聖女、処刑される
274-①
「お……おい!! 空を見ろ!!」
「あれは……ミト姫様ではないのか!?」
「おお、勇者様もおられるぞ!!」
「あの捕縛されている女は何者だ……?」
武光達が暗黒樹を撃破して三日目の朝……アナザワルド王国の人々は、男も女も、老人も子供も、王侯貴族も平民も、皆一様に空を見上げた。
王国各地の空に突如として、後ろ手に縛られ、跪かされている銀髪の女性と、ミトとリヴァルの姿が映し出されたからだ。
どこかの城内だと思われる、石造りの壁に囲まれた広い部屋に、厳重に縛られたシルエッタと、その左右に立つミト=アナザワルド、そして光の勇者リヴァル=シューエンの姿が映し出されている。
王国中の人間が注目する中、ミトが口を開いた。
「親愛なるアナザワルド王国の皆さん、アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドです。この度、私達は人間との共存を望む新生魔王軍の協力を得て、我が国全土を混乱に陥れた暗黒教団を壊滅させる事に成功しました!!」
ミトの宣言にアナザワルド王国の人々はざわめいた。ちなみに、『人間との共存を望む』の部分はミトのアドリブである。
先の大戦による魔族への不信感が根強い王国の人々にとっては、焼け石に水かもしれないが、暗黒樹の破壊に協力してくれたマナに対する、ミトの心遣いであった。
ミトの宣言に続いて、王国軍と新生魔王軍との連合軍による、暗黒樹との最終決戦の模様が次々と映し出されてゆく。
そこには互いに協力し、助け合いながら戦う王国軍と新生魔王軍の兵士達の姿や、仲間達と共に影魔獣の大群を蹴散らす勇者リヴァルの雄々しい姿が映し出されていた。
現在流れている映像は、元々はキサイが、『戦後の交渉材料になるかもしれない』と、配下の兵士数名に《景憶鏡》の携行を命じて最前線の様子を記録させたり、魔王城に設置した景憶鏡を利用した遠距離撮影用機材を用いて記録させておいたものだ。
次々と映像は流れてゆき、そして最後に、影光が暗黒樹の核を唐竹割りに両断する瞬間が映し出された。そこに……武光の姿は無い。上手く編集されている。
映像が一通り終了すると、再びミトが語り始めた。
「我々は新生魔王軍と力を合わせて残敵を掃討し、そして遂に……新生魔王軍の影光将軍の手によって、首魁であるシルエッタ=シャードは捕らえられたのです!!」
ミトの紹介を受け、空に浮かぶ映像の中に影光の姿が現れた。
現れた影光は腹式呼吸で息を深く吸うと、役者ならではのよく通る声で、高らかに名乗りを上げた。
「遠からん者は音に聞け!! 近くば寄って目にも見よ!! 我こそは新生魔王軍総大将にして、暗黒樹にトドメを刺し、暗黒教団の首魁を捕らえし影光なりィッ!!」
時代劇俳優の面目躍如である。源平武者ばりの大音声で名乗りを上げた影光は、腰に差した刀を鞘から抜くと、シルエッタの眼前に突きつけた。
「……言い残す事があれば聞いてやろう」
刀を突きつけられたシルエッタは、顔を歪めて口惜しげな表情を浮かべた。
「口惜しや……!! 我が秘術でこの国の有象無象共を騙して、本人達に自覚も無いまま洗脳し……そうして増やした信徒共を我が意のままに操り、この国を滅ぼす計画が……!!」
「フン、せいぜいあの世で後悔するがよいわ……!!」
……と、悪役感満載の台詞を吐きつつ、影光がゆっくりと刀を振り上げる。ミトとリヴァルはここから先を子供に見せないようにと注意を呼びかけ、そして……
振り下ろされた刀によって、シルエッタの首は “すん!!” と切り落とされた。
そして、影光が切断された首を高々と掲げて勝利を宣言したところで、空に映し出された映像は消え、王国は歓喜に包まれた。
そしてその頃、シルエッタの処刑の現場となった魔王城・謁見の間では……
「よーし、皆お疲れーーー!!」
首無しのシルエッタが歩き回り……周囲の仲間達に労いの言葉をかけていた!!




