死神、制裁する
195-①
王国軍最強の将、白銀の死神ロイ・デストはヴアン=アナザワルドの身柄を確保すべく、次々と現れる影魔獣を蹴散らしながら、単身ソウザン城の最上階へと向かっていた。
「ふん……雑魚共が」
突進してくる翼の生えたヘドロの巨人の攻撃を真上に跳躍して回避し、武光から預かった勇者リヴァルの剣……獅子王鋼牙を振るって脳天から真っ二つに斬り下げ消滅させる。
「……斬れ味は落ちていないようだな」
元はと言えば獅子王鋼牙は、三年前の大戦の折、ロイがリヴァルに譲った愛用の斧薙刀である《屍山血河》の柄を切り詰めて剣に加工したものである。
ロイは久々に手にする愛用の得物の斬れ味に満足すると再び歩き始めた。
ロイ自身はいちいち数えていなかったが、ここに到達するまでに倒した敵は、剣影兵が五十体、槍影兵が三十八体、弩影兵が四十体、そして……サンガイハオウが六体である。
五階建てのソウザン城、現在ロイがいるのは二階である。目の前に三階へと続く階段が見えた。
「そこまでだ、この狼藉者め!!」
「ここから先は通さないわ!!」
歩みを進めるロイの前に階段脇の通路から飛び出して来た二つの影が立ちはだかった。漆黒の鎧を纏った金髪碧眼の端正な顔立ちの青年と、漆黒のローブを纏った若い女である。
「何だ……貴様らは」
ロイの問いかけに、男女は高らかに答えた。
「フフフ……我こそは暗黒教団、六幹部が一人!! 聖勇者!!」
「同じく、暗黒教団六幹部が一人!! 聖賢者とは私の事よ!!」
「ほう? 貴様らが暗黒教団とやらの幹部か……」
腰に差した剣を聖勇者はスラリと抜いた。
「暗黒教団に刃向かう悪党め……この聖勇者様が成敗して──」
「待って、奴がいないわ!?」
「えっ!?」
一瞬にしてロイの姿が二人の視界から消えた。
「そんな!? 一体何処に──」
「遅い」
「ぶへっ!?」
背後から声をかけられ、聖勇者が振り向こうとした瞬間、聖勇者は顔面に強烈な裏拳を叩き込まれて吹っ飛んだ。
まるで鉄の塊で顔面を殴打されたかのような激痛に、顔を押さえて床を転げ回る聖勇者を見下ろしながらロイは問うた。
「貴様……自らを勇者だと名乗ったな?」
「そ……それがどうした……私こそ聖なる勇者……がっ!?」
ロイは聖勇者の前髪を左手で掴んで無理やり立たせた。
「かつて、光の勇者リヴァル=シューエンは私に言った。『勇者』とは……『勇気ある者』の事……そして勇気とは『弱き者を守る為に、相手が自分よりも強大であろうと恐れず挑む心』の事……その心さえあれば、力など無くても誰もが勇者になれると……だが、貴様らは何だ?」
それは、静かだが、怒気を含んだ声だった。
「……貴様らが何を相手に一体どんな勇気を見せたというのだ。貴様らは力を持ちながら……その力を弱き者、罪なき民達に振るい虐げ、徒らに世を乱しただけではないか……」
ロイは聖勇者の前髪を掴んだまま、もう片方の手で聖勇者の顔面を殴りつけた。
「グヘッ!?」
「どうした……違うと言うのなら言ってみるがいい!!」
「うぎゃっ!?」
二発目の鉄拳が聖勇者の顔面に炸裂した。
「言え……言ってみろ!!」
三発、四発、五発、六発……容赦無く顔面に叩き込まれ続ける拳によって聖勇者の端正な顔は見る影も無くなり、ボロ雑巾となった。
聖賢者は聖勇者を助けようとしたが、ロイの一睨みで、金縛りにあったかのように硬直してしまった。
動いたら殺される……!! 聖賢者の思考は恐怖で埋め尽くされ、頭の中から『たたかう』や『にげる』という選択肢は消し飛んでしまった。
「……フン」
ロイが拳を振り上げたその時、大きな振動がソウザン城を襲った。
「何だ……!?」
「しょ、将軍ーーーっ!!」
ロイの下に配下の兵士が現れた。
「どうした? 今の衝撃は何だ?」
兵士は困惑しつつも報告した。
「城が……魔王城がホン・ソウザンの街を囲む城壁に突っ込んで来た模様です!!」