み込んでしまった。
「酷い……などとは言うまいな? 仕掛けてきたのはそこの猫娘だ」
ガロウは何かを言おうとしたマナやオサナをギロリと睨みつけて黙らせたが……
「あーっ!! おんなのこをたたいたらいけないんだよ!!」
「がろしょーぐん、わるいこ!! めっ!!」
「あのなぁ……」
「けけけ、チビ共に怒られてやんのワンコオヤジ」
「ピーピーうるさいぞ小娘」
「なっ、誰が小娘だ!!」
「……ったく、相変わらず仲良いなぁお前ら」
「「誰がだ!!」」
影光はガロウとヨミをあしらうと、マナ達に向き直った。
「で……結局お前ら魔王軍なのか?」
影光の問いに、ゲンヨウが胸を張って答える。
「無論、我らこそが正統なる魔王軍だ!! 何故ならば、ここにおられるマナ様こそ…………魔王シン様の御息女様であらせられるからな!!」




