方針、決まる
232-①
つばめとすずめは ひさくを となえた。
会心の一撃!!
影光は 立ち上がった!!
キサイは 立ち上がった!!
リョエンは 立ち上がった!!
両陣営は こんらんした!!
両陣営が困惑したのも至極当然だった。影光はともかくとして、立ち上がったのは、両陣営で一番の知恵者なのだから。
天照武刃団の三人娘はヒソヒソと会話した。
「お……おいクレナ、リョエン様は正気なのか!? 幼児が考えた作戦だぞ!?」
「えっ!? う、うん……(どうしよう、その手があったかってめっちゃ感心してた)」
「リョ、リョエン先生の事です。き、きっと何か深いお考えがあっての事だと……」
フォルトゥナと竜人三人組もコソコソと会話した。
「デュフ!? シンジャー、ネッツレッツ……キサイ氏は一体何を!?」
「グフゥム……我々には想像もつかぬが、キサイ氏の事、何か策があるのであろう」
「ヌフぁっ!? 大変だドルォータ、シンジャー、理解を超えた出来事にフォルトゥナ嬢の頭が……!!」
「うへへ……分っかんないや、キサイさんすっごーい……全然分からん」
ガロウは、頭から煙を出しそうなフォルトゥナにチラリと視線を遣り、呆れの溜め息を吐くと、キサイに問うた。
「キサイ、お前正気なのか……子供の考えた作戦だぞ!? 影光みたいなバカじゃあるまいし」
「はぁ!? 誰がバカだ!! 子供の発想よりも大人の考えの方が常に正しいと思ってんじゃねーーー!!」
キサイは、言い争う二人を宥めた。
「まぁまぁ……ガロウさんも影光さんも落ち着いてください。良いですか、マスコット達の発想は決して悪くありません。あの巨木に致命的な一撃を加えるには通常の攻城戦のように、ただ単に軍勢を送り込めば良いというわけではありません。むしろ、下手に軍勢を送り込めば片っ端から暗黒樹に取り込まれかねません」
「ならばどうする?」
ガロウの疑問に、影光が答えた。
「だから、暗黒樹でも簡単には取り込めないほどデカイ物で “ガーッ!!” って行って “バーッ!!” って行って “ドーン!!” ってやるんだよ!!」
「暗黒樹でも簡単には取り込めないほど巨大な物……まさか!!」
悪役感満載でニヤリと笑う影光を見て、ガロウは慌ててキサイの方を向いた。
「お前も同じ考えなのか!? キサイ!!」
「ええ、ガロウさん。その為にはまず、この城の修復、そして何より一撃で暗黒樹に致命的な損傷を与えられるような『けん』を搭載しなければなりません、それが一番の問題ですが……」
それを聞いたリョエンが手を挙げた。
「それならば、とっておきの良い物がありますよ、我々がマイク・ターミスタの街で極秘裏に建造中の……超弩級の穿影槍がね!!」
それを聞いたミトが待ったをかけた。
「ちょっと待ってリョエンさん? そのような物を建造しているなど、私も初耳なのですが?」
「……あっ」
「穿影槍を量産する為にマイク・ターミスタに輸送させた国の資材で、勝手にそのような物を……?」
「いえ、それはですね姫様、その……このような事もあろうかとですね……」
滝のような汗を流しながら、しどろもどろになるリョエンを見て、彼の教え子であるキクチナは全てを悟った。
(け、京三さん……京三さんなんですね!? リョエン先生!!)
暗黒教団の元幹部にして、武光のいた時代の300年後の日本からやってきた青年、月之前京三……現在彼はアナザワルド王国屈指の技術者や職人の集まる街、マイク・ターミスタから、未来の超技術によって、物質の転送が可能な超高性能通信端末、《アルティメットフォン》を駆使して、物資の補給や情報面で天照武刃団を支援してくれている。
キクチナの想像する所では、彼のもたらした未知の技術や知識の数々は、マイク・ターミスタの技術者や職人達を大いに驚愕させた事だろう。
そして、マイク・ターミスタの技術者や職人達の技術に対する探究心とこだわりは、国の内外から『情熱を超えて、もはや変態の域』と評されている。
きっと、未知の技術に大興奮した誰かが言い出したはずだ。
『この新しい技術を使って……どこまでデカイ物が作れるか試してみようぜ!!』
……と。
キクチナの推理は、ほぼ完璧だった。外れていたのは、その時のマイク・ターミスタの職人達のテンションが、十歳児並ではなく……五歳児並だった事くらいだ。
何はともあれ……
大まかな方針は決まったものの、未だ両陣営の間には重苦しい緊張感が漂っていた。
この作戦には王国軍と魔王軍、両陣営が心を一つにして、互いに協力し、連携する事が必要不可欠である。しかしながら、人間と魔族……二つの種族が心を一つにするのは限りなく不可能に近いと思われ──
「じゃあ大まかな方針が決まった所で、作戦名はこの俺、影光様が決めてやるぜ!! そうだなぁ……よし!! 作戦名は……《オペレーション・ガーッって行ってバーッって行ってドーーーン!!》だッッッ!!」
「「「「「…………いや、名付け下手かっっっ!!」」」」」
……その日初めて、両陣営は心を一つにした。




