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斬られ役、異世界を征く!! 弐!!  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
聖剣士強襲編
20/282

聖女、告げる


 20-①


「た……助かったぁぁぁー」


 インサンが完全に逃げたのを確認すると、武光はヘナヘナとへたり込んだ。クレナ達が足止めしていた影魔獣も、影のある元となっていたインサンが逃走した事で消滅したようだ。


〔大丈夫か、武光?〕

「おーう、大丈夫やイットー」

「全く……相変わらず情けないわねえ」


 ヘロヘロの武光を見て、ミトは呆れたように言った。


「だってアイツ143人も殺してんねやろ!? ヤバ過ぎやって……怖い怖い怖い無理無理無理!!」

「神々の力を使えばあんなの余裕で倒せるでしょうが……どうしてあの力を使わなかったのよ!?」

「……無いよそんなもん」

「……えっ?」

「……無いねん、神々の力」

「ちょっ……無いってどういう事よ、無いって!?」

「いやー、模造品の異界渡りの書を使ったせいか、異界渡りの時に得られる三つの能力の内、《神々の力》だけ宿ってへんねん。あの力があれば、戦闘力が超絶大爆上げやったんやけどなぁ」


 ちなみに、異界渡りの書を使った際に得られる残りの二つの能力とは、《この世界の言葉を理解出来ようになる力》と《見えない物が見えたり、聞こえない声が聞こえるようになる力》である。


 前者は名前の通り、この世界の言語を理解し、会話出来るようになる他に、長さや重さなどの単位も自分の元いた世界の単位に自動的に置き換わって認識出来るようになるという、超便利能力である。


 そして、後者は神官や巫女として厳しい修行を積んだ者か、あるいは強い霊感を持つ者にしか見ることの出来ない神々の姿を見たり、霊魂の声を聞いたり出来るようになる能力で、いずれも、この世界に平和をもたらす為に呼ばれた者を助ける為の力である。


 困り顔でポリポリと頭をいている武光を見て、ミトは大きなため息を吐いた。


「はぁ……どうしてよりにもよって神々の力が無いのよ……貴方が魔王を倒した時のあの力さえあれば楽チンだったのに……」



「えっ? 武光さんが」

「魔王を……」

「た、倒した……?」


 クレナ達に視線を向けられ、武光は慌てた。


「ワ……ワタシ コノクニ ノ コトバ ヨクワカラナイネー HAHAHA!!」

「嘘つけ!! さっきまで普通に会話してたじゃないですか!? 何を今更異国人ぶってるんですか!!」


 クレナは急に異国人ぶる武光にツッコむと、今度はミトの方を見た。


「姫様!?」

「ワ……ワタシモ コノクニ ノ コトバ ヨクワカラナイ」

「いやいやいや!! それは無理がありますって!! あ、そうだアスタトの巫女様なら!!」

「えっ!? や、やだなぁクレナちゃんってば。魔王を倒したのは、光の勇者リヴァル=シューエン様です。勇者様が魔王を倒したところを貴女達もその目で見たでしょう? あははは……」


 武光達はなんとか誤魔化そうとしたがクレナは怪訝な表情のままだ。


「お三方共、全然口笛吹けてませんけど!? 何か……隠してますね?」

「いやいやいや、何も隠してへ…… “プスリ” ……いだあああああああああああっ!?」

「武光様!?」


 武光が突如として地面を転げ回った。イットーが慌てて声をかける。


〔どうした武光!?〕

「な……何か大きいはちみたいなんに刺されたっぽい……」

〔蜂……? あれかっ!?〕


 武光の頭上では一匹の虫が輪を描くように飛んでいた。

 すずめひなくらいの大きさはあろうかという蜂に似た黒い虫は、そのままどこかへ飛び去ってしまった。


「武光様、しっかりして下さい!!」


 悶絶する武光に対し、ナジミは癒しの力を使った。

 ナジミの癒しの力により、武光は落ち着きを取り戻した。


「ふう……助かったわナジミ」

「良かったです」

「全く……せっかくあのインサンとかいう殺人鬼を撃退出来たのに、蜂に刺されて死ぬとかシャレにもならへんわ……」

「そのインサン=マリートなんですけど、どうしてあの男が暗黒教団にいるんでしょう?」


 ナジミの言葉に武光は首を傾げた。


「はぁ? アイツが暗黒教団に参加した理由なんか知るかいな」

「いえ、そうじゃないんです。『インサン=マリートがいる事自体』がおかしいんです。だって……あの男は-----」


 20-②


 一方その頃、アジトへ逃げ帰ったインサンは自室へと続く、長く薄暗い廊下を歩いていた。


「クソがっ……アイツら……絶対にブチ殺して……ん?」


 インサンは足を止めた。部屋の扉の前に誰かが立っている。


「お帰りなさい、聖剣士インサン」

「……シルエッタか……」

「大丈夫ですか? 随分と手酷くやられたようですが……」


 表情こそ心配そうにしているが、内心では嘲笑と侮蔑の念を抱いている事がありありと分かる。インサンは苛立いらだたしげに吐き捨てた。


「邪魔だ、そこをどけ……テメェは影魔獣バケモノと遊んでな!!」

「……額から血が出ていますよ?」

「うるせぇ!! こんなもん、どうって事は…………っ!?」


 インサンは額から流れる血を拭い、そして気付いた。血が……黒い。

 ドス黒いなどというものではない……まるで墨汁のように真っ黒なのだ。


「ど、どうなってやがる……どうして血が……こんなに黒いんだ!!」


 困惑するインサンにシルエッタは微笑みかけた。



「ふふふ……『どうして』ですって? だって貴方は……私が生み出した影魔獣バケモノなんですもの」



 20-③


 ……ナジミは、武光の問いに答えた。


「あの男は……インサン=マリートは……去年の冬、王国軍に捕らえられて……大衆の面前で処刑されているんです」




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