術士達、新兵器を語る
32-①
武光に言われて、一人新兵器の受け取りに行ったクレナは、この国随一の刀匠にして、武光の魔穿鉄剣やミトの宝剣カヤ・ビラキの生みの親、そして聖剣イットー・リョーダンを超聖剣イットー・リョーダンへと強化改修した男……ジャトレー=リーカントの工房にて、対影魔獣用兵器と対面していた。
「フッフッフ……これぞ対影魔獣用兵器、《穿影槍》じゃ!!」
得意気に語る白髪の老人が、ジャトレー・リーカントその人である。
ジャトレーは御歳73歳の老人だが、眼光鋭く、そこらの若者よりも気力に満ちている。
作業台の上に置かれた穿影槍は、全長約1.2m、箱型の基部に、突撃槍をくっつけたような形状の武器である。
基部は長さ約60cm・高さ約10cm・幅約7cmの直方体をしており、基部の天面、前から20cmの辺りには、直径4cm・高さ5cm程の円形の筒が飛び出しており、肩から掛ける為の革製のベルトが取り付けられている。
突撃槍部分は、長さ60cm程度で、一般的な円錐型の突撃槍を短く切り詰めたような形をしているが、長さ以上に普通の突撃槍と異なるのは、突撃槍の左右側面、先端から30cmの辺りに長方形の窓があるという事だ。
「これが……新兵器……!!」
「そうです、我々が開発した対影魔獣用の新兵器です〕
〔オマチカネ ノ シンヘイキ デスヨー!!〕
クレナの問いに、リョエンとリョエンの作った槍、《機槍テンガイ》が答えた。
テンガイは、術の天才、リョエン=ボウシンが編み出した、この世界で知られている四大属性(地・水・火・風)とは異なる新たなる術……《雷術》を生かす為に作った槍で、イットー・リョーダンや魔穿鉄剣のように、意思を持つ槍である。
「我々は影魔獣と戦う中で、影魔獣の弱点を発見しました。それは……」
リョエンが語った影魔獣の弱点とは、影魔獣は『強い光に弱い』という事だった。
影魔獣は強い光を照射し続けられると、光を当てられた場所が焼かれて、崩れ落ちてしまうというのだ。
その特性を発見したリョエンは、雷術を放つ時に生じる雷光で対抗しようとしたが、雷術が発する閃光では発光時間が一瞬過ぎて、表面を焼き一時的に動きを止める事しか出来なかった。
そこで、リョエンはマイク・ターミスタの職人達と協力して、武光達の世界で言うところのスポットライトによく似た投光装置を作って対抗しようとした。
しかしながら、投光装置は長時間の光の照射を可能としたものの、動き続ける影魔獣に光を当て続けるのは難しく、他にも、武光達の世界のスポットライトと同じく、『重量があり、持ち運びが難しい』『設置に時間がかかる』『接近されてしまうと為す術が無い』など、欠点が多かった。
それでも何とか、『リョエンの雷術で動きを止め、投光装置で光を浴びせる』という方法で影魔獣の攻撃を凌いでいたものの、今の所、この国で雷術を使えるのは生みの親であるリョエン只一人である。
この方法では一時凌ぎにしかならない。
「……そこで開発されたのが、この閃影槍です。クレナさん……でしたね?」
「ハイッ!!」
「今から使い方を教えます。まず、このベルトを斜めに肩にかけて持ち上げて下さい。
「ハイッ……んっ……ちょっと重いかも……」
クレナはリョエンに言われた通り、ベルトを肩に斜め掛けして穿影槍を持ち上げた。
「持ち方ですが、右手は基部を右脇に抱え込むようにして、下から手を添えてしっかりと支えて下さい。そして、左手は基部の左側面にある取手を握って」
クレナは、リョエンに言われた通り、穿影槍を右脇に抱え込み、左手で取手を握った。
「次にこれを……」
そう言ってリョエンは白衣のようなロングコートのポケットから、直径4cm程の黒っぽい球体を取り出した。
「何ですかコレ……石……?」
怪訝な顔をするクレナにジャトレーが言った。
「それはな、《閃光石》という鉱石を加工した物じゃよ」
「閃光石……?」
「うむ」
ジャトレーが言うには、閃光石はタンセード・マンナ火山で豊富に取れる鉱石で、『割ると激しい光を発する特性を持つ』との事だ。
「これを、投入口に入れてください、天面にある穴です」
「これですね」
クレナはリョエンから手渡された閃光石を天面にある投入口に入れた。石がコロコロと転がる感覚と共にランスの中程で “コツン” と音がした。
「これで準備完了です。右手の親指の辺りに突起があるでしょう?」
「えーっと……あ、コレかな」
「そうです。それを押すと、ランスの中で閃光石が破砕されて、激しい光が出ます。やってみて下さい」
「……えいっ!!」
“カッッッ!!”
「わっ!? 眩しっっっ!?」
クレナがボタンを押すと “バシュッ!!” という音と共にランス内部の閃光石が破砕され、ランスの側面の窓から凄まじい光が迸った。
光が収まった後、基部の底面の蓋が開いて、砕かれた閃光石の欠片がバラバラと排出された。
「び、びっくりしたー!!」
「要はコレを影魔獣に突き刺した後、影魔獣の体内で発光させて、内側から影魔獣の肉体を破壊するのです!!」
「お……おおー!! なるほど!!」
〔デモ チュウイジコウ モ タクサン アルゼー〕
感心しきりのクレナに、テンガイが言った。
「注意事項……?」
リョエンはクレナの言葉に頷くと、注意事項の説明を始めた。
「まず第一に、閃影槍は内部に複雑な機構を備えている為に、武器としての頑強さでは一般的な槍や刀剣よりも劣ります。通常の武器と同じ感覚で相手の剣や槍と打ち合ったりしたら内部機構が破損して使用不能になる恐れがあります。なので、相手の攻撃を防御するのはほぼ不可能です。相手の攻撃はひたすら躱すしかありません」
〔アタラナケレバ ドウ トイウ コトハナイ!!〕
「第二に、穿影槍を影魔獣に突き刺す際は、ランス側面の窓が丁度の体内にくるように刺してから発光させないと、発光させても恐らく体表を僅かに焼くだけで、致命傷を与える事は出来ないでしょう……」
〔アサクテモ フカクテモ ダメヨ!!〕
「最後に……この穿影槍は完成したばかりで本物の影魔獣相手に使用した事はありません。想定通りの威力を発揮するかどうかは未知数です。もしも想定通りの威力を発揮出来なかった場合、君は……かなりの危険に晒されるということです」
リョエンの言葉にクレナは言葉を失い俯いた。
「大丈夫っスよ、コイツはオレが守るんで!!」
「フー君!?」
フリードが 現れた。




