出撃の日、迫る(中編)
249ー①
フリードが『ヨミ様を愛でる会』とすったもんだしたり、ガロウとフォルトゥナが対決したりしていたその頃、天照武刃団の三人娘とアルジェは、ミト=アナザワルドに呼び出しを受けていた。
魔王城内でミトに割り当てられた王族用の部屋の前までやって来た四人は、扉の前で警備していた巨漢……親衛隊長のベン=エルノマエに一礼した。
「おう、よく来たな娘っこ達……ん? おめぇは確かロイ将軍トコの?」
「はい、おら……アルジェ=シルヴァルフって言いますだ。ソウザン城では気絶していたオラを守って頂いたみたいで……ありがとうごぜぇましただ。貴方様は命の恩人ですだ」
「なんのなんの、困っている人を助けるのが騎士だかんな。それに怪我を治してくれたのはアスタトの巫女様だ」
深々と頭を下げたアルジェに、ベンは大らかな笑顔を見せた。鬼のような厳つい顔をしているが、その心根を表すような優しく純朴な笑顔に四人は思わず笑顔になった。
「さ、姫様がお待ちだぞう、失礼の無ぇようにな」
そう言うと、ベンはドアをノックしてミトにクレナ達が来た事を告げた。
「……四人共、入室を許します。お入りなさい」
返事を聞いた四人は『失礼致します』と、一礼して部屋に入った。
部屋の中ではミトが執務席に座って待っていた。
クレナ達は豪華な装飾を施された執務机を挟んでミトの前に整列した。四人を代表してミナハが告げる。
「姫様、ミナハ=ブルシャーク以下四名、お召しにより参上致しました」
「よろしい、楽になさい」
そう言うと、ミトは微笑んだ。
「ハイ、じゃあ堅苦しいのはここまで!! 皆、そこの円卓に着きなさい、お茶を淹れてあげるから」
それを聞いた四人は、『姫様にそんな畏れ多い真似をさせる訳には!!』と慌てたが、ミトは笑いながらそれを手で制した。
「良いから座って待ってなさい、これは命令よ?」
命令だと言われてしまっては引き下がらざるを得ない。四人は言われた通りに、人数分用意されていた席に着いた。
しばらくして、人数分のカップとティーポットを運んで来たミトは、思わず見惚れてしまいそうな優雅な手つきで人数分のお茶を注いだ。
「さぁ、召し上がれ」
「有り難く、頂戴致します」
ミトの淹れたお茶を一口飲んだ四人は、思わず目を見開いた。とても美味い。
「ふふん、美味しいでしょう? 三年前、武光達と旅をしていた時も私が一番上手だったのよ? 武光が淹れるとやたらと濃いし、ナジミさんはよく茶葉の分量を間違えるから、妙に薄かったり濃かったり……でしょう?」
それを聞いたクレナとミナハとキクチナは笑いながら頷いた。
「ふふ……姫様の仰る通りです。ね、ミーナ、キクちゃん?」
「ああ、隊長殿の淹れる茶はいつも濃くて苦い」
「な、ナジミ副隊長はよく分量を間違えてます」
「ふふ……変わらないわね。ところで貴女達を呼んだのは他でもありません、暗黒樹との決戦では……私を守る必要はありません」
椅子から転がり落ちそうなほど驚く四人を見て、ミトは苦笑した。
「私にはベンを始めとする多くの精兵が護衛に付きます。だから貴女達は暗黒樹の破壊よりも、武光の捜索と救出に全力を尽くしなさい。必要とあらば貴女達の個別行動も許可します」
「でも……」
〔良いんですよ、姫様は愛しの武光さんが心配で心配で仕方ないんですから〕
ミトの身を案じるクレナ達に、部屋の壁に掛けられていたミトの愛剣、宝剣カヤ=ビラキが声をかけた。
〔四人共、立場上自由に動き回れない姫様の代わりに頑張って下さい、武光さんが安否不明と聞いてから、姫様は涙で枕を濡らす日々なのです……〕
カヤ・ビラキの発言を聞いたミトは、顔を真っ赤にして慌てた。
「ちょっ、ちょっとカヤ!? 適当な事言わないでくれる!?」
〔武光さんに成長した格好良い姿を見せようとして、王都に戻ったりなんかしなければ……初めから素直に、『愛しい貴方について行きます』って言えば良かったと……あぁ、おいたわしやおいたわしや……ぷぷぷっ〕
「こ、コラーーー!? ちょっと!? 貴女達も何ニヤニヤしてるの!?」
「いえ、それより姫様……一つ聞いても良いですか?」
「何かしら?」
クレナは前々から気になっていた事をミトに聞いた。
「隊長が姫様に剣の勝負で勝った事あるって本当ですか?」
「…………それ、武光が言ってたの?」
「はい、他にも『俺は勇者リヴァルと親友』とか『ロイ将軍をシバき倒したった!!』とか……私達も最初は『そんなワケあるか!!』って、そういう事を口にする度にボコボコにしちゃってたんですけど……」
「ロイ将軍の件は、御本人から事実であると確認しましたし……」
「り、リヴァル様と本当に親友だという事も神様から聞きました」
「なるほど……それで今までの仕打ちについて謝罪したいと?」
申し訳無さそうに頷いた三人娘を見て、ミトは胸を張った。
「安心なさい!! リヴァルとロイ将軍の件は確かに事実ですけれど、私があのバカに負けた事など、一度たりともありません!!」
〔えー? 姫様、アナザワルド城の謁見の間で初めて武光さんとお会いした時に──〕
「あんなものは無効試合です!! もし仮に、どうしても勝敗を決めろと言うのなら、あのバカの反則負けで私の勝ちです!!」
〔うわー〕
宝剣カヤ・ビラキのリアクションを見た三人は、『姫様に勝ったというのも本当だったんだ……!!』と確信した。
「貴女達……絶対にあのバカを見つけて、私の前に引きずり出しなさい!! 貴女達に嘘を吹き込んだ罪を償わせてやるわ!! あら? アルジェ……貴女顔が真っ青よ!? それにさっきから彫像のように固まって……」
「い、いえ!! おら……じゃなかった、私はその……上流階級の言葉遣いも振る舞いも、おおおおお知りあそばさないものですから!! ひ、姫様の前で、ししししし失礼な言動があってはなんねぇと!!」
「ふふ、あのバカに貴女を見習わせたいものね。貴女の働きにも期待しています、クレナ達の力になってあげて頂戴」
「は、ハイッッッ!!」
クレナ、ミナハ、キクチナの三人は互いに顔を見合わせ、力強く頷くと、ミトに熱く真剣な眼差しを向けた。
「姫様、安心して下さい!!」
「我々の名誉と誇りにかけて!!」
「ぜ、絶対に!!」
三人は、力強く宣言した。
「「「姫様の愛しい人を救出してみせますッッッ!!」」」
「い……愛しいとか言うなーーーーーーーーー!?」




