斬られ役、神具を授かる
280-①
「新たな……神具!?」
「うむ、だが……その前に一つ聞いておく事がある」
ラグドウンの言葉に、武光は息を呑んだ。
「はい、何でしょうか?」
「お主……神の力が欲しくは無いか?」
「えっと……神の力って、前に俺が魔王と戦った時のあの超絶パワーですよね? 要りませんよあんなもん」
即答した瞬間、武光は隣りのナジミに肘で小突かれた。脇腹を押さえる武光に、ナジミが小声で語りかける。
「ちょっと武光様!! 神々の御力に対して……あんなものとは何ですか!? あんなものとは!?」
神々の怒りを買うのでは……と、畏れ慄くナジミだったが、ラグドウンは特に気にした様子も無く話を続けた。
「ほう? 神の力が要らぬと申すか? お主は神の力をその身に宿した事があるはず……神の力の凄まじさは、その身を以って知っているはずだが?」
「いやいや、知ってるから要らんのですよ」
「人智を超えた絶大な力を得られるのだぞ? 一体何の不都合があると言うのだ?」
「いや、あの時みたいに『ステータス100億倍』みたいなワケの分からん事になってしもたら……」
武光は苦笑しながら、隣でオロオロしているナジミに視線を遣った。
「こいつを軽く抱きしめただけで全身バッキバキに複雑骨折させますし、チューしただけで頭を木っ端微塵に吹っ飛ばしますし、お○ぱいを揉もんだりしようもんなら、心臓抉り取ってしまいますやん…………イチャつくのに、めっっっちゃくちゃ邪魔ですっっっ!!」
「た、武光様っ!? 辞退するにしても、もっとマシな理由は無いんですかっ!?」
「無いな、全く無い!!」
「えぇー……もっとこう……何かあるでしょう!? 真面目に考えてくださいよっ」
「うーん……そもそも神様達の超絶パワーなんぞ無くても、俺には仲間達との友情パワーがあるしなぁ?」
「こ、こらーーー!! 神の力なんぞとは何ですか、なんぞとは!? 神々にお叱りを受けても知りませんからね!!」
「だってホンマに無いんやもん。何やお前、神様に嘘吐け言うんか、この罰当たり巫女ー」
「ばっ……罰当たり!? もういいです、武光様のアホ!! バカ!! 武光様なんて、神々に怒られちゃえば良いんですっ!!」
「「「「…………ぷっ」」」」
まるで子供の喧嘩のようなやりとりに、神々は噴き出し、高らかに笑った。
「お主ならば安心だ。それでは……神具を受け取るが良い」
「うわっ!?」
武光は眩い光に包まれ、気が付くと右手に板状の物体を握り締めていた。
形状は、縦長の長方形と、高さの低い二等辺三角形を組み合わせたような五角形、大きさはスマートフォンぐらいで、厚さは約1cmと言った所か。金属的な光沢を持つ金色の表面には、不思議な模様が刻まれている。
「ラグドウン様、これは一体……?」
「その《異界通行手形》があれば、お主の世界とこちらの世界を繋ぐ為の門を開く事が可能となり、二つの世界を往来する事が出来る」
「って事は……《異界渡りの書》と同じ物……?」
「いいや、異界渡りの書は一度使えば消滅してしまうが、異界通行手形は何度でも使用する事が出来る」
「つまり……異世界フリーパス!? 凄っ……!! でも、ホンマに良いんですか、こんな凄い物を頂いてしもて……」
神々は答えた。
「うむ、お主のような不届き者は、掟や規則で縛ろうとすればする程、却って面倒な事態を引き起こしそうなのでな」
「逆に許可を与えてきちんと管理した方が得策だと思ってね」
「ま、お前には『暗黒樹を討ち滅ぼして多くの生命を救った』って功績もあるからな!!」
「それに……アスタトの巫女に呪いまくられてはたまったものではありませんからね?」
「う……誠に申し訳ございません……」
神々に笑われて、ナジミは小さくなってしまった。
「しかし、異界通行手形で得られるのは、《こちらの世界の言葉や文字が理解できるようになる力》と《神の姿や声を認識出来るようになる力》だけだ。異界渡りの書と違って《神の力》を与える事は出来ぬが……良いな?」
「はい、もちろんです!!」
武光の返事に、ラグドウンは満足げに告げた。
「よかろう、では使い方を伝授するが……決して悪用せぬように。悪用した場合は……即座にお主を抹殺する、確と心得よ!!」
「いいっ!? あ、悪用なんてするワケないやないですか……ははは」
「……掟破りは悪役の華なのであろう?」
「う……意地悪言わんとって下さいよ……」
「ふ……冗談だ」
その後、神々は異界通行手形の使い方を武光に伝授すると、天へと昇り、それぞれが祀られている地へと帰って行った。
武光は 異界通行手形を 手に入れた!!




