少女達、力を授かる
237-①
「お前達に……我らの力を授けよう」
そう言うと、神々はナジミ達に向かって光を照射した。そのあまりの眩さに、ナジミ達は思わず目を閉じた。
光が収まり、ナジミ達はゆっくりと目を開けた。
「これは……!!」
クレナは目を見開いた。
愛用の穿影槍が変化を遂げている。全体が銀色から赤銀色……武光の世界で言うメタリックレッドに変化していた。
だが、変化していたのは外見だけではなかった。
クレナが、突撃槍部側面に設けられた閃光石破砕時の光を放出する為の窓を覗くと、閃光石を破砕する機構が無くなっており、代わりに神々しい光を放つ火の玉が浮いていた。
「どうだ、凄ぇだろ? 決して消える事のない神の火だ!!」
驚きを隠せないクレナに、火神ニーバングが自慢気に語る。
「名付けて《火神穿影槍》、神火があれば閃光石なんぞとは比べ物にならねぇ程の光が何度でも出せる。あと、武器自体の強度も何十倍にも頑丈にしといてやったぞ!!」
「凄い……ありがとうございます!! ニーバング様!!」
「それじゃあ、次は僕の番だね」
風神ドルトーネはキクチナに説明を始めた。
キクチナの小型ボウガンは緑銀色に輝く小型ボウガンへと変化していた。
「名付けて《風神弩》……どうだい、キクチナ?」
「し、信じられません……まるで鳥の羽のよう……重さをまるで感じません!!」
「ふふん、凄いのはそれだけじゃない。試しに君の真後ろにある木を撃ってごらん」
「は、はい!!」
言われたキクチナは振り返ろうとしたが……
「ちょっと待った。振り返らずに、そのまま正面に向かって撃つんだ」
前に放った雷導針が背後の木に刺さるはずがない。キクチナを始め、天照武刃団の誰もがそう思ったが、困惑しつつも、キクチナはドルトーネに言われた通りに指定された木に背を向けたまま、正面に向かって雷導針を放った。
そして雷導針を放つと同時に一陣の風が吹き、放たれた雷導針は、空中で蜻蛉返りしてキクチナの背後の木に向かうという常識では考えられない軌道で飛翔し、見事に目標に突き立った。
「い、一体何が……!?」
「ふふん、凄いだろう? 風神弩は放たれた矢を風に乗せて確実に目標まで運んでくれるのさ」
「す、凄いです!! か、感謝致しますドルトーネ様!!」
「次は儂の番だな、そこの小娘、確かアルジェとか言ったか……お主に授けた《地神剣盾》について教えてやろう」
「お、お願ぇしますだラグドウン様!!」
「その剣を大地に突き立てよ」
「分かりましただ」
アルジェはラグドウンの指示に従い、黄金色に変化した愛用の剣盾……地神剣盾の刃を地面に突き立てた。
「うむ、よろしい。地神剣盾は地面に刺した剣を通じて地震や地割れ、地面の隆起を起こす事が出来るのだ、やってみるがよい!!」
「は、はい!!」
“ゴゴゴ……!!” という音と共に地面が揺れ、そこら中の地面から岩が隆起しだした。
「うわわわっ!? ちょっ!? アルジェやめろー!!」
フリードに言われて、アルジェが慌てて地面に突き立てた地神剣盾を引き抜くと、地震は収まった。
「どうだ、凄いであろう? 慣れれば相手の足元だけを揺らしたり、狙った場所だけ地面を隆起させたり出来るようになる、精進せよ」
「はい!! 精進させて頂きますだ!!」
「うむ、シュラップスよ。お主もそこの娘に説明してやるがよい」
ラグドウンの言葉にミナハは緊張した。自分の驚天動地は刃の部分が青銀色に変化している。果たして自分の斧薙刀には一体どのような凄まじい力が宿ったというのか。
「シュラップス様!! 私の驚天動地にはどのような力を授けて頂いたのでしょうか!?」
「そ、それはですね……えーっと…………水が出ます」
「……はい?」
「貴女の《水神驚天動地》からは……その……水が出ます」
「……は、はぁ」
戸惑いを隠せないミナハを見て、シュラップスは焦った。
「ご、ごめんなさい。私は他の御三方と違い、争い事は不得手で……で、でも神の水だから、とても体に良いし、凄く美味しいし、あと……そ、そうだ!! 美容にも凄く良いのよ!? この水を毎日飲んでいれば、お肌だってツルツルのスベスベに──」
それを聞いた瞬間、神々も驚くほどの速さで、天照武刃団の女子一同はシュラップスの前に列を成した。
「いや、お前ら水神様の前に並ぶなし!! 姐さんまで何並んでんだよ!? いや皆して『力をお授け下さい』じゃねーよ!? 他の神様達ちょっとヘコんでるぞオイ!?」
「とにかく一度使ってみて? そうね、切っ先をあの岩に向けて頂戴」
「……はっ、かしこまりました」
ミナハは水神驚天動地の切っ先を先程アルジェが隆起させた岩へと向けた。
「頭の中で『水よ出ろ!!』と念じれば水は出ます」
「やってみます……!!」
シュラップスの助言に従い、ミナハが『水よ出ろ!!』と念じると、水神驚天動地の切っ先から一条の水が勢いよく吹き出し…………アルジェが隆起させた岩を容易く貫通した。
もし、この場に武光がいれば『工場とかにある超高圧のウォーターカッターやんけ!?』などとツッコむ所だが、ウォーターカッターなど知るはずもないナジミ達は眼前で起きた出来事にあんぐりと口を開けるしかなかった。
「どうかしら……? あとは、水を出した時の反動を全く受けないようにしたのだけれど」
「す……素晴らしいです、流石は水神シュラップス様!!」
「そ、そうかしら?」
照れ笑いをするシュラップスを見て、フリードは残りの三柱に小声で話しかけた。
「……神様の世界でも、女って怒らせると怖いんスね?」
「……うむ」
「……そうだね」
「……俺なんか消されかねないぜ」
野郎共は溜め息を吐くのだった。




