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斬られ役、異世界を征く!! 弐!!  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
両雄邂逅編
62/282

両雄、激突する(後編)


 62-①


 影醒刃を右脇に構え、雄叫びを上げながら影光が突進してくる。決死の突撃……物凄い気迫だが、すきだらけだ。


「もらったぞ……分身ッッッ!!」


 武光は、上段に振りかぶったイットー・リョーダンを袈裟掛けに振り下ろそうとしたが……


「バカめ!! それは……俺がいたエサだッッッ!!」

「なっ!?」


 影光の左腕が、国民的海賊マンガの主人公のように “グン” と伸びて武光の右手首に巻きついた。巻きついた腕に引っ張られて、武光の左脇腹がガラ空きとなった。


「もらったぞ……本体ィィィッッッ!!」


 ガラ空きになった武光の左脇腹目掛けて、影光は、影醒刃を横薙ぎに叩き込もうとしたが……


“ガキンッッッ!!”


「防がれた!?」

「おらぁっ!!」

「グハッ!?」


 武光は、魔穿鉄剣を左逆手に抜き放って影光の一撃を受け止めると、間髪入れずに影光の顔面に強烈な頭突きを叩き込んだ。

 不意の攻撃に、影光が大きく後ろによろめいた隙を突いて、武光は魔穿鉄剣で自身の右手に巻きつく影光の左腕を切断した。


「クソッ、これしきの事──」


“すん!!”


 斬られた左手を再生しようと、左手に意識を集中した瞬間、影光は右肘みぎひじから先を斬り落とされてしまった。


「く、クソッ……!!」


 影光は後方に飛び退いて距離を取ろうとしたが、武光はそれを許さない。影光が飛び退いたのに合わせて、踏み込み、一気に間合いを詰めた。


「うぉぉぉぉぉっ!!」


 武光の逆袈裟が影光を襲う。影光は両腕を大慌てで剣状に再生させると、両腕を交差させて斬撃を防ごうとしたが、その両腕もイットー・リョーダンの馬鹿馬鹿しいまでの切れ味の前に易々と斬り飛ばされた。


「うらぁぁぁぁぁっ!!」

「ガハッ!?」


 武光は、両腕を斬り落とされ、ガラ空きになった影光のボディに容赦の無い前蹴りを叩き込んだ。吹っ飛ばされた影光は、背後に立っていた木に背中を叩きつけられて、前のめりに倒れ込んだ。


 武光の戦いを見守っていたフリード達は思わず呟いていた。


「つ、強ぇぇぇ……!!」

「これが、隊長殿の本気……!!」

「す、凄いです!!」

「勝てます……これなら勝てますよ、きっと!! ね? 副隊ちょ──」


 クレナは、隣に立つナジミに声をかけようとしたが、続く言葉を飲み込んでしまった。


 ナジミが……泣いている。彼女の両目からはポロポロと涙が止めどなくあふれていた。


「副隊長……? 大丈夫ですか、どうして泣いてるんですか!?」

「だって……だって……!!」


 無理もない。もしも、自分の家族や友人と瓜二つの人間がいたとして、その人物が傷つけられているのを見て平然としていられる人は少ないだろう……例えそれが他人の空似だと分かっていたとしても……ましてや最愛の人ならば。


 しかも、影光は武光に外見が似ているというだけではない。

 自分達と過ごした記憶や感情までも持っている。


 ナジミには分かっていた……影光が『一対一で勝負』と言い出したのは、私を乱戦に巻き込んで危険に晒さないようにする為だと。『一対一で勝負』と言い出す直前に自分に向けられていた優しい眼差しは、武光そのものだった。


 影光は……残酷なまでに最愛の人に似ていた。


 そして、その影光と命を懸けた死闘を繰り広げているのは、他ならぬ最愛の人なのである。ナジミの視線の先では、両腕を斬り落とされ、もはや立っているのがやっとの影光に対し、武光がイットー・リョーダンを振り上げていた。


「ハァ……ハァ……クソッ……」


 イットー・リョーダンが影光の脳天に振り下ろされようとしたまさにその時、工房の陰から二人の妖禽族の子供が武光の前に飛び出した。つばめとすずめである。


「かげみつさまを……いじめるなーーーーー!!」

「キライ!! バカ!! あっちいけーーーーー!!」


 涙ながらに叫ぶつばめとすずめを見て、武光は剣を引き、二、三歩下がった。


「……待っといたる、安全な所まで下がらせたれ」

「……悪ぃ」


 影光は斬り落とされた両腕を再生させ、片膝を着いてつばめ達と視線を合わせると、胸に飛び込んできて泣きじゃくる二人を抱きしめた。


「二人共、心配してくれてありがとうな。俺は大丈夫だ……前にも言っただろ? 俺は、ハイパームテキだってな!! だから、安心しろ……俺は絶対に勝つ!!」


 子供達をヨミに預け、戻ってきた影光に武光が声をかけた。


「なぁ、もう……ええやろ」

「ああん!?」

「フリードを助ける方法が見つかったら妖月は絶対に返す……だからここは退け!!」

「ハァ……ハァ……ケッ、根っからの斬られ役のクセに……何主役みたいな事言ってんだ……似合ってねーぞバカヤロー!!」

「アホか!! 俺の分身やったら、その子達を悲しませるような真似すんな!! もうやめろ!!」

〔そうだそうだ!! 相棒と同じ顔した奴を斬らされるこっちの身にもなれ!!〕

「フン……そんなにやめたきゃ、お前を斬って終わりにしてやるよ……覚悟しろ……本体ッッッ!!」


 武光とイットー・リョーダンは影光に退くように言ったが、影光は一歩も退こうとしない。

 あくまで抗戦の意思を曲げない影光に、武光は思わず悪態を吐いた。


「くっ……ドアホが……俺のコピーのくせに、何でとっとと逃げへんねん……!!」

〔仕方ない……気は進まないけど、決着をつけよう、武光!!〕


 両者は互いに剣を構えた。


 武光はイットー・リョーダンを八双に。

 影光は影醒刃を左脇に。


 悠然と構える武光に対し、影光は立っているのもやっとという有様だった。


 先程の子供達が心配そうに影光を見ている。それを見たナジミは、隣に立っていたフリードに小声で話しかけた。


「……フリード君、工房を出る直前に武光様に言われた事、覚えていますね?」

「う、うん……!!」

「妖月を持って、今すぐここを離れなさい」

「な、何でだよ姐さん!? 絶対にアニキが勝つよ!!」

「いいえ、武光様は──」


「……うおおおおおっ!!」

「……ウオオオオオッ!!」


 その時、両者が動いた。

 二人の距離はぐんぐん縮まり……そして交差した!!


 ……武光は唐竹割りに、影光は水平に刀を振り抜いた姿勢で静止している。まるで、その場所だけ時間が止まってしまったかのように、両者は微動だにしなかったが……やがて片方が倒れ伏した。


 

 倒れたのは…………武光だった。


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