竜将、引き上げる
82-①
戦場は敵味方入り乱れての大乱戦状態だった。
影魔獣の群れを相手に孤軍奮闘していたリュウカクの下に、双竜塞の兵士達が援護に駆けつけ、そこに一体何処から湧いたのか、影魔獣の増援が雪崩れ込んだのだ。
リュウカクとしては乱戦状態を脱する為に、兵達を小さくまとめたい所ではあったが、魔狼族型とゴーレム型の影魔獣に邪魔されて、とてもではないが兵の指揮どころではなかった。
「ゴァッッッ!!」
「クッ!?」
ゴーレム型影魔獣が繰り出してきた拳を、大きく後方に飛び退いて回避したリュウカクだったが……
「グルァァァッ!!」
「くっ!? しまっ──」
着地の瞬間を狙われた。着地地点目掛けて、魔狼族型影魔獣が放たれた矢のような勢いで突進してくる。
魔狼族型影魔獣の貫手がリュウカクを捉えたかに見えたその時!!
「……やああああっ!!」
飛び込んで来たフォルトゥナが、体当たりで魔狼族型影魔獣の体勢を崩した。
「リュウカク様ーっ、助けに来まし──」
「グルァァァッ!!」
「うぶっ!?」
魔狼族型影魔獣の後ろ蹴りがフォルトゥナのボディを捉えた。
相手の踵が鳩尾にめり込み、フォルトゥナは、腹部を押さえて両膝を地に着いた。
「ガァウッ!!」
「ひっ!?」
フォルトゥナは思わず目を瞑ってしまったが、魔狼族型影魔獣の爪は、フォルトゥナの喉笛を斬り裂く寸前で止まっていた。
「……何だ、女……それも、ガキか」
「なっ!? ば、馬鹿にして……っっっ!!」
魔狼族型影魔獣がボソリと呟いた言葉に逆上したフォルトゥナは、格闘戦を仕掛けたが、突き出す拳はことごとく躱され、繰り出す蹴りは容易くいなされた。
「はぁっ……はあっ……このおっ!!」
「……ふん」
「あっ!?」
フォルトゥナは右の上段蹴りを繰り出したが、蹴り足を掴まれ、逆さ吊りにされた。
「このっ……離せっ、離せーーーーーっ!!」
「ちっ……うるさいガキだ」
「きゃあああっ!?」
魔狼族型影魔獣は、フォルトゥナの足首を掴んだまま、力任せにフォルトゥナの身体を頭上でグルグルとぶん回すと、そのままゴーレム型影魔獣と交戦中のリュウカクに向かって放り投げた。
「フォルトゥナ!?」
リュウカクは、右手に青龍刀、左手に両刃槍を握ってゴーレム型影魔獣と戦っていたが、左手の両刃槍を地面に突き立て飛び上がると、放り投げられたフォルトゥナの身体を空中でキャッチした。
「大丈夫か!?」
「は、はい……」
リュウカクはフォルトゥナを地面に下ろしたが、その隙に二体の影魔獣は離脱してしまった。
「くっ、逃げられたか……」
歯噛みするリュウカクだったが、周囲では未だに戦いは続いている。
「フォルトゥナ、まだ動けるか!?」
「は……はいっ!!」
「敵はまだ残っている、行くぞ!!」
その後……リュウカク達は影魔獣を倒し続け、そして……最後の影魔獣が消滅した。
敵を殲滅した双竜塞の兵達は勝鬨を上げた。
沸き上がる歓声の中、リュウカクは未だ不審感を拭い去る事が出来ずにいたが、ひとまずは兵達をまとめて双竜塞に引き上げる事にした。
……この時、リュウカクは気付いていなかった。意気揚々と引き上げる兵達の中に、乱戦の最中、双竜塞の兵に化けた男が紛れ込んでいた事に。




