天照武刃団、目を覚ます
54-①
「ん……ここは……?」
武光が目を覚ましたのは、見知らぬベッドの上だった。
石造りの壁に囲まれた部屋広い部屋で、窓からは明るい日差しが差し込んでいる。部屋にはベッドがずらりと並んでおり、ナジミやフリード達もベッドに寝かされていた。
武光が周囲を見回しながら、ベッドから降りたその時、一人の老人が部屋に入ってきた。
「おお、目が覚めたかね。旅のお方」
長い白髪を後ろに撫で付け総髪にした老人は、人懐っこい笑顔を武光に向けた。
「安心しなさい、ここはネヴェスの里の診療所じゃ。昨日の夕方、里のすぐ近くで行き倒れていたあんた達を里の者達が運び込んだんじゃよ」
「そ、そうだったんですか……ありがとうございます」
武光は深々と頭を下げた。
「儂はこの診療所の主、ナスオ=シスクという。お主は」
「俺は……水戸山田 金之助といいます」
武光は偽名を名乗った。目の前の老人は悪人には見えないが、暗黒教団の関係者ではないという保証はまだ無いのだ。
「変わった名じゃな……異国の方か?」
「え、ええ……まあ」
「ところでキンノスケ殿、腹は減っておるかな?」
武光が答えるより先に、腹の虫が “ギュオグルルル” と凄まじい声で鳴いた。恥ずかしげに頭を掻いた武光を見て、ナスオはカラカラと笑った。
「うむ、そうじゃろうそうじゃろう。典型的な空腹で倒れた者の症状じゃったからなあ」
「お、お恥ずかしい限りです……」
「お連れさん達も起こしてやりなさい、食事を用意してあるから」
54ー②
武光達は出された食事をひたすらに食べた。
クレナ達は流石に貴族の娘達なだけあって優雅な所作で出された病院食を口に運んでいたが、武光とフリード……二人の野郎共は『ド○ゴンボールか!!』という勢いでガツガツと飯を食らい、ナジミはナジミで野郎共と違って所作こそ普通だったが、久々の食事に『おいしい……おいしいよぉぉぉ……うえーーーん!!』と、大号泣しながら食事するという異様な光景を繰り広げていた。
「何かすみません……ウチの団長と副団長と団員が」
「申し訳ありません、ナスオ医師」
「お、お見苦しい所を……」
天照武刃団の面々はネヴェスの里の調査にあたり、自分達の素性を隠す為、自分達は、旅の劇団、《天笑歌劇団》だと名乗り、それぞれの偽名も用意していた。
恥ずかしげに頭を下げたクレナ達だったが、ナスオや、診療所で働くナスオの弟子や看護師達は笑顔で答えた。
「なんのなんの!! 元気になる為の基本は良く食べ、良く寝る事じゃ、結構結構!!」
「病院食を号泣しながら食べる人って、私初めて見たわー。作った甲斐があるわねぇ」
「あの男の子も良い食べっぷりよねー、男の子はこうでなくっちゃ、貴女達も遠慮しなくて良いのよ?」
……数日して、すっかり元気を取り戻した武光達は、ナスオ達に重ね重ね礼を述べて、診療所を出た。いよいよ、ネヴェスの里の調査開始である。




