両雄、襲いかかる
211-①
「行くで、魔っつん!!」
〔ハイ、ご主人様!!〕
武光は、階段を駆け下りながら、左手に握った魔穿鉄剣の柄に人差し指を引っ掛け、握りを順手から逆手に素早く持ち替えた。
「オラァァァッ!!」
〔ヒャッハーーーーー!!〕
袈裟懸けに振り下ろされた鋭い一撃は、フリードに襲いかかろうとしていた教皇の尻尾の先端を “ガン!!” と床に叩きつけた。
「大丈夫か!? よう凌いでくれたな」
フリードは乱れた呼吸を整えつつ、イットー・リョーダンを武光に差し出した。
「はぁ……はぁ……ま、俺達だけでも余裕だったけど……アニキだけ見せ場が無いってのも可哀想だからね、アニキの分をちゃんと残しといてやったぜ。な、皆?」
「はぁ……はぁ……フー君の言う通りです、隊長!!」
「我々に感謝してくださいね、隊長殿…………ふぅ」
「え、えーと……照れなくても良いんですよ? なんて……」
イットー・リョーダンを受け取りながら、武光は苦笑した。
「やれやれ……どいつもこいつも勉強熱心やで、まさか舞台を盛り上げる為の演出まで学んでくれとるとはな?」
「フフン……アニキ、俺たちの事、もっと褒めてくれても良いんだぜ?」
「ああ、打ち上げの時にな?」
「皆、アニキの奢りだってよーーーーー!!」
「オイ!? ったく……行くぞ!!」
武光は双剣を構えると、再び教皇に襲いかかった。
211-②
影光は、眼下で激闘を繰り広げている武光達と教皇を見下ろし、高らかに笑った。
「へっ、どうだこの教皇ヤロー!! だから言ったんだ、あんまりこの俺……の本体をナメるなってな!!」
それを聞いた武光がすぐさま抗議する。
「コラーーー!? お前、戦ってへんのに偉そうにすなーーー!!」
「心を乱すでないこの未熟者め!! 目の前の敵に集中するのじゃ!!」
「おまっ……ホンマに後でシバキ倒したるからなコラーーー!!」
「さーて、本体もおちょくった事だし……」
影光は再びシルエッタに視線を戻した。徐々に追い詰められる教皇を目の当たりにし、その顔からはいつもの微笑が消えている。
「そんな……あのロイ=デストをも退けた究極影魔獣が……!?」
「言ったろ? アイツはこの俺の本体だって。さぁ、観念してもらおうか。お前には……俺が天下を奪る為の礎になってもらう!!」
ネキリ・ナ・デギリの切っ先を突き付けられたシルエッタであったが、微塵も動揺する事無く、微笑を浮かべた。
「実験体14号……私の所へ戻って来る気はありませんか?」
「何だと……?」
「今まで、貴方の事は失敗作だと見なしていましたが……魔王軍の残党をも傘下に収め、暗黒教団の総本山にまで乗り込んで来た以上、私も考えを改めざるを得ません、貴方は……今まで私が生み出してきたどんな影魔獣よりも優秀です」
「……」
「貴方は天下をその手に掴みたいのでしょう? 魔王軍の残党などと組んだ所で……その望みは叶いませんよ?」
影光は階下で戦う仲間達に視線を落とした。
「配下の魔族共が気になりますか? 安心しなさい。私の手にかかれば、あの魔族共の記憶を引き継いだ影魔獣などいくらでも作り出す事が出来るのです」
「……」
「何を迷う必要があるのです? 奴らは所詮野蛮な獣……あのようないつ裏切るとも知れない獣共と違い、私の影魔獣達は、何があろうと貴方に絶対の服従を誓います。貴方の覇道に大いに貢献するでしょう。さぁ……私の手を取るのです」
そっと手を差し伸べたシルエッタに対し、影光はネキリ・ナ・デギリを無言で鞘に納めた。これには階下で戦闘中の四天王も目を見開いた。
「影光……!?」
「グォ……カゲ……ミツ……!?」
「影光さん……まさか!?」
「フン……あのバカ……」
影光は笑顔でシルエッタの手を握り、シルエッタは妖しく微笑んだ。
「フフフ……それで良いので──」
「ふんっ!!」
「えっ!?」
影光は握った手を勢いよく引っ張り、思わず前につんのめったシルエッタに、『孤高の侍』『鋼鉄のケツを持つ男』『ケツだけで試合を組み立てられる男』『ド演歌ファイター』など数々の異名を持つプロレスラー、越○詩郎ばりのヒップバットを喰らわせたって!!
……と、思わず地の文が越○詩郎風になってしまう程の見事なヒップバットを炸裂させた影光は、衝撃でうつ伏せに倒れたシルエッタに素早く覆い被さり、シルエッタの右足を両足で挟み込んで足首と膝を極めると同時に、顔面を抱え込んでフェイスロックで締め上げた……STF(=ステップオーバー・トゥホールド・ウィズ・フェイスロック)である!!
影光は階下の四天王に向かって叫んだ。
「よっしゃーーー!! 捕獲したぞーーーーー!!」




