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斬られ役、異世界を征く!! 弐!!  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
双竜塞編
87/282

巫女、荒ぶりまくる


 87-①


「貴方、まさみ君よね!? ながさわさん家の!!」


 ……『ながさわ まさみ』


 時代劇俳優・唐観武光からみたけみつの本名である。


「どうしてお前が俺の本名を……?」


 黒髪の女性に名を聞かれて、影光は戸惑ったが、そんな事はお構い無しに女性は自分を指差した。


「私です、私!!」

「ああん? 知らねーよ、誰だお前!?」

「思い出して下さい、5歳の時、オオサカのイズミシで!!」

「確かに5歳の時は和泉市に住んでたけどだな……んー?」


 首を傾げまくるばかりで、一向に自分の事を思い出してくれない影光に、黒髪の女性のもどかしさは爆発した。


「あー、もう!! 何で思い出してくれへんの!? ウチやん、ウチ!!」


 影光は記憶の糸を手繰り寄せ、子供の頃に出会った一人の少女の名を思い出した。


「お、お前もしかして…………オサナか!?」

「そう!! オサナ!! やっと思い出して…………はうあっ!?」


 影光に名前を呼ばれた黒髪の女性……オサナは、喜びを爆発させて影光に駆け寄ろうとしたものの、突如として糸の切れた操り人形のように、ガクリとうなだれた。


「ど、どうした!?」


 影光の呼びかけに対して、オサナはゆっくりと顔を上げたが、先程までとは違い、目の焦点がまるで合っていない、そして天井を見上げて、突然叫びを上げた。


「コラァァァァァ!! ユキヒトォォォォォ!!」


「は? 誰だよユキヒトって!?」


 影光はオサナに問うたが、影光の言葉は、オサナの耳には届かない。


「遅すぎるやろ!! ウチを出すのが!! えっ? 当初の予定やと第1部の三章辺りで出す予定やったのに、なんか出しそびれ続けている内に、気付いたら完結してしまってたぁぁぁ!? あ……アホかーーーっ!? そんなんウチ……負けヒロインどころか不戦敗ヒロインやん!?」

「怖えーよ!! さっきから誰と話してんだよ!?」


 影光はツッコんだが、やはり、オサナの耳には届かない。


「…………じゃあ、マナちゃんと同じくらい美人って事にしてくれたら許したるわ」


 そう言って、オサナは姫君を指差した。


「……ちょっ、嫌そうな顔すんなー!! 私もマナちゃんみたいに、『彼女は……ただ美しかった』とか書け、アホーーーーー!!」




 チッ……オサナはダダ美しかった。




「こ、コラー!! カタカナで書くなー!! 安売りみたいやん……って言うか誤字ってるし!! 誰が三面怪人やねん!? あっ、逃げるな…………ふへっ!?」


 オサナは夢から覚めたかのように周囲をキョロキョロと見回した。


「あ、あれっ!? ウチは一体何を……?」


 キョトンとしているオサナにゲンヨウが声を掛ける。

 

「オサナ様、この狼藉者は貴方様のお知り合いですかな?」


 ゲンヨウは鋭い視線を影光に向けた。影光が、主人の友人の知り合いだと知っても、微塵も戦闘態勢を緩めてはいない。


「んー、知り合いと言うか…………婚約者です!!」

「うおぃ!? いや、何モジモジしてんだよ!? ……えへへじゃねーよ!!」


 オサナの婚約者宣言に影光は思わずツッコみ、ゲンヨウはふむと頷いた。


「左様でございましたか……しかしながら、この男のお嬢様に対する狼藉、暴言は万死に値します!! 大変心苦しいのですが、この男には死んで頂きます」


 そう言うと、ゲンヨウはステッキを構えた。


「ケッ、何が『万死に値する』だ……俺がした事が万死なら、お前らがウチのマスコットにした事は億死……いや、兆死に値するってんだバカヤロー!!」


 対する影光も影醒刃シャドーセーバーの刀身を現出させると、半身はんみになりつつ、切っ先を相手に向けて中段のかすみに構えた。

 戦闘態勢を取った影光をゲンヨウは鼻で笑った。


「フン、愚かな……貴様は生きたまま全身の骨を砕き!! 内臓をすり潰し!! 四肢を斬り落として、苦しめに苦しめに苦しめ抜いて……お嬢様に対する数々の無礼と愚行と狼藉を後悔させてくれようぞ!!」

「ケッ、だったら俺はアンタをブチのめした後、そこの姫様だかお嬢様だかに鼻フック&ひよこぐちの刑を喰らわせてやるぜ!!」

「貴様……!!」


 一触即発の二人の間に、オサナが慌てて割って入る。


「二人共落ち着いて!! まさちゃんもゲンヨウさんも武器を下ろして!!」

「おどき下さいオサナ様、お嬢様のご友人の婚約者と言えど……私は執事として、主人への無礼を許すわけには──」

「……武器を下ろしなさい、ゲンヨウ」


 今にも影光に飛びかかりそうだったゲンヨウを、姫君が制止した。


「し、しかし……お嬢様」

「良いのです、この人はオサナさんの……私の恩人の婚約者です、客人として扱いなさい」

「ぐっ…………承知致しました」


 内心では1mmたりとも承知してないのがありありと分かるが、主の命令を受けて、ゲンヨウはステッキを引き、影光に一礼した。

 それを見て、胸をホッと撫で下ろしたオサナは、姫君に頭を下げた。


「助かったわ、ホンマにありがとう……マナちゃん!!」


 美しき姫君……マナは、静かに微笑んだ。



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