斬られ役(影)、剣を納める
88-①
マナ姫の命令でゲンヨウは武器を下ろしたが、影光は未だに影醒刃を構えたままだった。
「フン……良い心掛けだ、それじゃあさっさとこの砦を明け渡してもらおうか!!」
「そんな、まさちゃん……!?」
「貴様……」
ゲンヨウが再びステッキを構えようとしたその時だった。
「ご無事ですか!? 姫君!!」
「大丈夫ですか!?」
リュウカクとフォルトゥナが姫の間に突入してきた。
「あちゃー、もう戻って来ちまったのか……む?」
影光は、フォルトゥナが両脇に何かを抱えているのに気付いた。
「あ、かげみつさまだ!!」
「たすけてー!! かげみつさまー!!」
フォルトゥナが両脇に抱えていたのは……つばめとすずめだった。影光の顔を見たつばめとすずめが、フォルトゥナの手から逃がれようとジタバタともがく。
「オイ!? ウチのマスコット達を離せコラァ!! この人攫いがーーー!!」
「なっ……誰が人攫いだ!? この子達はアタシが戦場の近くにいたのを見つけて保護したんだよっ!!」
「ますこっと……この子達が……?」
フォルトゥナに抱えられているつばめとすずめに、マナは興味深そうな視線を向けた。なるほど、確かに愛くるしい子供達だ。この子達に武器を向けられれば、怒るのも分かる。だからと言って、たった五人でこの双竜塞に殴り込みをかけてくるのは常軌を逸しているとしか言いようが無いが。
「フォルトゥナ……その子達を離してあげなさい」
「は、はい……」
マナの命令でフォルトゥナは、つばめとすずめを離した。解放されたつばめとすずめは一目散に影光に駆け寄り、影光の背後に隠れた。
その光景を見たマナは、影光に向かって歩み出した。
「む……何だ? やろうってのか!?」
「姫君!? 近付いてはいけません!!」
「お嬢様、危のうございます!!」
リュウカクやゲンヨウの制止も聞かず、マナは影光に近付き、膝を屈してつばめとすずめに視線の高さを合わせると、ニコリと微笑みかけた。
「はじめまして、私の名はマナと言います。貴女達がつばめさんとすずめさん?」
「う、うん……」
「うん」
「影光さんから聞きました……怖い目に遭わせてしまったそうですね、本当にごめんなさい」
マナは、つばめとすずめに深々と頭を下げ、頭を下げられたつばめとすずめは、しばらく顔を見合わせた後、マナに言った。
「…………いいよ」
「…………うん、いいよ」
「私を……許してくれるのですか?」
「かげみつさまが、いつもいってる。けんかのあとは、ちゃんと『ごめんなさい』したらゆるしてやれって」
「うん、『ごめんなさい』したからいいよ」
「ありがとう……怖かったでしょうに……」
マナの言葉を聞いて、つばめとすずめはとびきりの笑顔を見せた。
「だいじょうぶ、つばめとすずめは『はいぱーむてき』なんだよ!!」
「うん、『はいぱーむてき』なの!!」
「……はいぱー……むてき……?」
「ぜっっったいにまけなくて、ぜっっったいにしななくて!!」
「かっこよくて、さいきょーなんだよ!!」
マスコット達とマナのやりとりを聞いていた影光は、『はぁ』と息を吐いた。
「……しゃあねぇ、ウチのマスコット達が『許してやる』って言ってんだ……砦は勘弁してやるか」
「まさちゃん……」
構えを解き、影醒刃の刀身を消滅させた影光を見て、オサナはホッと胸を撫で下ろした。
「よし……それじゃあ、砦を奪うのは勘弁してやる代わりに、ここを通してもらうのと、魔王軍への紹介状でも書いてもらおうか!!」
「……ごめんなさい、それは出来ません」
影光の要求をマナは断った。
「ああん!? 何でだよ!?」
「それは……」
数秒の間の後、マナは答えた。
「……私達が魔王軍と敵対しているからです」




