両雄、並び立つ
204-①
現れた教皇ヴアン=アナザワルドと聖女シルエッタ=シャードに影光は鋭い視線を向けた。
「男と男の真剣勝負に割り込むんじゃねえ、すっこんでろ!! このゲロカス=うん子が!!」
「ちょっと!? 武光様の影魔獣の人!! 女性をそんな渾名で呼ぶのは良くない事ですよ!!」
シルエッタに、勇ましくネキリ・ナ・デギリを向けた影光だったが、ナジミに怒られてしまった。
「…………おいおい本体、お前『うん子』とか……女性をそんな渾名で呼ぶとか最低かよこのヤロー!?」
「お前やお前!! 『うん子』をなすりつけて来んなコラァ!!」
「控えなさい!!」
言い争う両者の頭上から、氷のように冷たく透き通ったシルエッタの声がピシャリと降ってきた。
「崇めなさい!! 讃えなさい!! 貴方達は今、我ら暗黒教団の偉大なる最高指導者……教皇陛下の御前にいるのですよ? 頭を垂れて跪くのです!!」
「ほう……お前が親玉か!! お前しばき倒したるからなアホ!! ボケ!! カス!!」
「降りてきやがれこのクソヤロー!! ボッコボコにブッ飛ばしてやるぜこの耄碌ジジイ!!」
ダミ声猛々しく、悪役感丸出しで狂犬の如く盛大に吠えかかる武光と影光の前に、超武刃団の中からミトがスッと進み出た。
「ん? どないしたミト?」
「アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドの名において命じます。二人共、歯を食いしばりなさい…………おらあっ!!」
「うげぇっ!?」
「おぶうっ!?」
ミトは 《王家のダブルボディーブロー》を 繰り出した!!
会心のいちげき!!
武光は もんぜつした!!
影光も もんぜつした!!
「全く……本人が本人なら、影魔獣も影魔獣ね。大叔父上様に……王家の一員に対し何たる口を……二人共、不敬罪ッッッ!!」
ミトは、足元で蹲って悶絶している礼儀知らずと礼儀知らず(影)を一瞥すると、大叔父であるヴアン=アナザワルドに一礼した。
「ご無沙汰しております、大叔父上様」
「ミトか……」
「御機嫌麗しゅうなどという挨拶は割愛させて頂きます。大叔父上様……大叔父上様が暗黒教団の首魁というのは真実なのですか……!?」
「フフ……その通りだ」
「……何故です!! 大叔父上様は、立派にホン・ソウザンを治められ、名君との声も高いというのに……」
「うるさい!! 先王が……兄上が崩御したあの時……私こそがこの国の王位を継ぐはずだったのだ……それを貴様の父は!!」
怒りに震える教皇に武光と影光が抗議した。
「はぁ!? お前そんな下らん理由で国中の人に迷惑かけとったんかアホンダラ!!」
「耄碌してんじゃねーぞ!! このボケ老人が!!」
「不敬罪ッッッ!!」
「ぐへぇっ!?」
「ほげぇっ!?」
再び放たれたミトの《王家のダブルボディブロー》を鳩尾に喰らい、武光と影光はまたしても悶絶した。
「大叔父上様……今すぐにこんな愚かな事は止めて私と共に父の元へ参りましょう。大叔父上様の罪が少しでも軽くなるように、及ばずながら力を尽くさせて頂きます!!」
ミトの必死の懇願に対し、教皇はワナワナと肩を震わせ、憎悪の込もった顔を向けた。
「貴様も……この私を愚かだと嘲笑うのか、貴様の父のように!! そうだミトよ……お前を捕らえてあやつの前で八つ裂きにしてくれよう、あやつの苦悶の表情が目に浮かぶようだ……フハハハハハ!!」
「そんな……大叔父上様……」
拳を強く握り締めて俯くミトを前に、不敬罪ボディブローで悶絶していた武光がゆっくりと立ち上がった。
「……ええ加減にせぇよお前……!!」
「貴様……この国の真の王たる私に何たる無礼!! 何たる不敬!!」
「それがどうした!! さっきから何やねん、だらだらぐだぐだ……しょうもない話しやがって……」
「しょうもないだと……貴様の如き下賤の者に何が分かる!!」
「何が分かるやと……? 分かるわアホンダラ!! その話……オチ無いやろ?」
「は……? オチだと……? 貴様、ふざけているのか!!」
「それはこっちの台詞じゃボケ!! お前のしょうもない話はどうでもええ、そんな事より……何俺の可愛い妹分泣かせてくれとんねんコラァ!!」
「た……武光」
武光の言葉にミトは顔を上げた。
「お前ミトを見てみぃ!! 涙で顔ぐちゃぐちゃになっとるやろがい!! お前親戚やったらな、コイツを見て何とも思わへんのかアホ!? 可哀想に……めちゃくちゃブサイクなってもうてるやんけ!! 死ぬほどブッッッサイクなっとんねんぞ!!」
……武光は、ミトの王家のボディブロー(泣)を喰らい、クレナとミナハとキクチナにボコボコにされた。
「痛てて……マジやんコイツら…………とにかくお前は、『俺の妹泣かせた罪』でボッコボコのめったくそにシバき倒すッッッ!!」
「手伝ってやるぜ、本体」
「分身……?」
イットー・リョーダンの切っ先を教皇に向けた武光の隣に、影光が並び立った。
「シルエッタは俺が相手をしてやるから、お前は奴をぶちのめせ。ブチのめすまでは協力してやる」
「どういう風の吹き回しや、分身?」
「……俺には、ミトと過ごした日々の記憶も複製されている。だからミトを泣かせたアイツが許せん!!」
「そうか……ほんなら頼むぞ、分身」
「ああ……任せろ、本体」




