隊員達、困惑する
68-①
フリードと三人娘は、宿屋で武光とナジミの帰りを待っていた。
「も、戻ってきませんね、武光隊長とナジミ副隊長……大丈夫でしょうか?」
イットー・リョーダンと魔穿鉄剣から『武光は、怒って飛び出したナジミを追っかけてった』と聞いたキクチナが心配そうに呟く。
「大丈夫だろー、心配し過ぎだってキクチナ」
「そーそー、何のかんの言っても隊長と副隊長は仲良しなんだから大丈夫だよキクちゃん」
「は、はあ……だと良いんですけど」
その時、窓の外を見ていたミナハが声を上げた。
「三人共、隊長殿と副隊長が戻ってきたぞ」
四人は窓際に集まった。四人の視線の先では武光とナジミが手を繋いでこっちに向かって歩いていた。
「ほら見ろ、もう仲直りしてるじゃんか」
「よ、良かったです……」
「おーおー、手なんか繋いじゃって、しかも両手って……ああいうの、確か隊長の国では “らぶらぶ” って言うらしいよ?」
「うーん……隊長殿と副隊長殿……何かおかしくはないか?」
「そうだよなー、仲直りの直後とは言え、人前でイチャつき過ぎだよなー!!」
「ねー!! フー君もそう思うよねー!?」
「いや、そういう事ではなく……」
「ま、とにかくアニキ達を出迎えてやろうぜ!!」
その後、部屋で武光とナジミを出迎えた四人の隊員達は困惑した。
……二人の様子がどうもおかしい。
「なぁー、ええかげん手ぇ離せやー」
「嫌です!! 手を離したら絶対に揉む気でしょう!?」
「あのなぁ……こうして一日中手ぇ繋いどく訳にもいかんやろ?」
「うぅ……絶対に揉まないで下さいね!? 絶対ですよ!?」
「安心しろ!! 俺は超人界一の紳士、ロ◯ンマスクに匹敵する紳士なんやぞ!?」
「誰なんですかそれ……」
武光(中身はナジミ)は小さく溜め息を吐くと、恐る恐る手を離した。そしてその瞬間、ナジミ(中身は武光)は即座に自分の胸に手を伸ばそうとして、再び両手首を掴まれた。
「こ、コラーーーーー!! 何が紳士のロ◯ンマスクですかっ!! 油断も隙も無いんだから!!」
「フッ……ロ◯ンマスクはな、アメリカ遠征編とか第21回超人オリンピックの時は、やさぐれて荒みまくってたんや」
「ば、バカヤローーーーーっ!!」
そんなやりとりをしている二人に、フリード達が恐る恐る声をかけた。
「あの……アニキ?」
「副隊長?」
「お二人共、一体何を……?」
「も、もしかして……お芝居の練習とか……?」
フリード達に気付いた武光とナジミは物凄い勢いで四人に詰め寄った。
「おう、フリード!! 聞いてくれや!!」
「ね、姐さん!? 何か口調が荒々しいんだけど!?」
「ああ……クレナちゃん!! ミナハちゃん!! キクチナちゃん!! 聞いて!!」
「クレナ……ちゃん!?」
「隊長殿!?」
「ほ、本当にどうしちゃったんですか!?」
「「じ、実は……」」
68-②
「「「「た……魂を入れ替えられたーーーーー!?」」」」
武光とナジミから事の次第を聞いたフリードと三人娘は叫びを上げた。
「って……いやいやいや、いくら何でもそんな事って……ねぇ、フー君」
「お、おう……ははーん、さてはアニキ達……俺達を担ごうとしてるな!?」
「あ……アホかーーー!! そんな事して俺らに何の得があんねん!!」
フリードに詰め寄るナジミ(中身は武光)を見て、キクチナが首を傾げる。
「で、でも……武光隊長はともかく、ナジミ副隊長がそんな事するでしょうか……?」
「そうだな。それに、芝居にしては副隊長殿の演技が上手過ぎる!!」
「へっ……?」
ミナハの言葉に武光(中身はナジミ)は、ぽかんと口を開けた。
「皆聞いて欲しい、今日の朝、私は副隊長殿の『隊長殿のモノマネ』を見た!! 失礼ながら……驚くほどド下手だったッッッ!! あの演技の下手な副隊長殿が……こんなにソックリに隊長殿の仕草や口調をマネ出来るはずが無いッッッ!!」
「確かに……姐さんにはムリだ!!」
「うん、副隊長にはムリだよ!!」
「た、確かに……ナジミ副隊長には絶ッッッ対にムリです!!」
「皆……ちょっと傷付くなぁソレ」
指先を合わせていじける武光(中身はナジミ)をよそに、ミナハは続ける。
「つまり隊長殿と副隊長殿の話は……」
「本当ってことなの!?」
「と、という事はつまり……」
「明日の昼までに何とかしなくちゃ、アニキも姐さんも死んじまうって事じゃないか!!」
「……うっ!?」
その時、ナジミ(中身は武光)が小さく呻き声を上げた。
「ど、どうしたんだよアニキ!?」
「武光様!? まさか……あの男が言っていた拒絶反応ですか!?」
「あ……いや……その……トイレに……」
「何だ……脅かさないで下さいよ武光様」
「ごめんごめん、ちょっとトイレ行って──」
「ハッ!? だ、ダメですーーーーーっ!!」
ナジミは武光を背後から羽交い締めにした。
「うげっ!? だ、ダメってお前……」
「は……恥ずかしいです!! 絶対ダメです!!」
「そんな事言うたかて、このままやと……も、漏れてまう……」
「ハッ!? そ、そうだ……クレナちゃん、そこの紐と手拭い取って!!」
「お、お前何を……あひぃん!? 」
「ちょっ!? 変な声出さないで下さいよっ!!」
「そ、そんな事言うたかて…………ふぅんんっ!?」
ナジミ(中身は武光)は紐で後ろ手に手首を縛りあげられ、布で目隠しされてしまった。
「ふぅ……これでよしと。武光様、行っても良いですよ?」
「いやいやいや、行けるかっっっ!?」
「こうでもしないと…………はうっ!?」
今度は武光(中身はナジミ)が呻き声を上げた。
「どうしたナジミ!? 大丈夫か!? くそっ、見えへん!!」
「武光様……ど、どうしましょう!? わ、私も……その…………お手洗いに……」
ナジミ(中身は武光)はズッコケた!!
「フリードぉぉぉ……ナジミを縛れ!!」
「ええっ!? でもアニキ!?」
「俺だけこんな目に合うとか不公平や!!」
「いや、でも……アニキ」
「隊長命令じゃーーーーー!!」
「えぇ……」
「ちょっ、待ってフリード君……あひんっ!?」
あまりの剣幕に、フリードは仕方なく武光(中身はナジミ)を後ろ手に縛りあげた。
目隠しをされ、後ろ手に縛りあげられて、内股でモゾモゾとしている隊長と副隊長を前に、四人の隊員達は思わず呟いた。
「「「「何だこれ……いや、何だこれ……!?」」」」
その後、フリードやクレナ達に付き添ってもらって何とか用を足した二人とフリード達は困惑しつつも作戦を練った……暗黒教団の聖道化師、月之前京三を倒し、元に戻る為の作戦を!!




