両陣営、会談する
230-①
魔王城・軍議の間には人間達と魔王軍の代表が集まっていた。
人間側は、アナザワルド王国第三王女ミト=アナザワルドを始めとする超武刃団の面々とアナザワルド王国軍第十三騎馬軍団長ロイ=デストが。
魔王軍側は、魔王シンの娘であるマナ、魔王軍の大将である影光、天驚魔刃団四天王、そしてリュウカクを始めとした各種属の族長達である。
両陣営は長い机を挟んで向かい合って着席し、いわゆる議長席にはシルエッタが、クレナ・ミナハ・キクチナの三人、そしてフォルトゥナと竜人三人組の監視の下、座らされていた。
緊張感に包まれた重苦しい空気の中、最初に言葉を発したのはミトだった。
「まずは、ホン・ソウザンの民を救ってくれた事に対し、アナザワルド王国国民を代表して礼を申し上げます、ありがとうございました」
立ち上がって頭を下げたミトに対し、マナも立ち上がって返礼した。
「しかし、何故私達を助けたのですか?」
ミトからの質問に、マナは答えた。
「いえ、我々も我々と暗黒教団との戦闘に無辜の民を巻き込むのは本意ではありませんでしたので」
「……魔王軍の残党の言葉とは思えませんね」
警戒感を露わにしているミトに対し、マナは軽く息を吐いて呼吸を整えると、自分の思いを口にした。
「畏れながらミト=アナザワルド殿下、私は……魔族と人間の共存を望んでいます」
それを聞いたロイ=デストはマナの言葉を一笑に付した。
「フン、ここにいる魔族共の面構えを見れば、とてもそうは思えんな」
「何だとこの野郎!!」
「テメェ……!!」
「面白い……やるか、魔族共?」
「や、やめて下さい!! 皆さん落ち着いて下さい!!」
一触即発の空気に、マナは慌てて族長達を宥めた。
「マナさん……と言いましたね。つまり私達は交渉の為の人質だと?」
「い、いえ!! 決してそういうつもりでは……」
「はっきり言っておきます、私達を人質に取っても無駄です。何故なら、聡明なる国王陛下は娘の命よりも国の行く末を選ばれます。そして、城内の人々は私達が生命に換えても傷一つ付けさせないからです!!」
流石に、先の大戦で何度も死線を潜り抜け、この国の人々から『救国の英雄姫』と讃えられる女傑である。こちらの心を真っ直ぐ貫いてくるような鋭い視線に、マナが思わず息を呑んだその時だった。
「ふぁ〜〜〜〜〜」
張り詰めた空気を雲散霧消させてしまうような大あくびが軍議の間に響き渡った。
その場にいた全員の視線が、一斉にあくびの発生源に向いた。全員の視線の先にいたのは……影光だった。
「し、師匠!?」
「やれやれ……どいつもこいつもダラダラダラダラとオチの無い話しやがって。これならお前らの代わりに、つばめとすずめを呼んだ方がまだ有意義な話が出来るぜ」
影光の言葉にその場にいた全員が色めき立ったが、影光はそれを一切意に介さず、マナとミトに言った。
「マナ!! あの暗黒樹を一刻も早く何とかしないと和平もへったくれも無いんだぞ!?」
「師匠……」
「お前もだミト!! あのバカ丸出しの大木を放っておいたら、この国の人達にとんでもない被害が出るんだぞ!? お前がやるべき事は、俺達ともめて無駄な時間を使う事か!?」
「そ、それは……」
「俺達が今話し合うべき事、それは……どうやって暗黒樹を叩き潰すか……その一点のみッッッ!! その話が出来ん奴は今すぐこの部屋を出て、城の便所掃除でもしてろっ!!」
場が静まり返ったのを見た影光は、シルエッタに視線を向けた。
「おいシルエッタ!! 暗黒樹についての情報、特性、弱点、倒し方、全部吐けコノヤロー!!」
影光に促されてシルエッタは口を開いた。
「暗黒樹を消滅させる為には──」




