鬼、戦いを挑む
39-①
ガロウとゴーレムを仲間に加えた影光は、四天王の残り二枠……『知将』と『紅一点』を探して移動を続けていた。
「なぁ、影光よ」
「ん? どうしたガロウ」
「コイツに名は無いのか?」
ガロウに指を差されたゴーレムは短く答えた。
「ゴア」
「ふむ……『名前など無い』ってよ」
「名前が無くて、お前達ゴーレム族はどうやって他人を区別するんだ?」
「グゴッ」
「へぇ……名前の代わりに岩の種類と、あと形とか色とか模様で識別するんだとさ」
「なるほどな……しかし、名前が無いと今後ゴーレム族の手勢が増えた時に俺達が困る」
「それもそうだなぁ……ゴーレムかぁ……うーん……」
影光はしばらく頭を悩ませた後、ポンと手を打った。
「……よし、決めた!! ゴーレムだから、お前の名前は……《レムのすけ》だっっっ!!」
「影光お前、名付け下手かっ!?」
「えっ!? カッコイイよな!? レムのすけ!?」
「グァォ……」
「ええ……マジか」
そんなこんなで、あてもなく歩き続けていた影光、ガロウ、そしてゴーレム改めレムのすけの三人だったが……
「ま、待てーい!!」
前方の岩陰から一つの人影が飛び出して来た!!
「んんっ……!?」
「お前は……?」
「グァッ……?」
現れたのは、緑の肌に白い髪、そして額に二本の角が生えた魔族だった。
《鬼》が 現れた!
39-②
「俺達に何か用か?」
影光は自分達の前に立ちはだかったオーガを見据えた。
歳の頃は人間で言えば二十歳前後だろうか……まだ若いオーガだったが、影光は眼前のオーガに対し、少し違和感を感じた。
影光は、武光から複製された記憶を辿り、先程から感じていた違和感の正体を見つけた。
「お前、何か……ヒョロくね?」
以前、武光がこの世界に来た時にマイク・ターミスタで戦ったオーガ達は皆どいつもこいつも筋骨隆々のまさに『鬼』感丸出しの連中だったが、影光の前に現れたオーガは凄く痩せてほっそりしていた。
「う、うるさい!! 貴様らの首を持ち帰って……僕もオーガ一族の武人として戦えるって事を証明してやるんだ!!」
それを聞いたガロウはニヤリと笑った。
「面白い……若造、この魔狼族のガロウの首……取れるものなら取ってみろ!!」
「う……うえええええっ!?」
オーガの青年は素っ頓狂な叫びを上げた。
「ガ、ガロウってまさか……先の大戦のプレイン平原での戦いで、駆け抜けた後には屍の山が築かれ、敵味方から《蒼き凶つ風》と恐れられたという、あのガロウか……!?」
「まぁ、そんな風に呼ぶ奴もいたか……だが、生命のやりとりにおいては異名など何の役にも立たん!! 行くぞ、若造!!」
「ゴアッ!!」
体勢を低くして飛びかかる姿勢をとったガロウだったが、レムのすけがガロウの前に手を伸ばして制止した。
「何だ!? 邪魔をするなレムのすけ!!」
「グゴァ」
「ふむ、『ここは俺にやらせろ、ゴーレムとオーガ、どちらの怪力が上か、前から試して見たかったんだ』だとよ」
「お……おわあああああっ!?」
そう言って、一歩前に進み出たレムのすけを見ていたオーガの青年は再び素っ頓狂な叫びを上げた。
「そ、その紅い一つ眼と全身を覆う琥珀色の岩……まさか、三年前のカリナ・ケンゴ砦攻略戦で素手で砦の城壁を破壊して、砦を壊滅せしめた《破城の岩石魔人》か!?」
「グォーッ!!」
レムのすけは腰に手を当て、自慢げに胸を張ると、両腕を広げて構えたが、今度は影光がレムのすけの前に立ってレムのすけを制止した。
「まぁ待てレムのすけ、ここは俺にやらせろ」
影光の姿を見たオーガの青年は三度素っ頓狂な叫びを上げた。
「おっ、お前はぁぁぁぁぁっ!?」
「ふふん……」
「…………誰だ?」
影光は ずっこけた!
「お……お前、古典的なボケを……!!」
「いや、お前は本当に知らないし……人間……か?」
「……だったら教えてやんよ。一つ、人の世の生き血をすすり!! 二つ、不埒な悪業三昧!! 三つ、醜い異界の鬼を退治てくれよう……桃太郎ッッッ!!」
影光はここぞとばかりに名作時代劇の主人公の名乗りの台詞を吐いた。
「なっ……何ぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!?」
オーガの青年は今日一番の素っ頓狂な叫びを上げた。
「も、モモタロウ……ってまさか、先の大戦でマイク・ターミスタを占拠していた我が一族のザンギャク将軍とボウギャク将軍を殺し、そして恐怖の《つのちぎりババア》を使役し多数のオーガを殺し撤退させたという……」
「色々違う気もするけど…………大体そうだ!!」
青年オーガは自分の不運を呪った。屈強なるオーガ一族にあって貧弱な体に生まれついた事……そして、ずっと『非力な軟弱者』とバカにされ、蔑まれつづけた自分を一族の者に戦士として認めてもらう為に、突き出された『他種族の戦士を三人殺し、首を持ち帰る』という条件を呑んだものの、よりにもよってこんなヤバい連中に喧嘩を売ってしまうとは……
足が震えているオーガの青年にガロウが言い放つ。
「若造……戦において、相手を選ぶなど出来はしない。ましてや、この戦いはお前の方から仕掛けてきたのだ。己が戦士だと言うのなら……覚悟を決めろ!!」
「くっ……や、やってやる……やってやるぞ…………うおおおおーーーーーッ!!」
「むっ!? そいやっ!!」
“バチーーーン!!”
「ぶっ!?」
影光は ビンタを放った!
5の ダメージ!
オーガを 倒した!
秒殺……まさに秒殺だった。自分目掛けていきなり突進してきたオーガの青年に対し、咄嗟に放ったビンタは一撃でオーガの青年を沈めた。
「よ……弱ーーーーーっ!?」
「どうする影光……何か、殺すのが可哀想になってきたんだが……」
「ゴァァ……」
しばらくして、ぶっ倒れていたオーガの青年は意識を取り戻した。
「う、うーん…………ハッ!?」
「だ、大丈夫か?」
「くっ……殺せーーー!! 殺せ殺せーーー!!」
「ま、まぁ落ち着けって……」
「同情なんかいるかーーー!! この《キサイ》、オーガ一族の戦士として、立派に死んでやるーーー!!」
「な……何だとぉぉぉぉぉーーーーーッッッ!?」
「ゴ……ゴォアアアアアアーーーーーッッッ!?」
青年の名を聞き、ガロウとレムのすけは、素っ頓狂な叫びを上げた。




