仮面巫女、経緯(いきさつ)を語る
3-①
「何やねん、その仮面は!?」
ナジミは口元を切り取った狐面のような、白い仮面を装着していた。
「う……わ、私は……ナジミとかいう人じゃありませんっっっ!!」
「はぁ!?」
「私は癒しの力を持つ謎の仮面巫女ですっっっ!!」
「いや、意味が分からん!! さっきまで普通に話しとったやんけ、何故隠す!?」
「う……それは……!!」
武光が戸惑っていると、少年が声を上げた。
「そうか……どこかで見た事のある顔だと思っていたが……思い出したぞ!!」
「へっ……?」
「お前……アスタトの巫女と口づけしてた男だな!!」
「ぶっ!?」
武光は めちゃくちゃ むせた!
「ななな、何でお前がそんな事知ってんねん!?」
困惑する武光に対し、ナジミが両手で顔を押さえながら消え入りそうな声で答える。
「……ヨミの仕業です」
「はい!?」
武光はかつて激闘を繰り広げた鳥の翼を持つ魔族、《妖禽族》の姫を思い浮かべた。
……かつて、武光とその仲間達は、勇者リヴァルと魔王シンとの決戦を、映した光景をこの国全土の空に投影出来る魔王の秘宝、《天映魔鏡》を使って生中継した。そしてその戦いの場にヨミも立ち会っていた。
勇者リヴァルと魔王シンの最後の戦いが終わった後、武光は証拠を隠滅するべく天映魔鏡を床に叩きつけて割っておいたのだが……
「武光様が、私の唇を奪ったあの時……ヨミは天映魔鏡の破片を使って……」
「ま、まさか……」
「はい……この国中の人に見られてました」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーっ!!」
「武光様がご自分の世界に帰っていった後、私は魔王軍との戦で傷付いた人達を癒やして回る旅に出たんですけど…………」
ナジミの肩がプルプルと震えている。仮面の下の顔が真っ赤になっているのは想像に難くない。
「どこに行っても……『あ、チューしてた人だ!!』って指差されてニヤニヤされるんですよっ!? あまりにも恥ずかしいので、私は仮面で正体を隠し、『癒しの力を持つ謎の仮面巫女』として各地を回っているんです……」
「おぅふ……」
「そんな事より!! 武光様こそ、異界渡りの書も無しに、一体どうやってこの世界に渡ってきたんですか!?」
「ん……ああ、それはやな……」
……武光は語り始めた。どうして再びこの世界にやって来たのかを。