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斬られ役、異世界を征く!! 弐!!  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
聖道化師襲来編
69/282

天照武刃団、廃村に向かう


 69-①


 武光とナジミの魂を入れ替えた暗黒教団の《聖道化師》、月之前京三つきのまえけいぞうは、影転移の術を使い、ネヴェスの里の東にある廃村にやって来た。

 廃村では聖女シルエッタが京三を待っていた。


「お待ちしておりました、京三様。いかがでしたか? 私が創り出した《操影刀・双頭蛇》の力は?」

「凄い、凄いよシルエッタさん!! まさか本当に魂を入れ替える事が出来るなんて……まるでラノベみたいだよ!!」


 興奮気味に語る京三に、シルエッタが微笑みかける。


「確か、『ラノベ』というのは……京三様の世界の英雄譚えいゆうたんの事でしたね? だとすれば……私は正に今、永遠に語り継がれるであろう偉大なるラノベを目撃しているのですね!!」

「そうだ……ボクはこの世界で影魔獣というチートを得たんだ……弱くて、惨めで、冴えないボクはもういない、あんなのは本当のボクじゃない……この力で、ボクを見下し蔑んだ連中を見返してやる……その為に、聖剣も手に入れて……ボクは全てを手に入れるんだ!!」


 ブツブツと呟く京三に背を向け、シルエッタはほくそ笑む。


 ……全く、滑稽こっけい極まりない。


 実力の無い者……心の弱い者……知恵の足りぬ者ほど、『強大な力を与えてやる』というエサをちらつかせると、面白いように飛びつく……飢えた野良犬ですら、目の前に餌を放り投げられたとしても、少しは警戒するだろうに。


 まぁ、そのお陰で実験動物……もとい、信徒を増やすのには事欠かない。この男も偶然に異世界から迷い込んできた異界人いかいびとで、特別な能力は何も無いが、面白そうなので実験の一環として、力を与えてみただけだ。


「京三様、それでは私は戻りますが……唐観武光、あの男は悪辣無比あくらつむひにて、極悪非道……何をしでかすか分かりません」

「フフフ……そういう悪役を圧倒的な力で徹底的に捻り潰す。良いねぇ……夢にまで見たシチュエーションだよ!!」

「念の為、私の影魔獣も残して行きますが……くれぐれもお気を付け下さいませ」

「お任せあれ、聖女様」


 京三は、左手を開き、右手を胸の前に持ってくると、右足を斜め後ろに引いて芝居がかったお辞儀を披露した。舞台のカーテンコールで役者がよくやる《ボー・アンド・スクレープ》というお辞儀である。


 シルエッタは噴き出しそうになるのをこらえながら、影転移で去った。


 69-②


 一方その頃、武光達はというと……


「くっ……お、重たっ……何やこれ……イットー、魔っつん、お前ら太ったか!?」

〔あのなぁ、剣が太るわけないだろ〕

〔腕力が足りないんですよ、ナっちゃんの体だから〕


 イットー・リョーダンと魔穿鉄剣を持った両手をダラリと下げて肩で息をするナジミ(中身は武光)にイットー・リョーダンと魔穿鉄剣がツッコミを入れる。


「よし、こうなったら……私が武光様の代わりにイットー・リョーダンと魔穿鉄剣を振るって戦います!! ちょっと貸して下さい!!」

「あっ、オイ!?」

〔ちょっ、ちょっと!?〕

〔わわっ!?〕


 武光(中身はナジミ)は、イットー・リョーダンと魔穿鉄剣を奪い取ると “ぶん!!” と振った。


「凄い……こんなに軽々と!? これが男性の筋力なの!?」

「ちょっ!? 危ないってお前、そんな振り方したら自分の足斬ってまうって!?」

「とりゃー!! てりゃー!! うふふふ……すっごーい!!」

「コラー!! 何ちょっと楽しなっとんねん!? 話を聞けーーー!!」

「せいやー!! どりゃー!!」

「こ、このやろう……ええかげんにせぇ!! 揉むぞコラー!!」

「あーっ!? そ、それはダメですーーーっ!?」

「よーし!! 良い子だ、イットーと魔っつんを地面に置いて、両手を上げてゆっくり下がれ!!」

「わ、分かりました!! 分かりましたから胸から手を離して下さい!!」


 ようやく解放されたイットーが、ナジミ(中身は武光)に疑問を投げかける。


〔なぁ武光、ナジミと体が入れ替わってしまったけど……ナジミの癒しの力は使えるのかい?〕

「あー、そう言えば試してへんな。ナジミ、癒しの力ってどうやって使うんや?」

「えっ……改めて言われると……うーん、どうって言われても……こう、呼吸を整えて……」

「うん」

「精神を集中して……」

「うんうん」

「相手の傷口に手をかざして…… “イヤシッ!!” って感じで──」

「うんう……いや、ちょっと待って!? 一番大事な所が分からん!! 何その擬音!?」

「そんな事言われても……本当に “イヤシッ!!” って感じなんですもん!!」

「いや、だからその “イヤシッ!!” ってのが分からんねんって、 “イヤシッ!!” ってのが!! 説明が下手過ぎんねん!!」

「ムッ……だーかーらー “イヤシッ!!” は “イヤシッ!!” ですってば!! 武光様の理解力が足りないんですよっ!!」


 言い争いをする武光とナジミを見て、フリード達は輪になった。


「ダメだコリャ……皆、今度の戦いはアニキの剣も姐さんの癒しの力も当てに出来ない……俺達が頑張るしかないぞ!!」

「うん!! 頑張ろうフー君!!」

「そうだな、私達が奮戦せねば!!」

「は、はい!! 頑張りましょう!!」


 ……そして、夜が明けた。作戦を練った天照武刃団はネヴェスの里を出た。聖道化師が待ち受ける廃村に向かって。


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