斬られ役、許し許される
273-①
「えっと……その、酷い事を言って本当にすまなかった!!」
現れた影光はナジミに対して土下座した。
「あれは……俺の本心じゃない……いや、『本心じゃないから』といって、口にして良い言葉じゃないのは分かってる。それでもあの時、俺は本体に全力を出させる為に──」
「影光さん」
ナジミは土下座する影光の肩に優しく手を置いた。
「いいんですよ、ちゃんと……分かっていますから」
影光は顔を上げた。そこには、ナジミの慈愛に満ちた微笑みがあった。
「な、ナジミ……本当に済まなかった。本体……いや、武光も」
影光の謝罪に対し、武光は酒の入った盃を無言で差し出した。
「た、武光……」
「ナジミが……言われた当人が『許す』って言っている以上、これ以上俺が言う事はあらへん。それに、俺の怒りは、さっきの喧嘩で全部お前に叩き付けたしな? 売り切れや、売り切れ」
「す……すまん……!!」
影光は差し出された盃を受け取ると、酒を飲み干した。
最高に美味いと感じたのは、シルエッタによる核の修復作業にあたり、オサナが『大盛りで』と頼んだ事で、核の修復と共に新たに付与された『味覚』のせいだけではない。
「ところで分身……いや、影光。隣りの女性は……?」
影光の隣りの、ナジミによく似た顔立ちの女性に、武光は視線を向けた。
「まさちゃん……ウチの事覚えてる? 子供の頃、近所に住んでたオサナやけど……」
「なんと、私のお姉ちゃんなんですよ、武光様!!」
「…………あー、オサナか!! ナジミのお姉ちゃんの……………………ぅええええええええっ!?」
武光は思わず吉○新喜劇みたいなリアクションを取ってしまった。
「えっ!? ちゃうやん。ちょっと待って思考が追いつかへん。えっ!? オサナが何でここに!? って言うかナジミの……お姉ちゃん!?」
「まーまー、落ち着いてまさちゃん。ちゃんと説明するから」
自分が実はこっちの世界の住人である事、子供の頃に武光と離れ離れになってから今までの経緯など、オサナは順を追って説明した。
「さてと……説明も済んだ所で……!!」
「痛だだだだだ!? ちょっ、何すんねん!?」
武光はオサナに思いっきり頬をつねられた。
「お嫁さんにしてくれるって言うたのに……!! この……浮気者っ!!」
「お前ソレ、子供の頃の約束やろ!? 痛だだだだだ!?」
「ごめんなさいは?」
「ご……ごめんなさい!!」
「ふふ……しゃーない、許したるわ!!」
オサナは、手を離した。
「……それでだ、武光」
影光が神妙な面持ちで話を切り出した。
「うん?」
「俺がここに来たのは、ナジミとお前への謝罪と、それともう一つ、相談があって来たんだ」
「何や、相談って?」
「…………シルエッタを公開処刑しようと思うんだが」
武光は飲んでいた酒を噴き出した。




