斬られ役共、突撃する
265ー①
「あ、アニキ!!」
「隊長……っ!!」
「隊長殿!!」
「た、武光隊長……!!」
「隊長さん!!」
現れた武光の姿を見て、フリード達は思わず涙ぐんだ。フリード達はすぐさま武光のもとへ駆け寄ろうとしたが、間の悪い事に、影魔獣の群れが現れた。
どうやらあの白の影魔獣に引き寄せられているようだ。
「くそっ!! こんな時に……皆、コイツらをアニキの所へ行かせるな!!」
フリード達が、足元で爆睡している天驚魔刃団の四天王を守りつつ影魔獣の群れに応戦している中、シルエッタにヒップアタックを喰らわした武光はシルエッタを怒鳴りつけていた。
「まーた何か悪さしようとしてんのかシルエッタコラァ!!」
武光にぶっ飛ばされたシルエッタは衝撃でくらくらする頭を左右に振って立ち上がると、残忍な笑みを浮かべた。
「フフフ……その通りです唐観武光!! 私は今からあの最強最悪の影魔獣と魂を入れ替えて最強の肉体を手に入れ、人間も魔族も、全てのゴミ共を一匹残らず地上から抹殺してやるのです!!」
ヘタな芝居打ちやがって……と、影光は焦った。シルエッタは本体の憎悪を煽り、怒らせる事で白の影魔獣と自分自身を始末させるつもりなのだ。
「さぁ、覚悟なさい!!」
シルエッタは握り締めていたもう片方の双頭蛇を白の影魔獣の影目掛けて投げつけたが……
“すん!!”
放り投げられた操影刀が白の影魔獣の影に突き立つ前に、二本の操影刀を繋ぐ紐はイットー・リョーダンによって断ち切られてしまった。
「な、何という事を……!? あれは最後の手だ……きゃっ!?」
シルエッタは無理矢理前屈みの体勢にされ、正面に立つ武光から、上から覆い被さるように腰に手を回されガッチリと捕らえられてしまった。
「な、何を!? は、離しなさい……ひいっ!?」
シルエッタの視界がぐるんと勢いよく回った。武光に体を高々と持ち上げられたのである!!
シルエッタを肩の高さまで持ち上げた武光は足元の影光に視線を落とした。
「オイ……分身」
「な、何だよ!?」
「お前、クッション代わりになったれ」
「ひっ……14号!? た、助け──」
「おい待て本体──」
「侍ッ……パワーボムっっっ!!」
「「ぎゃん!?」」
数秒の溜めの後、影光の背中に、越○詩郎ばりの滞空式パワーボム……別名、《侍パワーボム》が炸裂した!!
影光がクッション代わりになったとはいえ、背中と後頭部を思いっきり打ち付けられたシルエッタは失神してしまい、影光は影光で……
「ぎゃーっ!? いきなり何してくれてんだ本体コノヤロー!! 何か核が “ぴしっ” って言ったじゃねーか、ふざけんなバカヤローコノヤロー!!」
「そんな事より……あの白いのが親玉か?」
「そんな事って…………ああ、そうだ!!」
それを聞いた武光は、イットー・リョーダンと魔穿鉄剣を鞘から抜いた。
「そうか……ほんならちょっとぶった斬って来るわ」
「た、武光様ーーー!! 待ってーーー!!」
武光が白の影魔獣に挑もうとしたその時、武光を追ってナジミが現れた。ナジミの無事を確認した影光は安堵の溜め息を吐いた。
「ナジミ……無事に本体と合流出来たんだな……」
「か、影光さん!? 大変、今すぐに治療を──」
「俺は後回しでいい!! それよりも向こうの瓦礫の辺りに俺の仲間達が重傷を負って倒れてるんだ、オサナの札で応急処置はしているが危ないかもしれん、先にあいつらの治療を頼む!!」
「……分かりました。武光様、影光さんを頼んでも良いですか!?」
「よっしゃ!! 任せとけ!!」
ナジミは一つ頷くと、四天王達のいる方へ走った。
「さてと……ほんなら分身、俺はアイツをぶった斬って来るから大人しくしとけよ」
「待てよ本体……俺も行く」
「そんな事言うたかてお前、両手両足があらへんのに──」
「けっ、確かに体の再生は思うように行かねぇが、俺にはまだ……肉体の形状変化能力がある!!」
そう言うと、影光は肉体の形状を変え始めた。
「よし、変化完了だ。行こうぜ本体!!」
「こ……これは!!」
……影光が変化したのは、漆黒の陣羽織だった。
「これぞ……名付けて《黒影刃覇織》だッッッ!!」
「ったく、しゃーないなぁ……」
武光が、影光が変化した黒影刃覇織に袖を通すと、左右の肩甲骨の辺りから人間の腕程の太さの触手が一本ずつ伸び、左の触手は地面に突き立っていたネキリ・ナ・デギリを引き抜き、右の触手は地面に転がっていた影醒刃の柄を拾い上げた。
二人の視線の先には回復を終えようとしている白の影魔獣がいる。
「……行くで分身ッッッ!!」
「……行くぞ本体ッッッ!!」
「「ぶった斬るッッッ!!」」
影光が変化した黒影刃覇織を纏った武光は、重心を低く落とすと、敵に向かって猛然と突撃した。




