天照武刃団、ぶっ倒れる
53-①
「あ……ああ……」
「ううう……」
「お……おおお……」
ネヴェスの里……例によって時計の文字盤に例えるならば、7時の辺りに位置する武器職人達が多く住まう集落であり、暗黒教団が操影刀の製造拠点にしている疑いのある集落である。
そのネヴェスの里目指して、地の底から響いてくるような呻き声を上げながら、さながらゾンビのようにフラフラと歩く一団がいた。
……天照武刃団である!!
〔み、皆頑張れ!! ネヴェスの里まであと少しだぞ!!〕
〔ご主人様、しっかり!! ナッちゃん、ご主人様を嚙ろうとするな!!〕
“グギュルルル……”
“キュオオオ……”
“グオゴゴゴ……”
イットー・リョーダンと魔穿鉄剣の必死の叱咤激励に抗議するかのように、武光達の腹の虫が一斉に唸り声を上げた。
天照武刃団の面々はもう四日も水以外口にしておらず、空腹感に苛まれまくっていた。
何故このような事態に陥ったのかと言うと……
52-②
「何ぃぃぃっ!? しょ……食料が無いっっっ!?」
四日前の事である。マイク・ターミスタとネヴェスの里の中間地点、フリードの告白に、武光は叫びをあげた。
「ごめん……アニキ、皆!!」
「いや、無いってどういう事やねん!! 食料は十分に用意してマイク・ターミスタを出たはずやろが!?」
「昨日、夜の見張り当番をしてた時に……食べちゃったんだ、全部」
「ぜ、全部!?」
武光は唖然とした、マイク・ターミスタからネヴェスの里まで、徒歩だとおよそ八日程度かかるとの事だったので、何かあった時に備えて武光達はおよそ十一日分の食料を用意してマイク・ターミスタを出発したのだが……
「全部食べたってお前……残り一週間分、それも六人分の食料を一人でか!?」
「今まで黙ってたんだけど……最近、変なんだ俺」
フリードは、言った。
「腹が……減って減って仕方がないんだ。食べても食べても腹一杯にならないんだ……」
俯きながらフリードは続ける。
「少し前までは我慢出来たんだ……でも、ここ最近、空腹感がどんどん強くなって……我慢出来なかった……本当にゴメン!!」
「フリード君、右手を見せて!!」
「え? うん……」
ナジミに言われて、フリードは右手を差し出した。ナジミは差し出された右手にそっと手を乗せ、目を閉じていたが、しばらくして『やっぱり……』と呟いた。
「や、やっぱりって……何なんだよ姐さん!?」
「フリード君、君のその異様な食欲は、君の右手に宿った影魔獣が原因です」
「こ、黒王が……!?」
「影魔獣は術者の生命力を餌にします……どうやら右腕の影魔獣が活発化して、フリード君の生命力を吸っているようです。それによって、影魔獣に吸われた生命力を補おうと、身体が食べる事を欲しているのです。食べる事は……生きる力を生み出す上で、最も大事な事だから」
「ナジミ姐さん……俺、どうなっちゃうのかな……このまま、黒王に生命を吸い尽くされて……」
「大丈夫……とは軽々しく言えないけど、きっと方法はあります。それを探しましょう」
「そうや、お前には俺達が付いとる、安心せえ!!」
武光の言葉にクレナ達も頷く。
「み、皆……ありがとう……っ!!」
フリードは絞り出すように言うと、深々と頭を下げた。
「よし、で……当面の問題はやな……」
「食料、どうしましょうか武光様……」
武光は周囲を見回した。辺り一面、岩だらけの荒野である。武光は三人娘に問うた。
「近くに街は?」
「ありません!!」
「ここからネヴェスの里までは?」
「四日くらいです隊長殿!!」
「途中に森とか川とかあらへんか!?」
「あ、ありません……!!」
「くっ……水はあるな……こうなったら進むしかあらへん、ブッ倒れる前にネヴェスの里に辿り着くんや!!」
……その結果が、冒頭のゾンビ達である。
〔武光-----っ!! 建物だ……ネヴェスの里が見えてきたぞーーーーーっ!!」
「あ……アア……?」
安堵感を与えてしまったのがよくなかった!!
武光達は安堵感で気が抜けてバタバタとブッ倒れた。
〔あっ!? オイ、武光!! ナジミ!? 皆しっかりしろーーーーーっ!?〕
天照武刃団は ぜんめつした!?




