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斬られ役、異世界を征く!! 弐!!  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
調査隊結成編
29/282

少女(黄)、ガツンと言う


 29-①


「はぁ……」


 川沿いの土手で、キクチナは一人溜め息を吐いていた。


「おー、おったおった!!」

「あっ、武光隊長……」


 キクチナの元に武光が現れた。


「た、武光隊長……さ、さっきはごめんなさい。その……逃げたりなんかして……」

「ええよええよ、気にすんな!!」

「で、でも……」

「実はな……俺も逃げてきたとこやねん」

「えっ!?」

「いやー、アイツらグイグイ来過ぎやねん。だから……逃げて来たった!! 脱走仲間やな、俺ら?」

「ふふ…………そうですね」


 腰の二振りの刀も置いて来たようだ。いたずらっ子みたいな笑みを浮かべている武光を見て、キクチナも思わず苦笑した。


「武光隊長……」

「んー?」

「わ、私……昔から、人の顔色を伺ってばかりで……天照武刃団に参加したのだって、戦いなんて嫌なのに、姫様やクレナさん達に失望されるのが怖くて、『嫌だ』って言い出せなかっただけなんです、きっと」

「……そっか。まぁ戦うのは怖いよな?」

「ご、ごめんなさい!! こんな事言ってしまって……」


 うつむくキクチナに武光は声をかけた。


「なぁ、キクチナ」

「は、はい……」

「嫌なもんは嫌って、 “ガツン!!” と言うたったらええと思うで。その程度の事で壊れるような友情や信頼やったらハナっから無いのと一緒やしな?」

「か、簡単に言わないでください……それが出来たらこんな所で黄昏たそがれてませんよ……やっぱり、ガツンとなんて……私には無理です」

「大丈夫やって、俺を信じろ。騙されたと思って!! もし万が一ガツンと言って嫌われてしもたらその時は……」

「そ、その時は……?」


「……心ゆくまで、地団駄じだんだ踏んだり壁殴りしたらええ」


「な、何ですかそれ!? 無責任過ぎます!!」


 眉間みけんしわを寄せるキクチナを見て、武光はニコリと笑った。


「そうそう、それそれ!! ちゃんと言えるやん?」

「えっ? あっ……は、ハイ」

「さてと……俺はそろそろ戻るわ、隊長が脱走しっぱなしやったら怒られるしな? キクチナはどうする?」

「私も……戻ります」

「よっしゃ、行こか」


 29-②


 武光とキクチナが宿屋に戻ると、争いはまだ続いていた……と言うか、人数が増えた分、むしろ悪化していた。


「あっ、キクちゃん!!」

「隊長殿!!」

「何や自分ら、まだやってたんかいな?」

「だってミーナが……!!」

「だってクレナが……!!」


 お互いを指差したクレナとミナハを見て、武光は溜め息を吐いた。


「あーもう!! ええ加減にせえお前ら、俺が最強でええやろが!!」


「「絶対にそれは無い!!」」


「ね、キクちゃんもリヴァル様の方が強いと思うよね!?」

「なぁ、キクチナもロイ将軍が最強だと思うだろう!?」

「え、えっと……」

「どうなのキクちゃん!?」

「ハッキリしろ!!」


 再び、クレナとミナハに物凄い勢いで詰め寄られて、キクチナは思わず後退りしそうになった。武光の方にチラリと視線を向けると、真っ直ぐにこっちを見て頷いている。


 キクチナは……腹をくくった。


 ゆっくりと息を吐き、クレナとミナハの目をしっかりと見据えると、口を開いた。


「ど……」


「「ど……?」」


 リヴァルとロイ、どちらの名前が出るのか……クレナとミナハは固唾かたずを呑んだ。



「どうでもいいですっっっ!! そんな事っ!!」



 キクチナの答えに対し、二人は呆気あっけに取られたが、すぐに反論した。


「どうでも良くないもん!!」

「そうだぞキクチナ!!」


  “ドンッ!!”


「「わーっ!?」」


 キクチナは、無言で二人の足元にボウガンの矢を打ち込んだ。


「全く……クレナさんもミナハさんも下らない事で……良いですよ? そんなに答えをハッキリさせたいなら今すぐ出してあげます……クレナさん?」

「は、ハイッ!?」


 キクチナに微笑みかけられたクレナは、思わず直立不動で返事をした。目が……まるで笑っていない。


「リヴァル様をここに連れて来て下さい、ミナハさんもロイ将軍を連れて来て下さい、今すぐに!! さぁ、早く!!」

「え、えっと……」

「キクチナ、流石にそれは無理……」


  “ドドンッ!!”


 キクチナは再び、無言で二人の足元にボウガンの矢を打ち込んだ。


「「ひーっ!?」」

「お二人がハッキリしろとうるさいからじゃないですか……『どっちが強いか?』なんて、他人が何万回議論しようと答えは出ません。正解を出すには本人同士に直接戦ってもらうしかありません……そうでしょう?」


 ぐぅの音も出ない正論である。キクチナに視線を向けられた二人は頭を下げた。


「は、ハイ……ごめんなさい」

「私達が間違っていた……すまない」


 シュンとしてしまった二人を見て、キクチナは我に返った。


「わ、分かってもらえたら私はそれで……二人共、仲直りしてくれますよね? その……私とも……」

「キクちゃん……もちろん!!」

「キクチナ……当然だ!!」

「クレナさん……ミナハさん……!!」


 三人は互いに手を取り仲直りをした。


 キクチナは仲直りした後、武光のもとまでやってくると、はにかんだ笑顔を見せた。


「た、武光隊長……私、やりました!! ちゃんと “ガツン!!” と言えましたよ!! 隊長のおかげです!!」

「そ、そうか……でも今度から “ガツン!!” はやめて、 “かつん!!” くらいにしとこか? な?」

「か、かつん……ですか?」


 ……この日、天照武刃団内において『最強は誰か?』という疑問に《キクちゃん最強説》が追加されたのは言うまでもない。


 29-③


 ……そして、キクチナがガツンと言っているのと同時刻、《ゴーレム族》の戦士にガツンと言っている男がいた。


「オレと共に来い!! 俺の名は《影光かげみつ》……天下をる男だッッッ!!」


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