斬られ役、帰って来る
2-①
……あの男が帰ってきた。主役のくせに、チートもなけりゃ、特別イケメンでもない、斬られてばかりの時代劇俳優!! そう……!!
「天下御免の斬られ役っっっ!! 唐観武光……見参ッッッ!!」
突如として現れ、影魔獣を真っ二つに斬り裂いた男を銀髪の少年は睨みつけた。
「馬鹿な!! 僕の影魔獣を斬り裂いただと……!? お前は一体……!?」
ナジミは目の前の光景が信じられずにいた。本当に……本当にあの人が帰ってきたのか!? でも、一体どうして!?
武光を睨みつけていた少年は、苛立たしげに吐き捨てた。
「……殺してやるよ、お前。決して逃れる事の出来ない永遠なる闇の鎖に繋がれ、暗黒の焔にその身を焼かれながら……この僕を怒らせた事を後悔するといい!!」
戸惑うナジミの視線の先では、少年が、ロングコートのポケットに手を入れて、何かを取り出そうとしていた。
「あー……少年? カッコつけてる所悪いんやけど……その……ズボンのチャック全開やで……」
「えっ!?」
「隙ありぃぃぃっ!!」
「ぐうっ!?」
少年が思わず視線を下に向けた一瞬の隙を突いて、武光が胴タックルで少年を吹っ飛ばした!!
セコい!! 本物の武光様だ!! ナジミはようやく目の前に現れたのが本物の武光だと確信した。
「ふ……ふざけやがってぇぇぇぇぇっ……うっ!?」
少年は立ち上がろうとしたが、動くことが出来なかった。首筋に……剣が突きつけられている。
〔おっと、危ないから動くなよ……怪我するぞ!!〕
武光の剣が言葉を発した。武光の愛刀、《超聖剣イットー・リョーダン》である。
「この僕が……選ばれし人間であるこの僕が……っ!!」
屈辱と憎悪のこもった視線を向けてきた少年を武光は一喝した。
「やかましい!! 選ばれたか何か知らんけど、こんな事してもええと思っとんのかドアホ!!」
「僕はあの方に選ばれた人間だ……力を持たない弱者は、僕のような強者に黙って従っていれば良いのさ!!」
「アカン、重度の厨二病やんけ……」
ニヤリと笑う少年を見て、武光は特大の溜め息を吐いた。
武光は、ありとあらゆる怪我や病気を治す《癒しの力》を持つナジミに言った。
「お前の癒しの力で治したれよ……」
「いやいやいや!! 私の癒しの力にそんな洗脳紛いの力はありませんから!! それに、年頃の男の子なら……ある意味健全ですっ!!」
武光は、『突然教室に乱入してきたテロリストをバッタバッタと蹴散らし無双する妄想』をしていた中学生の頃の自分を思い出して、赤面した。
「ま、それもそうか……でも、お前は健全過ぎや!! ナジミ、そこにあるロープでコイツを縛れ」
「は、ハイっ!!」
「くっ……!!」
ナジミは少年の両手首を後ろ手に縛り上げ、さらに、足首もキツく縛り上げた。
武光は、イットー・リョーダンを鞘に納めると、地面に転がされている少年に対し、今まで悪役として飽きる程言ってきた台詞を吐いた。
「さぁ……知っている事を洗いざらい吐いて貰おうか!! とっとと吐いた方が身の為だぜぇ……あぁん?」
「フン、お前のようなゴミが、選ばれし人間であるこの僕に、気安く話しかけるな」
ゴミ呼ばわりされた武光は、ニヤリと笑った。
「そーかそーか、よう分かったわ…………お前はフ◯ちんで市中引き回しじゃーーーーー!!」
少年のズボンに手を伸ばそうとした武光をナジミが慌てて制止する。
「ちょっ、武光様!? それはダメです!!」
「何がアカンねん、コイツが自分で『弱者は強者に黙って従っとけ』って言うたんやんけ!! 俺の方が強いからコイツはフ◯ちんや、フ◯ちんで市中引き回しやフ◯ちんでッッッ!! 今日からコイツは……『選ばれしフ◯ちん野郎』じゃーーー!!」
「れ……連呼するなーーーッッッ!!」
「ぐへぇっ!?」
ナジミの お仕置きジャーマン!
会心の一撃!
武光は 悶絶した!
「ぐ……おおおおお……」
「全く、帰ってきたと思ったら……そういうのはダメです!!」
「す、すまん……」
しばらく会わない内に、お仕置きの威力が2倍……いや、10倍くらいにアップしている。武光はヨロヨロと立ち上がると、少年を見下ろした。
「痛たたたたた……さてと、コイツは王国軍に引き渡すとして……ナジミ」
「はい?」
「お前……何でそんな変な仮面してんの?」